#162 幽霊船の財宝は呪われているか 12
「呪い? この世には幽霊もいなきゃ呪いなんてないね。そんなものがあるなら私もとっくに亡者に呪い殺されていることだろうよ」
幽霊船という言葉を利用してカジノ運営をする人間だ、リアリストでしかるべきだ。
だがこの世には不思議なこと、不可解なことはいくらでもある、そう思わないか?
「最近一番不思議なことはスパイラルを跳んできて無事な奴がいるってことだけどね」
それは運がよかっただけだ。
ちなみに俺の最近一番不思議なことはレオンが行く先々でモテることだがな。
「ああ、私もそれは不思議だ」
まあそんなことより幽霊船ならいわくつきの逸品が1つくらいあってもいいんじゃないかと思っているんだが。
「それがワインだと?」
これから鑑定書を送る、とりあえず見てくれ。
カグヤ、頼む。
「了解」
あとレーティア、ワインを持ってきてくれ。
ヨミ博士に飲ます準備をしてそのままにしているのがあるはずだ。
「ピンクに確認して持ってくる」
レーティアは艦橋を後にする。
「320年物!」
鑑定書を見て夫人が叫ぶ。
「おい、あんた! これはレアってもんじゃないぞ!」
もっともだ。
だがこのワインは呪われているんだ。
「さっきから呪われてる呪われてると訳の分からないこと言ってるね、これをオークションに出すとどれだけ値が付くと思ってるんだい!」
もっともな話だ。
俺もそう思ったさ。
入手経路は話せないのだが、呪いのワインだから手放したいから引き取ってくれと言われて引き取ったワインを惑星Z3-Jという星でオークションに出そうとした。
するとそのワインを巡って悲劇が起きた。
「悲劇だって?」
その星の高名な美食家が是が非でもワインを手に入れようとし、正当な手段で入手すればいいものをなぜか俺にタダでよこせといいだした。
「なんだい、そいつは阿呆なのか?」
俺もその時はそう思ったが、今となってはワインの呪いだったのでないかと。
このワインをめぐって人は狂うと聞いた。
その美食家はこともあろうか非合法の武装管理頭脳を使い、宇宙港に攻め入ろうとした。
「おいおい、宇宙港に攻め入るってテロレベルじゃないか!」
まったくだ。
そこで警察の管理頭脳との交戦の末どうにか美食家は逮捕・拘束された。
「それはよかったな」
だが話はそこで終わらなかった。
漁夫の利で手に入れたその星の首相が飲もうとした瞬間に、同じく手に入れようとしていた警察庁長官に気がつかれ、首相官邸で殴り合いにまで発展し、国家は大混乱に陥ったそうだ。
「おいおい、何の冗談だい。そこまでいくとリアリティーの欠片もなくなる」
カグヤ、当時のニュースを。
「…………」
顛末や混乱する状況をピックアップしたニュースを見て夫人は言葉をなくす。
最近新ゲートが発見されたんで数年内にはその星とも交流ができるだろう。
その時に裏も取れるだろうが、このニュースは偽物ではないぞ。
信じられないかもしれないが本当のことだ。
ワイン1本をめぐって国は上へ下への大騒ぎだ。
でなんだかんだでワインは俺の手元に帰ってきたんだが、そんなことがあるとなかなか売るに売れなくてな。
今までずっと持っていたのだが。
「マスター、取ってきたよ」
レーティアが頑丈なボトルバッグに入れられたワインを見せる。
「で、……これを私にと?」
あんたはさっき呪いなんて信じないと言ったよな。
それならばこれはただのワインだ。
いや、320年物という希少な、いや幻のワインだ。
飲むのもいいだろう。
幽霊船のいわくつきの呪われたワインとしてのカジノの景品にしてもいい。
もちろん売ってもいい。
「その代わりレオンの個人情報をよこせか? 正直釣り合ってない気もするが」
そこは考え方だ。
あんたからしたらこれは高価なワインだ。
でも俺からしたら気味の悪い呪われたワインだ。
手放したいが、かといってタダはもったいない。
そこで個人情報を渡すのは信用問題だから値を上げたいという人がいる。
どうだろう。
俺は呪いのワインが手放せ、さらに情報がもらえる。
あんたは高価なワインがもらえる。
どちらも損はない、いや、得な話ではないだろうか?
「…………」
どうせ口では個人情報っていってもレオンみたいなクズ人間だと何とも思ってないんだろう?
いくらで吹っ掛けようとしていたのか知らないが、このワインよりも高いということはないだろう?
「……正直私の取り分が多すぎて勘ぐってしまう」
それなら情報を流してほしい。
ここを利用する客に他の星に行くときにレオンという女たらしの結婚詐欺師がいるという警告を拡散してもらいたい。
そうなれば奴はどの惑星でも居心地が悪くなり、というか入国禁止にまでなれば、依頼人はさぞや恨みが晴れることだろうよ。
「なるほどね」
フムフムと頷く夫人。
あとはこのカジノに奴が来た時はイカサマで身ぐるみ剥いでくれ。
「おいおい、人聞きの悪い。ウチはイカサマなしのクリーンなカジノなんだよ」
ブラックほどそう言うんだよな。
それは置いておいて、どうかな?
「最後に一つ質問だ」
なんだろう?
「呪われていると言ってもレアなワインだ。飲もうと思ったことは?」
俺は下戸なもんでね。
俺の嘘にカグヤ、レーティア、ポーラがなぜか笑いだす。
その様子を見てなぜか夫人は頷く。
「いいよ。交渉成立だ」
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このシリーズ明日で終了です。