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#152 幽霊船の財宝は呪われているか 2

 あまり飲まないブランデーをストレートでちびちび飲む。

 なんというか今日は疲れた。

 

「お疲れさまでした」


 ハイ、お疲れ。

 とはいえポーラだって疲れただろう。


「何もしていないのに、お恥ずかしいかぎりです」


 人間、引きこもるだけでも体力がいるもんさ。

 それなのに艦橋にいて怖い目に会ったんだ、そりゃあ腰も抜かすさ。


「本当にお恥ずかしいです。でも何が起きているか知らないまま礼拝堂で祈って待っているよりも、艦橋にいたほうがよかったと思います」


 そこで自室で引きこもって、と言わない彼女とは人種が違うのではないかとこっそりと思う。


 調理がまだできないということでつまみに出されたチーズやチョコレートを腹にいれ人心地つく。

 ポーラはというとオレンジジュースを飲んでいる。

 こういう時は暖かいもののほうがいいのではとも思うのだが、お湯を沸かすのを遠慮してジュースにした。

 お湯くらいなら問題ないという話だったのだが、何もしていない自分が贅沢を言うものではないと固辞された。

 まあしばらくの辛抱だろうしいいんじゃないかと思うが、無理はしないように。


「ありがとうございます」


 なんなら酒でもとも思ったが、なにせポーラは成人したが酒を飲んだことがない。

このウサギたちが忙しい中、急性アルコール中毒になられたらきっとカグヤとレーティアに怒られることだろう。

 最近やつらといると世話焼きの口うるさい姉と妹ができたような感じがしてならない。

 宇宙にいること自体不可抗力だというのに、理不尽なことこの上ない。

 まさか心のよりどころが白ウサギのフォローだけとは思ってもみなかった展開である。

 ポーラ、お前はああならないでくれ。


「はあ、まあ……、ですがカグヤさんもレーティアさんも悪気があるわけでは」


 ポーラ、覚えておきなさい。

 悪気がなければよいというわけではない。

 正論なら誰もが受け入れるというわけではない。

 人間とはそういう生き物だ。


「キャプテンがおっしゃると重みがありますね」


 正論というものは、相手の弱みを握っているときにこそ使うものだ。

 それをちらつかせながら正論で殴るのさ。


「キャプテン、もう少し穏便な教えにしてもらえませんか」


 とはいうが、お前も最高司祭にそうされたようなもんだろう?

 緊急措置とはいえ、魚食ったという弱みを戒律を破ったと正論で破門されかけた。


「……それは、そうですね」


 世の中そんなものだよ。

 残念ながら綺麗ごとだけで成り立たない、それが神聖な蒼龍教であってもだ。

 まあだから俺を見ておきなさい。

 抜け道探してどうにか逃げる、避ける、躱す様を。


「はぁ」


 いかん、つっこみ役がいない。




「一応卒業ということでお酒も解禁されましたが結婚もできるようになったのです」


 なんかそう言ってたな。


「結婚というものを今まで考えたことがなかったのですが、グルドニアでベルベットさんを見て少し思うようになりました」


 あれを参考にするのはどうかと思うが。


「あそこまで人は人を想えるということ、好きになれるということができるのだと。またそこまで想われても平気で逃げられる人もいるのだということが私にはよくわかりません」


 あれを見てそう思うこと自体この子は純粋で……圧倒的に人生経験が足りないのだろう。

 俺なんか恐怖体験としか言いようがないのだが。


 さてそうなるとカグヤの助言を思い出す。

 もしもレオンに会った時、もしくはレオンでなくても似たような女性を食い物にするタイプの人間にあった場合、ポーラはどうなるだろうか?


 常に白ウサギがいるから大きな問題にはならないだろうが、心が傷つかないとは限らない。

 やんわりと諭したいのだが。


「人が人を愛することは素晴らしいことだと思います。その気持ちを悪用するのはなぜでしょう?」


 正論だ、だがさっきも言ったが誰もが正論を受け入れれるわけではないと。

 そういう人間も悲しいながらいるのさ。


「ですが!」


 まあそんなに憤るな。

 俺だってレオンが正しいとは思っていない。

 むしろそういうタイプの人間にひどい目にあわされた経験がある。

 恨んでいる、憎んでいると言ってもいい。

 でもな、だからといってできることなんてたかが知れてるのさ。


「何ができるんでしょうか?」


 黙って見守るだけ。


「それでは被害にあう人を助けられないではないですか!」


 とはいってもな、ベルベットを見ただろう?

 恋する人間にあいつに騙されてる、あいつは悪いやつだと言っても信じやしない。

 恋は盲目という言葉があるが、一度ああなると他人がいくら言っても真実を見ないよ。

 むしろ周りから否定されればされるほど恋の炎が燃え上がるというのが鉄則だ。

 正論言うと噛みつかれてこっちが痛い目見るさ。


「だから見守ると」


 俺的には見捨てたいがね。

 だけど救いたいというならもう見守っておきな。

 でもって痛い目見てどん底に落ちた人を助けてやんな。


「苦しむ様を見ておくのですか?」


 仕方ないだろう。

 一緒にどん底まで落ちると引き上げてやれないからな。

 命綱なり救命道具を用意して、そのあと助けてやるのが効率がよいと思うぞ。


「でもそれは……」


 もちろん、それは俺のやり方だ。

 正解ではない、ただの方法の一つさ。

 ポーラはポーラでやり方を探せばいい。

 でもまあ、俺的にはどん底まで落ちたお前を引き上げたくはないからな、最初から落ちてくれるなと言っているだけで。


「……なんて言っていいのか、言葉が出ません」


 まあ考えるのも経験さ、いろいろ考えなさい。


「はい」


 まあただ一つ言うならレオンのような人間には騙されるなよと。

 というか近づくな、関わるな。


「それは私もそう思いますが……どんなタイプの人なんでしょうか?」


 女にモテようとすることに何でもするタイプのダメ人間じゃないのかなぁ。

 そういう意味ではポーラは耐性があるかもな。


「そうなのですか?」


 俺は引きこもるために何でもするタイプのダメ人間だからな。

 方向性は違うが、ダメ人間を間近で見ているからなんか感じるものがあるよ、きっと。


「そうでしょうか?」


 舌先三寸でその場しのぎ的に口説かれだしたらそいつがレオンだ。

 とっとと逃げな。



感想、誤字報告、ブックマーク、評価してくださって方、ありがとうございます。


幽霊編シリーズが始まりましたが幽霊船が出てくるのはいつになるのでしょうか。

もう数話お待ちくださいw


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