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#172 復讐を誓う皇子と怠惰なドラゴン 4

「クサカベ船長は復讐自体は否定しないのだな?」


 国に到着してからの行動について細々なアドバイスをしていたら皇子はそう言う。


「そこのポーラや我の管理頭脳、他にも情報を求め話した者共は、みな口を揃えて復讐など何も産まないだの、虚しくなるだけだと言う」


 まあ一般的にはそうでしょうね。

 俺は運の良いことに、家族を殺されたこともなければ人を殺したいほど憎んだこともない。


 レオンに似た友人にだって腹は立てているが殺そうとまでには至っていない。

 あんなやつのために自分の手を汚したくもない。


 だから皇子の気持ちは正直わかりません。


 ただ死者を悼む気持ちはわかるつもりです。


 突然家族を失う辛さは心中察するに余りあります。

 遅れましたが、お悔やみ申し上げます。


「よい」


 家族の死と言うのは難しい。 

 働いていた頃にこんなことがあった。

 従業員の一人が親が危篤状態でここ2、3日がヤマだと言ってきた。

 長い闘病生活だったので覚悟はできている、ただ急に休むことになり、迷惑をかけそうなので前もって情報を入れておく、ということだった。


 その話を聞いた同僚が翌日、明日から旅行に行くから先に渡しておきますと笑いながら香典を持ってきて騒ぎが起きた。


 まだ死んでもないのに香典とは何事かと激怒。

 しかし、


「覚悟はできているのでしょう?」

「2、3日には死ぬんでしょう?」

「同じ職場で香典渡さない方が失礼でしょう?」


 と自分は悪くない、お前がおかしいといい放つ。


 他人の建前を鵜呑みにするな、親が死ぬことを当の子供が気にしていないと言っても最低限気遣うことが社会人の礼儀である。

 それを還暦が近い人に説教すると恥をかかされたと逆ギレする始末。

 香典を預かると提案するとお前は信用できない、本人に渡すと言い張り、香典とは故人に対しての供物という意味だと言うとすぐ死ぬから問題ないと言う。

 当事者も腹を立てて受けとらず、その人のみならず他の同僚からも受け取りませんと宣言して場がおさまった。

 その後、旅行中に他界したのでそいつを除いた従業員一同通夜に参列し、お悔やみと香典を渡してきた。


 長くなったが、人の死というものはとてもデリケートと言うことだ。


 なにも知らない人間が適当に言ってはならない。



 復讐はなにも産まない?

 復讐は虚しい?


 平々凡々と生きている人間がそんな言葉を言っても説得力があるものか。


 そんな言葉は実際に家族を殺されて復讐した事がある人間が言わないと説得力がない。


 だから俺は皇子に対してはなにも言えない。


「……そうか。復讐してもいいと言われたのは初めてだ」


 少し語弊がありますよ、復讐をするなと言わないだけですよ。

 まあそれで心が保てるのならばそれもありかなというとこですよ。


「それでも……ありがたい」


 張りつめた顔が少し穏やかになる。 

 自分でも迷いがありつつも、それでも復讐せずにはいられないのだろう。

 俺に理解されて、また俺の提示した案で光明が見え、かつそれが比較的穏便な方法のせいで少し気が楽になったのだろう。



 まあね、復讐した後に本当に虚しくなって後悔するようなら俺のとこに来てみてください。

 背中押した手前、手ぐらい差し伸べますよ。


「どうやって?」


 そんなの状況見てケースバイケースで。

 まあなんとかしますから安心してドン底まで落ちてください。


「……貴方のような人は初めてだ。なんというか不思議な人だ」


 それはどうも。

 ただ老婆心としましてはお父上、妹君を偲ぶべきかと。


「それは……」


 突然のことに気持ちが追い付かず怒りが先行しているのでしょう。

 きちんと弔い、故人とお別れすべきです。

 俺は葬式とは残された者が気持ちを整理する儀式だと思っています。

 一度ただ悲しみに咽び泣くというのも供養というもんです。


「父上は王族が人前で泣くのは何たることだと怒ることだろう」

 

 皇子は一瞬心が揺らいだのか顔をゆがませたが、歯を食いしばる。


 ここにいるのは他星の宇宙船乗りです。

 お国の国民の前で泣くのでないから許してもらえますよ。


「小賢しい詭弁だ」


 まあ詭弁とか屁理屈が俺の得意技みたいなものでね。

 ここまでそれでしのいできたもので。

 なんなら俺らは出ていきますので。

 

「それだと泣いたと言ってるようなものではないか?」


 ちょっと泣けば気が楽になりますよ。

 俺の言葉に皇子は下を向き大声で言う。


「……お前たち全員立て! そして後ろを向け!」


 なんだろうと思ったが逆らわないほうがいいだろう。

 ポーラに目配せをし、言われたとおりに立ち上がり、回れ右。

 後ろに控えていたカグヤとレーティアもそれに倣う。


 するとドンと俺の背中に何かがぶつかる。

 

「振り向かずじっとしておれ!」


 背中から皇子の声が聞こえる。

 感覚からしてどうにも俺の背中に顔をうずめているようだ。

 そして少し嗚咽も聞こえる。


 やれやれ、いくらかわいい顔をしているとはいえ、男に背中を貸して泣かれる日が来るなんて人生長く生きてると色々あるもんだね。


 ……あれ?

 これってやばい?

 この展開はポーラが目をきらめかせているのでは?

 

「…………」


 予想に反しポーラは怪訝な顔で俺を見ている。

 どういう意味だろうか?

 キャプテン×皇子なのか皇子×キャプテンなのかを思案しているとか言わないよな?



感想、誤字報告、評価、ブックマークしてくださった方ありがとうございます。


本日所用で自然に触れあってきました。

正直何が楽しいのわからず苦痛でした。

こんなことがあると主人公のように引きこもりたくなりますが、社会人らしく振舞って過ごしていましたがw


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