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#18 1週間、現実に向き合う

 今日で宇宙に出てから2日、この世界に来てから1週間たった。

 自室はもちろんとして、他の生活スペースも微妙に見慣れたものに囲まれているせいか居心地は悪くはない。

 食生活も米こそないもののその他の食べ慣れたパンや麺類も豊富だし、味噌・醤油などの試作ができ始め、食生活は日に日に向上している。

 正直なところ働いてたときよりも良いものを食べてる気がするが……。

 朝はパン、昼はパンかおにぎり、夜は半額弁当とカップ麺と酒だったしな。


「不健康そうな生活でおすすめできませんが、我慢してストレスを抱えられても困りますのでたまにはそういう不健全な生活も許容しますが」


 カップ麺や菓子パン、ジャンクフードもいずれは生産予定だと言う。


「何でもできるもんだな、というか甘やかしすぎでは?」

「人間はストレスに弱い生き物です。宇宙船という狭い空間は変えられませんので除去できるストレスは積極的に除去するべきです。何か要望があったら遠慮なくおっしゃってください」


 とは言われても今は仕事から解放されて物凄くストレスフリーなんだけど。

 ……強いて言うなら最近俺の死んだニュース言わないのでどうなったのかなとは。

 大事件でもないから新しいニュースがでたらそっちにいくことはわかっているのだけど。

 さすがに死んだ人間が情報に詳しそうな知り合いにメールするわけにもいくまいし。


「そういうことでしたらこちらで調べましょうか?」

「できるのか?」

「地球で使われているインターネットのセキュリティなんて私にしてみればあってないようなものですし、警察の調書や関係者が使っているメールやら行動やら調べれば……」


 しばしの沈黙の後カグヤは口を開く。


「支社長はいまだに否認してますね、自分は悪くないと。副支社長と総務部長は支社長の命令と言って逃げようとしています。社員には会社から箝口令がしかれてて、情報を出さないようにしてますがあまり意味をなしてないようですね。地元では噂が独り歩きしてます。会社に家宅捜索が入り、労基の対応も協議されています」


 それは大変そうだ。

 総務の同僚はさぞてんやわんやだろう。


「緊急の役員会で支社長、副支社長の取締役の解任が決定したともありますが」


「ああ、うちの社長ってワンマンの典型でな、気にくわないとすぐにクビにするんだよ。まあ想定内だな」

「しかし今の段階で解任だと事態を収束させるには悪手ではないでしょうか?」


 カグヤが首をかしげて正論を続ける。


「人が死んで容疑者を解雇して終了では原因究明も何もせず、臭いものにフタ的になりはしないでしょうか?」

「社長は気が短いからな、頭に血が上ったらもう手が付けられない。下の者は黙って従うのが出世する最低限の素質だよ。……たぶん社長的には迅速な対応と思ってるんじゃないのかな」

「……ああ、それはつける薬がないってタイプですね」


 上がそういうタイプでそれにいじめられながらも我慢して出世した人間は同じように下にパワハラをしてもいいと、いやする権利があると本気で思っている。

 その典型例が支社長なわけだが……。

 まあ蔑称がクズノミヤたる所以である。

 

 ……さて、今まで目を背けてきたがいい機会だ、向き合おうか。


「ちなみに、俺の親や妹はどうしてる?」


 変な死に方をしてニュースになったくらいだ、被害者側の家族もそれなりにマスコミが来ているのではないかとは思うのだが、まったくニュースで見ないのでどうなったものやらと。


「へ? 創造主と話が付いているのではないのですか?」


 俺が死に、さらにマスコミが追い打ちをかけるとなると親不孝が過ぎると直視できずにいたのだが、いい加減に向き合おうと勇気を振り絞ったというのにカグヤはポカンとしている。


「あなたが死んだ事実は変えれませんが、マスコミのほうには天涯孤独の人が死んだということで家族に取材が行かないように対策をとっています。実際にはおとといには検死が終わり遺族のもとに遺体が戻り、葬儀のほうが執り行われています。同時に会社の弁護士が謝罪と多額の慰謝料を払うことを約束し、ご家族も会社を訴える気はないが犯人の厳罰を望むことだけを伝えたそうです」


 クズノミヤが多額の慰謝料? 

 他にもおかしいところはあるが、何がどうなったらそうなる?


「創造主がご家族にはあまり悲しまれないように、フォローと生活に困らないようにとお金を渡すようにと地球のドラゴンに指示なさったのですが」

 

 なるほど、その弁護士ってのがドラゴンかその使いかってことか。


「ふぅ」

 

 まあそれならまだよかったのか。

 こんなろくでなしでも死んだら悲しむだろうし、それがこんな死に方だとなるとみっともないうえに迷惑をかけることになっただろう。

 

「申し訳ございません。知っていると思っていたもので」

「いや、俺もさっさと聞けばよかったんだよ。ただ俺のせいで最悪になってたらと思ったら怖くてなぁ」


 とはいえ、俺のストレスを人一倍気にして管理していたんだ。

 その辺のフォローがあってしかるべきと考えるべきだったか。

 少し気が楽になったら、どっと疲れが出た。


「お部屋でお休みになられますか?」

「いや、酒を飲んでくる。今日は覚醒処置をなしで明日二日酔いになるまで飲もうと思ってるから、明日は運動も勉強会もキャンセルさせてくれ」

「……それは構いませんが、私もご一緒させてもらってもいいですか?」


 ドラゴンって酒を、ってか飯を食うのか?


「もちろん私の核は宇宙船の内部にあり、船長と会話するためにモニターを通じて映像を映しているだけで、飲食はできません。でも人間って、話を聞いてもらうだけでも気が楽になるといいます。お酒の席ですし会話もいいものでしょう……って、私おかしいこと言ってます?」

「いや、そういうわけではないさ」


 ただ働いてた頃、激務やらパワハラやらで病み始めた同僚や後輩に同じこと言って飲みに誘っていたなと。

 特に人事として俺が採用した子や研修した子は。


 俺個人としては性質は引きこもりだろうが、たまには人と飲んで馬鹿話でウサをはらすことも嫌いではない。

 もっとも上司やめんどくさい人、嫌いな人とは飲みたくもないが。

 そういった意味では誘いに乗ってくれた人たちには嫌われてはなかったのかなと一安心したくらいだ。


 俺が今までしてたことが自己満足かはたまた相手にも気晴らしになっていたのか、まあ確かめてみるのも一興だろう。


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