#167 花見回 2
少し飲み食いして、屋台をまわり、帰ってきて桜を眺めながら酒を飲む。
夜桜も見てみたいかなと何気なく言ったら、すぐに空は星空になり、桜がライトアップされる。
なるほど、宇宙船の中の庭園だから朝・昼・夜は自在に変更できるってことか。
「これは幻想的です」
なんかポーラがうっとりとして眺めている。
まあさっきも言ったが宇宙船で花見をするとは思わなかったな。
「人間にストレス与えないようにといろいろ施設があるんですよ。船長が1年以上も経つのに知らないだけで」
「そうだよ、もうちょっと興味持ってくれないと」
今後の課題として検討するよ。
「しないパターンだね」
「レーティアも船長のことがよくわかってきましたね」
するよ、いつとは断言しないけど。
「キャプテン、質問があるんですけれど」
花見の席でポーラが神妙な顔をして切り出す。
「どうやったらキャプテンのように間違わないで人を説得できるのでしょう?」
と意味不明なことを言いだす。
するとカグヤとレーティアが血相を変える。
「ポーラ、それは誤解です! 船長は間違ってばかりです。その場しのぎの舌先三寸でどうにかこうにか相手を丸め込んでいるだけです。決して説得に成功しているわけではありません」
「そうだよポーラ姉。そりゃあマスターのペテン師としての才能は認めるところだよ。でもね、それっていいことじゃないよ。人がまっとうに生きる上には必要のない技術なんだよ」
「そうです。詭弁を言ったりなだめすかしたり、論点をずらしたりと決して褒められることではありません!」
「場合によっては相手の弱みに付け込むからね、ゲスの極みとはこのことだよ」
そこのドラゴン&タイガー、お前らは少し言葉を選べ。
俺だってたまには傷つくぞ。
「まだセーフでしょう?」
「まだセーフだよね?」
やかましい。
ただその的確な状況把握はさすがはドラゴンでありタイガーである。
それはさておきポーラよ。
こいつらは俺のことを過小評価しているが、お前は過大評価しすぎだ。
「そうですよポーラ、過大評価にもほどがあります」
「僕らは確かに過小評価だけど、まだ近い評価だよ」
カグヤ、レーティアの言葉をスルーしてポーラと向き合う。
ポーラがどう思ってるのかはわからんが、俺だって間違ってばかりだぞ。
「ですがエクレアさんイザベラさんの時もそうですし、ヨミ博士の時もそうでした。うまく話をまとめていました。ベルベットさんの時などは、私にはどうにもできませんでしたが、キャプテンはどうにか鎮めてくださいました」
ベルベットは特殊だ、あれはカウントするな。
他はまあ、経験かな。
お前の倍以上生きているんだ。
それなりに色々経験してきた。
最近でこそうまく行ってるけど失敗だらけの人生だぞ。
「それは信じられません」
そこは信じておいてくれないか?
俺は大した人間じゃないんだけど。
では一つ昔話をしよう。
俺が正しいことをして失敗した話だ。
「正しいことをして失敗っておかしくないですか?」
ほんとにねぇ。
まあ聞いて判断してもらおう。
俺が仕事でとあるスーパーに配送に行ったのさ。
そこで検品の担当者が忙しそうにしていて、何かあったのかなと思っていたらその店で5歳と3歳の兄妹2人が迷子になって探しているという話で。
店内の放送でも服装とかをいっており、大変だなあと思ってその店を後にした。
その店から1キロメートルくらい離れた場所で店内放送で言っいてた服装の兄妹を見つけた。
「それはよかったです」
いやそれが不幸の始まりだ。
さてその二人は手をつないで歩いていた。
妹は泣いている。
さてどうするのが正しいか?
「それは……助ける以外の選択肢があるのですか?」
まあ人としてその行為は正しいと思う。
俺も嫌な予感はしつつ、それでも泣いて迷子で泣いている子供を見捨てることができなかった。
なぜかというと、俺も幼いころ迷子になり、泣きながら歩いていたら助けてくれた人がいるからだ。
幼いながらにあれほど嬉しかったことはなかった。
そんな俺が迷子を見捨てることができようか、いやできるはずがない。
俺は車を降り、子供たちに事情を聴いて、迷子だということを確認すると車に乗せてスーパーまで戻ったのさ。
「ご立派です」
そしてスーパーで子供を連れて店に入った瞬間、その店の店長に殴り掛かられ、拘束された。
「――! どうしてです!」
「ああ、やっぱり誘拐犯と間違えられたんですね」
「世の中世知辛いよね」
本当にな。
「そんな! でもキャプテンは助けただけで、子供たちも迷子になってただけで誘拐ではないんでしょう?」
一から説明したらそうだ。
だが店長としては方々尽くして探して見つからず途方に暮れていた時に、その子供を抱いたおっさんがやってきたら怪しいと思うだろう?
「ですが!」
まあ俺的には正しいことをした、それは自信がある。
だからと言って相手がどうとるかなんてわからないんだよ。
店長からしたら誘拐犯を捕まえた、自分がヒーローと思ったのかもしれない。
「……そんな」
まあ正しいことをしても失敗することがある。
前にも言ったが世の中、綺麗ごとだけでは成り立たない。
正論だからと言って必ずしも相手が受け入れてもらえるわけではない。
だから抜け道探してどうにか逃げる、避ける、躱さなければならない。
「その論理はどうでしょうか?」
「正論を突き進める自信がないって言ってるように聞こえるよ」
突っ込みがいたらそれはそれで辛いものがあるな。
まあだから間違わないで説得なんて無理すじな話だ。
いろいろ人生を経験して、間違って、それでポーラだけの答えを見つけなさいと。
「……はい」
ポーラが神妙に頷く。
さて長話したら喉が渇いた。
レーティア、ビールのお代わりをもらえるか?
「その前に質問。拘束された後、疑いはすぐはれたの?」
一応保険をかけていてな、子供にはちゃんと迷子だったと親に言うようにと、会社にもこういう事情だから少し遅くなるかもしれないと連絡しておいたからな。
すぐに疑いははれ、解放されました。
ただ恥をかかされたと店長は逆ギレしてたがな。
「それはひどい話だね」
まあ迷子の子供を2人も助けれたんだ。
それで良しとしようじゃないか。
その後店長から謝罪を会社を通して受けたものの、なぜか私はその店に出禁にさせられました。
私的には仕事が減ってよかったのですが私の尻拭いの人には恨まれることに。
本当に世の中ままなりませんw