#161 幽霊船の財宝は呪われているか 11
「カジノ船? ギャンブルするのですか? 宇宙で?」
ポーラが不思議そうな顔をするが、まあそんなこともあるかと俺は考える。
一応聞いておくが非合法だよな。
「非合法というのは語弊があります。ガートランド星系に勝手に居座ってることは褒められはしませんが、別に違法ではありません。宇宙空間には明確な法はありませんので船乗りが宇宙空間で船乗り同士で商売しても娯楽を提供しても何ら問題はありません」
海賊行為と同じか。
取り締まる存在がないから無法地帯である。
ただ宇宙に進出している人間は少なく、会うこともめったにないから問題にならないと。
てか最近よく船乗りに会ってる気がするが。
「この辺は少し宇宙船乗りの流れが多いのです」
それを見越して女神は新ゲートを作ったのだろうか?
出会いなど欲しくないのだが。
さてそんなことよりもこれからだ。
あちらがカジノ船だというのなら今後の展開と対策が必要であるのだが。
「船長、夫人からの通信です」
じっくり考える時間もありゃしねえ。
「さて簡単に説明させてもらおうか。私はカジノ船のオーナーをしている。船乗りに娯楽を提供しているのさ」
ここは宇宙船の往来が多いから絶好の稼ぎポイントというわけか?
「そうだね。あんたもわかるだろうけど宇宙だと刺激が少ないからね、こういったギャンブルが必要なのさ」
俺的には刺激が多いんだがなぁ。
で、この幽霊船の騒ぎは何の意味があるんだ?
「そりゃあお客さんの呼び込みさ。惑星から時々観測される宇宙船があれば調べてくれと立ち寄った船乗りに依頼が行くだろう? そしたらこっちに来てくれて遊んで行ってもらえるって寸法だ」
好奇心で行って幽霊船ではなくカジノがあります、となれば暇な船乗りは飛びつくって寸法か。
勝てばこういう遊び場をなくしたくないので幽霊船がカジノ船だったと「言えない」
負けて借金を抱えた場合、支払いに猶予をもらうための条件として幽霊船がカジノ船だと公言しないようにと、「言えない」になる。
善し悪しはともかくよく考えてはいる。
問題があるとしたら借金抱えた人間が逃げることだが。
「宇宙船をカタにしてもらう。その代わりこっちから宇宙船をレンタルするからそれで稼いできてもらうのさ、少々オンボロで居住性が悪いけどね」
なるほど、それは恐ろしい。
抵抗しても武装された管理頭脳で力づくなのだろう。
「ということで兄さんも遊んでいきなよ」
負けたときの話を聞いてできるか!
「そんなに大負けしなきゃいいだろう?」
負けるの前提かよ。
「兄さんギャンブルしたことないのかい? 楽しいよ」
生前パチンコにドはまりして給料をつぎ込んでた人間を見ていたのでギャンブルにいい思い出はない。
それがなくともカジノに手を出すのはお断りだ。
ちなみにこの宇宙のギャンブルはスロットやルーレットは流行っていないという。
管理頭脳でイカサマができるのではという不信感かららしい。
対人でのカードゲームが主流らしいがそうはいってもギャンブルというものは胴元が勝つようになっている。
最初は勝たせてくれるだろうが、その後は負けが込み、一発逆転の大勝負で負けてお定まりのコース。
まあはっきりいって関わらないのが吉だ。
そもそも俺は引きこもり、外には出たくない。
さて、断った場合。
夫人はどこまでの影響力があるのだろうか?
借金を抱えた船乗りたちを使って、この行く先々で俺の悪評を流すと言った嫌がらせをする可能性もある。
竜玉のところのように入国禁止にはならないとは思うがなんらかの制限がかかるのは面倒だ。
そうなると第三の選択肢が必要となる。
関わらないで済むように適当に話を逸らしたいのだが、何か手は……。
特に表情が変わらないカグヤ、レーティアと違い、心配そうに俺を見るポーラを見て一つ思いつく。
なあ夫人、売ってほしいものがあるんだが?
「なんだい藪から棒に。ウチはカジノであって商船じゃないんだよ」
それでも情報は持っているだろう。
「情報? 何のだい?」
レオン・ヒイラギという男の情報が欲しい。
ポーラと夫人の眉がピクリと動く。
「その男がどうしたって?」
このガートランドでもそうだが、その前にいたグルドニアでも派手に結婚詐欺をやっててな、あんたの話を聞いてピンときた。
カジノで負けたからグルドニアに金稼ぎに行ったのではないかってね。
あの手の男は典型的な「飲む・打つ・買う」タイプだ、そりゃあここで派手にやったことだろうよ。
そして散財して宇宙船をカタにとられる。
最寄りのグルドニアに行き、いつものように女を口説き、結婚するための資金を稼ぐためにと金を借り、貴金属を貰い、逃げ出した、そんなところだろう。
さすがに1年以上も前だからもうそこにはいないかもしれないが、その情報を売ってほしい。
「まだ私はここにいたとは言ってないけどね。……ちなみになんであんたは奴を探している?」
グルドニアで騙されたと叫ぶ娘にせめてなにか痛い目を見せてやってくれと頼まれたもんでな――と嘘をつくと、ポーラが叫ぶように言う。
「ガートランドでもレオンさんに騙されたと泣いている方、大事なものを取られたと怒っている方、いまだに彼を愛して待っている方、理解できずに心を病んで入院した方がおられました!」
夫人はその言葉に目を閉じ少し考える。
「確かにレオンはウチの客だった。借金は返済してもらったから船を返して、すでにこのカジノ船にはいない。だが奴がどんな手段で金を稼ごうとも私には関係がない。奴から返してもらった金や宝石は返さないよ」
もちろんそれは理解している。
だからビジネスだ、ヤツの情報が欲しい。
「だがそんな奴でも客は客だ。個人情報をおいそれと売るわけにはいかない。こういった商売をしていると余計に信頼が大事なんだよ」
もっともだ。
だがとてもレアなワインならどうだろうか?
「ワインねぇ」
その言葉に少し興味を示す。
ならもう一手。
なあ、幽霊船の船長さん、あんたは呪いを信じるかい?
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終盤です。
というかようやくサブタイトルの回収に入ります。