#157 幽霊船の財宝は呪われているか 7
「ってことで、ぜひクサカベ船長を取材させて欲しい」
イヤなこったい。
マスコミが群がって来るのはマーロンのやつのことを思い出す。
あの時もあの手この手と大変だったらしい、カグヤが。
今回も似たような感じなのでシャットアウトしていたらコネを使い、入国管理局から通信してきたヤツがいる。
彼の名はジーク。
とは言えこいつはマスコミではない。
役者を自称している。
ここのところ政府関係者から毎日のように幽霊船の調査依頼が来ていて辟易していたところだったので気分転換にと思ってたわむれに相手していたんだが、すぐに後悔した。
「そこをなんとか頼むよ、リアルが知りたいんだよ! 宇宙船に乗ったこともなくて宇宙船の船長役ができるか、いやできるはずがない!」
うるさいな、そんなの想像で補え。
あとそのための監督なり演出家だろうが
俺が手を振って拒否すると、大きくかぶりを振り、芝居がかった口調で訴える。
「彼らだって宇宙船に乗ったことがないんだよ! それのどこにリアルがある!」
ほとんどの人間は宇宙船に乗ったことがないんだから、リアルなんてわからないだろうよ。
それっぽくハッタリきかせてやればいいだろうよ。
「それでは視聴者に対してウソをつくことになる!」
それを演技ではなくウソというのか?
だいたいその理屈だと人を殺したことがないから殺人者の役が演じれないということになるだろうよ。
「そうなんだよ。以前そのオファーをもらった時に、せめて動物でも殺させてくれないかと監督に頼んだら無理矢理病院に入院させられたよ」
まだ完治してないのに退院させたのはどこのどいつだ!
サイコパスがここにいます、助けて!
「まあとにかく一度スパイラルを跳んでもらいたいと」
今、宇宙船の修理中だ。
「なら幽霊船探しでも」
話を聞いているか?
宇宙船の修理中と言っている。
それに幽霊船はずっと断り続けている。
「修理中で何が問題なんだ?」
まずお前の頭も修理してもらえ。
そもそもお前は役者としては下の下だろう?
自分で苦労せずに美味しいところを経験して役作りというのはこの星では褒められるのか?
「何も知らずに想像で演じるのと知っているのではリアルさが違う! 俺が求めるのはリアルな演技だ。そしてファンが俺に求めるのはリアルな演技をする俺だ!」
話が噛み合わないな。
リアルだと?
宇宙船の生活においてゲートを跳ぶなんて1ヶ月に1回、もしくはそれ以上の間隔があく。
それ以外は何もない宇宙空間で引きこもっているんだぞ。
リアルっていうならそれをまず体験してこい。
「おお、なんとそういうことができるのか!」
簡単だ。
部屋に1ヶ月引きこもって来い。
話はそれから聞いてやる。
「約束だぞ! じゃあこれから役作りに行ってくる」
とさわやかに言って画面が切れる。
なんて頭がおかしい。
こんなのが人気俳優ってのはこの国はおかしいな。
「船長は鬼ですか?」
何がだ?
「一般人に1ヶ月引きこもれって自殺しろって言ってるようなものですよ」
そうなのか?
てかあいつ嬉しそうにやるって言ってたが?
「……あの人は頭がおかしかったですけど」
だよなぁ。
まあ死にはすまい。
「まあ普通は1日で諦めます。長くて3日と言ったところです」
貧弱だな。
「船長がおかしいんです」
見解の相違だ。
「歓談中、邪魔するよ」
といきなりモニターが切り替わる。
ウエーブのかかった茶髪の髪をかき上げながら、妙に色気のある女性が登場する。
さてと、俺はカグヤを目を合わす。
現在はマスコミ対策のためセキュリティー対策は高めに設定している。
どこぞのポンコツ海賊や密航少女の時のように簡単に通信に割り込むことなどはできないはずだ。
「いきなり悪いね、困っていると聞いたのでついついおせっかいを焼こうかと」
まったくだ。
もう色々ありすぎて何に困ってるのかわからないくらい困ってるさ。
「そりゃあご愁傷さまだ」
で、お嬢さんは何の御用だ?
「お嬢さんなんて久々に言われたねぇ。この界隈では『夫人』で通っているよ」
それはモノを知らなくて失礼した、あまりにもお美しかったのでついつい本音が出てしまった。
「そんなお世辞が嬉しい歳はもう過ぎてるよ」
それはそれは。
で何か御用かな?
「幽霊船探しをしろって依頼が多数きてるんじゃないかと思ってね」
確かに何件もきている。
それも政府筋からもだ。
スパイラルを跳んだ凄腕なら今まで未解決の幽霊船騒ぎに決着をつけてもらえると期待されている。
まっぴらごめんなんだがね。
「そうなのかい?」
関わらないのが吉な気がするが。
と俺の正直な言葉になぜか夫人が笑いだす。
「いや、すまない。スパイラルを跳んできたってわりには覇気がないんだなと思って」
あっちではスパイラルは治まっていたからな。
跳んだ先がスパイラルってだけで。
過大評価もいいとこさ。
「そいつは災難だったね。ならこれをあげよう」
「――データを受信しました」
カグヤが告げる。
なんだい?
「これは幽霊船騒ぎの宙域の映像さ。依頼を受けて適当に跳んで、リアルタイムの映像だと依頼主に流してやりな。問題が片付くよ」
それはそれは。
幽霊船が映っていない映像なんだな。
「なんだい、幽霊を信じているのかい?」
そういう問いから解放されないかなと日々思っているよ。
「はっはは、本当に変な子だね。まあそれをどう使おうが勝手だけどさ。聞いてるかもしれないけど一応言っておくよ、この辺の船乗りには暗黙の了解があるんだ」
『言えない』だっけ?
「そうさ、それだけは覚えておきな」
俺の返事を待たずに夫人は画面から消える。
で、どこからだ?
「巧妙に偽装されていますけど、幽霊船の騒ぎがある宙域からですね」
ほらみろ、枯れ尾花じゃないか。
「それも怖いのが人間ってのも当たってそうですね」
それはそれで困ったもんだがな。
明日は予定ができましたので19時に予約投稿しておきます