#176 復讐を誓う皇子と怠惰なドラゴン 8
「じゃあ次は新しいジュメルだけど」
「はい! 全力を以てシンビオス皇子を母星までお送りいたします。つきましてはカグヤに宇宙空間での人間の対処法をレクチャーしてもらおうと思っています。あと確認したところ宇宙船の航行には問題ありませんが、生活を補助する管理頭脳が不足しております。日下部船長に予備のウサギを譲っていただきたいと思っています」
こっちもいまレーティアに調べさせてるがひどいらしいな。
「ひどいですな。王族で何不自由なく生活していた人間がよくも耐えれたなと」
「なにかシンビオス皇子が要求するとめんどくさがって復讐諦めて国に帰ろうと言い出すから意地になって我慢していたようです」
ひどい話もあったもんだ。
レーティアにも言ったが、ウサギも出すし、金もいくら使ってもいいからさ、人間らしい生活をさせてやってくれ。
俺、生前はともかく宇宙では裕福な生活をさせてもらっているので、あいつを見てると良心の呵責がわく。
何の縁もゆかりもないが放っておくのは心苦しい。
最悪俺が国まで連れて行ってもいいと思ったくらいだ。
「たまに船長は積極的になりますよね」
自覚はある。
というか積極的にならない人生を送りたい。
「そんなこと言わずに晃君はもっと積極的にスペースオペラするべきよ!」
いまが手一杯です。
「まあその説得は後にするとして」
断りたい、そして逃げ出したい。
「急にジュメルが消えるとそれはそれで不自然だからね、とりあえずこれでいきましょう。ジュメルは晃君とカグヤが説得して従順になったということにしておいて」
まあそれくらいは協力しよう。
「シンビオス皇子を母星に送った後、自分はいかがしましょうか?」
新ジュメルの問いに女神は少し考え、
「そうね、とりあえず待機で。罪滅ぼしもあるから犯人探しに協力してあげなさい」
「かしこまりました」
「まったく、あのバカがもうちょっとうまくやっていたら久しぶりに砲撃戦が見れたかもしれないって言うのに……、ああ腹立たしい」
そう言って再びハリセンを持ち出して空を叩く。
それを見て怯えるカグヤに聞くと空間を歪ませて旧ジュメルを叩いているそうだ。
何でもありだな、女神様。
やっぱりそれってSFの領分じゃないよね?
「スペースファンタジーです!」
はいはい、そうでしたね。
「さて晃君とも少し話したいんだけど……」
あんまり気は進まないけど、まあしょうがない。
「ちょっと待ってね」
そりゃあ待ちますけど?
なあカグヤ、いいタイミングだから椅子に座りたいから離れてくれないか?
「船長、あとで2日ほど引きこもらせてあげますからしばらく私の前に立っていてください!」
お前必死だな。
……5日で手を打とう。
「それでいいです! だから私の盾になってください!」
即答か、もっと長く言えばよかった。
それはさておき5分ほどたったが、モニターの中の女神は腕組みしてじっと立っているだけだ。
「……う~ん、これはどういうことなのかな? 気配消して隠れていたら忘れられると思っているのかしら?」
と女神がポツリとつぶやくとモニターにさらにワイプが増える。
そこには前髪が目を隠くすほど伸びた気弱そうな少女が現れる。
「滅相もありません! ご歓談が終わった後に挨拶をと思っていました!」
少女は慌ててそう言い放つ。
「さっきまでずっと一時中断してたけど?」
「皆さんが人型になっていましたのでわたしも合わせようとアバターを製作していまして、今完成したところなのです、本当です!」
と弁明する。
……で、あれは?
「この惑星クリドリのドラゴンです」
ああ、なるほど。
「他の子たちで気がすんで自分のことを忘れて帰ってくれないかと待っていたわけではないのね?」
「もちろんです! 創造主がいらしているのに挨拶をしないなどありえません!」
よく見るとプルプルと震えているな。
「正常な反応です」
と、俺の後ろで震えているカグヤ。
「じゃああなたの話を先に済ませましょうか」
その笑顔が怖い。
「う~んとこのクリドリはここのところ宇宙に出た人間が少ないわね、ここ5年ではワースト1よね」
「そ、それは……、惑星ガーランドにはゲートが4つ、惑星バトロにはゲートが3つあり、これらの星系にはさまれていますので、この惑星は宇宙船の通行量も多い星です。ですのでそんな宇宙船乗りに休んでもらうべくリゾート化しております。確かにこの星の住人は最近宇宙に出ておりませんが、宇宙は身近な存在として感じており、これも……スペースオペラなのではと……考えており……ます」
苦しい言い訳と言う自覚があったのだろう、女神の笑顔という圧にあっさりと屈する。
「……お許しください!」
クリドリは頭を下げる。
そんな様子に女神は優しく、
「もちろん許すわよ、あなたまで調整室に連れて行くわけないじゃない」
と言う。
「あ、ありがとうございます!」
「うん、だから1年以内に1人は宇宙船乗りを出してね」
許されたと思いほころんだ顔は一瞬で凍り付く。
「創造主、……それはちょっと期間が……」
「ああそうか、期間が短いかぁ。じゃあこうしましょう。3年で5人ね」
「……ええっと?」
おお、これはやばいヤツだ。
おいクリドリのドラゴンよ。
とりあえず頷いておけ。
「え、でも3年でって無理……」
俺の言葉に否定の言葉を発した瞬間、
「そっかぁ。やっぱそうよねえ。私もそうじゃないかと思ってたんだ。5年はいるよね~、じゃあ5年で10人ね」
「――――!? わ、わかりました! 頑張ります!」
ようやく気がついたようだ。
これはえげつない。
自分のほうが立場が上なことを利用して、嵩にかかって要求を増やす作戦だ。
これは本当にひどい。
「そう、じゃあ10年で20人ね、絶対だからね」
そしてさらに増やすとはなんと性悪な!
おい、クリドリのドラゴンが絶望的な顔で渇いた笑いをしているぞ。
こいつは本当に女神なのか?
「いや~この前このやり方見せてもらって、一度使ってみたかったのよ」
誰だ!
悪魔の所業を教えたバカは!
すみません、少し間隔があきました。
仕事がバタバタしているうえに今日も昼から花見に参加してきます。
ですので酔いつぶれる前に投稿しておきます。
明日、二日酔いでなければ何話か投稿しようと思っています。