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#159 幽霊船の財宝は呪われているか 9

 カグヤの解析では夫人から送られてきた映像は特に問題のない宙域映像だという。

 幽霊船を探す依頼を受け、この映像を使えば探しにいったけど何もなかったと言えるらしい。


 あとは「言えない」さえ忘れなければ問題ないのだろう。


「そうなるとそこが1番の問題では?」


 まあそうかもな。

 だが毎日、幽霊船探しの依頼の通信を受け続けるのにうんざりしていたから考えるところではある。

 てかなんで断っても毎日依頼してくるのかね?


「未解決の超常現象があると落ち着かないのでしょう」


 面白がる国民はいいとしても気味悪がる国民もいる。

 国としてはそんな非科学的なものを本格的な解明に乗り出すのは威信に関わるという意見もある。

 折衷案として、やって来た宇宙船乗りに依頼を出すくらいなのだろう。


「挙げ句に船長は悪目立ちしましたからね」


 不本意ながらな。

 まあ依頼を受けたとしよう。

 幽霊船とはなにか?

 夫人とはなにものか?

 調べた結果は?


「夫人から通信が送られてきた辺りを観測しているんですが何も引っ掛からないのです」


 ドラゴンのお前でもか?


「そうです。まだイザヨイ修理中ということもありますが、ステルス性の高い素材で専用の管理頭脳で偽装していればこの距離からだとわかりません」


 そうかい。

 通信からはたどれないのか?


「あの辺りはジャミングが酷いですね。この距離だと無理です」


 人類の通信機ならそれもわかる、現にこの星の管理頭脳も解明できていないしな。

 でも他の星系のドラゴンに連絡が取れるお前でもか?


「それはドラゴン同士なら可能というだけです。ドラゴン経由なしに例えば地球の情報などは手に入りません」


 そうか、なら事前情報はあきらめようか。

 そうなるとどうしたものか。


「行かないという選択肢がありますか?」


 行かないほうがいいという予感しかないけどね。


「日本人は目に見えたフラグは回収する生き物だと聞いていますが?」


 目に見えた罠からは逃げるのが賢い生き方だと思うのですよ。

 てかお前だって何の情報のないところに行くのは怖いだろう?


「本当に幽霊船だというのならそうですけど、人間の仕業というのなら船長なら何とかするでしょう?」


 信頼が重い。


「最悪、逃げる手段はありますよ、人間相手なら」


 チートが頼もしい。

 そうなると幽霊船の依頼を受け、快適な引きこもり生活のために静寂を取り戻すべきだろうか?

 依頼を受ける。

 無報酬でいい。

 ただし条件として修理が終わるまでに政府筋ならびにマスコミの取材等の通信が一回でもあった場合、破棄すると言えば静かになるだろう。

 

「いつも思いますけど相手が対応に困る条件をよく思いつきますね」


 ありがとう。


「褒めてるわけではないんですけどね」


 そんな気はしていたがまあこの際どうでもいい。

 とりあえずそれでいこう。

 幽霊船は、まあ成り行きで何とかしよう。


「了解しました」


 さて酒でも飲みに行こう。

 今日は焼き鳥をリクエストしてたっけかなと思いつつ立ち上がると、


「マスター、ポーラ姉から荷物届いたよ。美味しかったから食べてみてくださいって」


 レーティアが俺に連絡してくる。

 なんだ?

 魚か?


「正解」


 まあそれ以外の選択肢が欲しい。


「干物だって」


 なるほど、それはポーラには食わせたことがないな。

 俺もちょっと食ってみたいな、食堂に運んでくれ、俺も行く。


「了解」


 まあ魚をちゃんと食ってる辺り、ポーラのことはそこまで気にかけなくてもいいんじゃないか?


「魚がバロメーターっていうのもどうかと思いますが」


 それは本人に言えよ。




 すでに準備してあった焼き鳥を焼いてもらいつつ、レーティアが運んできた干物の詰め合わせを見る。

 魚の種類も豊富だが一夜干しから素干しまで様々ある。

 結構あるな。


「一部だよ。もっとあったけど食糧庫に運んでおいた」


 これはあの子にとって食糧なのか、商材なのか?


「ポーラ姉が魚を売ると思う?」


 思わないけど聞いたんだよ。

 後でスルメかじりながら部屋でビール飲みつつアニメを見るとして、


「魚を売るポーラ姉と引きこもらないマスターだとまだポーラ姉のほうが可能性あるってのがいやな感じだよ」


 不思議だな。


「不可解だよ」


 それはさておきピンクよ、ホッケも焼いてくれ。

 あとはビールを。


「しょうがない、たまには僕がついであげるよ」


 そう笑顔で言われると生をジョッキでと言いづらい。

 瓶ビールで注いでもらうとしよう。


「ハイ、マスターどうぞ」


 なんだろう、この娘に初めてお酌をしてもらったような絵面は。

 まあこんな歳の娘がいてもおかしくない年齢だ、……いや、ポーラくらいの歳だっておかしくない。

 いやまあ、おかしくはないが欲しかったわけではないのでこの結果だ。

 あと、仮にいたら死んでこんなとこで引きこもってなかっただろうなぁ。

 

「何が間違っていたんだろうね?」


 なんだろうな。

 良くも悪くも人生こんなもんだと生きてきたからな。

 

「その考えが悪くない?」


 そうかね?

 ピンクが持ってきた焼き鳥の皮がまた美味い。

 

「人間って、少しでもいい生活を夢見て生きていくもんじゃないの?」


 レーティアがビールを注ぎながら言う。

 

 夢は見るのはわからなくはない。

 欲は人間の原動力かもしれない。


「でしょう?」


 ピンクからホッケを受け取る。

 焼きたてのとてもいい匂いがしてよだれが出そうになる。

 焼き鳥のようによく食うメニューもいいのだが、そういえばこういうのもいいよなあと思いつつも、自分ではあまり選ばないメニューが食卓に上がると妙にテンションが上がる。


「マスターにだって引きこもる以外にも普通の夢や希望があるでしょう?」


 レーティア、よく聞きなさい。

 ブラック企業に勤務しているとね、夢や希望を持っている人間からつぶれていくんだよ。

 長生きしたければ夢を見ない、もしくは夢は夢でも悪夢だと開き直るしかないのさ。


「ブラック企業に就職したことがそもそも間違いだと? ホワイトな大企業に就職していたら結婚もして子供もいる人生だったと?」


 前提が違うぞ、レーティア。

 そもそも働くことが間違っているんだ!

 

 つまり間違っているのは昔の地球の民ではないかと。

 ドラゴンさえ倒さなかったら俺は働かなくてすんだはずだ。

 そのツケをいま地球の民は払わされている。

 

 先祖が憎い!


「ねえマスター。そもそもの前提条件のせいにするんじゃなくて、もうちょっと自己を顧みなよ」



感想、誤字報告、評価、ブックマークしてくださった方ありがとうございます。


最近続き物を書いていたせいか日常編のネタ出しに苦戦中です。

この次のシリーズの骨子は決まっていますので早めにそっちに取り掛かるかもしれません



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