#163 幽霊船の財宝は呪われているか 13
交渉が無事成立し、ワインの引き渡しと情報の転送が済み、幽霊船を後にする。
「で、呪いがあるとでも?」
カグヤがいぶかしげに言う。
あるわけないさ、そういうのは幽霊と同じく人の思い込みさ。
自己暗示といってもいい。
だけどこれから夫人はそうなるだろう。
呪いなどあるわけがないと頭では否定しても、何か不幸なことが起きる度にワインの呪いが頭をよぎる。
人間、生きていて、ずっと上手くいくことなどありはしない。
些細なミスや、単なる偶然で不幸を呼ぶ。
場合によってはそれが連続することもあるだろう。
その時、夫人はきっと呪いのワインが頭をよぎる。
そしていつしかその原因をワインのせいにすることだろう。
「それだと逆なのでは?」
そうだな、ポーラ。
俺は呪いのワインを渡したのではない。
今後呪いのワインになるものを渡したわけだ。
「マスターお得意の詐欺だね」
レーティア、人聞きの悪い。
ワインに関わる顛末は実際にあったことだぞ。
「あのワインではありませんでしたが」
だがカグヤ。
マーロン三世は俺からすべてのワインをとろうとしてたから、まあ対象と言ってもいいかと。
「キャプテン、そもそもワイン自体に価値があるのですよね。それで交渉するだけだとダメだったのですか?」
夫人も言ってたがな、ワインの価値が高すぎる。
個人情報だからと値をふっかけようとしていたが、いきなり100倍以上のものを出されると勘ぐるだろう。
自分が知らないだけでレオンの情報に価値があるのではないかと。
実際のところはそんなことはない。
単にカジノ船に行きたくないので話題をそらせてうやむやにしようとするだけの意図だ。
だからこその呪われたワインだ。
呪いという付加価値は人によっては気味が悪く、手放したいモノになる。
だが気にしない人には高価なワインだ。
もっと言うならそういういわくを求める人もいる。
夫人は今頃、カジノで俺のケツの毛まで抜こうとしていたことなど忘れて、ワインを眺めてほくそ笑んでるだろう。
俺としてもカジノ船に関わることなく逃げれたのでほっとしている。
「この後マスターのいう通り、ワインに呪いがあると思い込むようになったら恨まれるんじゃないの?」
夫人は呪いなどないと豪語してたんだ、俺を恨まないと思うがな。
ただ不幸が続けばもしかして本物の呪いのワインかと思うようになり、気味が悪くなって、誰かに譲るだけのことさ。
「こういうワインの使い方もあるんですね」
はっきりいって正しくはないがな。
ちゃんと飲んでもらいたいもんだ。
「マスターが言うな、って感じだよ」
それについては素直に申し訳ございません。
さてレオンはどこに向かったって?
「惑星クリドリです」
やっぱりテクノシアではなかったか。
じゃあ俺らはテクノシアに向かうか。
「キャプテン、レオンさんを追わないんですか?」
なあポーラよ、追ったところで何になる?
とりあえず夫人に頼んで制裁をするようにした。
あれくらいで良しとしな。
「ですが!」
前にも言ったがあれの相手はめんどくさいよ、こっちが傷つくばっかりだ。
わざわざ関わるもんじゃないよ。
「キャプテン、それでも私は一度話がしてみたいです。なぜ人を傷つけるのか? 傷つけても平気なのか? 私にはそれが理解できません!」
この世には理解できないことがいっぱいある。
この世には理解できないほうがいいこともある。
だからやめておけ。
ポーラ、お前は真面目でいい子だ。
それの対極の人間に会っていいことなど何もないよ。
「……キャプテンは正しいと思います。ですがそれでも私は知りたいのです」
困ったね。
やっぱり若者はダメと言われるとやりたがる。
とはいえうまくなだめる方法もありゃしない。
「もちろんこの船はキャプテンのものです。針路を決めるのもキャプテンです。ですが特に目的がない旅であるというのならレオンさんを追っていただけないでしょうか?」
カグヤとレーティアを見るとお好きにどうぞと言う表情だ。
「追っていただけるだけでいいです。レオンさんとは私が話したいだけです。キャプテンにはご迷惑をおかけしません」
絶対に傷つくことになるぞ、それでもか?
「覚悟の上です」
そうかい。
腹をくくられたら仕方あるまい。
カグヤ、針路をクリドリへ。
「了解しました」
「キャプテン、ありがとうございます」
俺はそれでも反対なんだがね。
どうにもああいう人種にはいい思い出がない。
レオンが俺の友人と同じとは限らないという希望もあるが……望み薄じゃないのかなとは思う。
だからな、ポーラ。
「はい」
真剣の表情で俺を見る。
この子はきっと傷つくだろう。
本人がいくら覚悟していると言っても、想定以上のことが起きるだろう。
だから約束しなさい。
「なんでしょう?」
俺のようにはなるなよ。
「キャプテンのように? それってどういう意味でしょうか?」
それは傷ついた時にわかるよ。
だからまあそれだけは覚えておきなさい。
約束しなさい。
「わかりました。お約束します」
感想、誤字報告、評価、ブックマークしてくださった方ありがとうございます。
ポーラの話が終わってませんがこれにて幽霊船の話は終了です。
詳しいことは活動報告に書いていますが、予定ではこの後しばらく日常編をダラダラするつもりでしたが、4月から仕事の部署異動が確定しまして、今後の執筆ペースが読めなくなることから展開を見直しています。
明日からすでに書いた分の5話の日常編を挟んで次のシリーズに入ろうと思っています。