#151 幽霊船の財宝は呪われているか 1
「こちら惑星ガーランド入国管理局。応答願います!」
何故か慌ててこちらに連絡を取ろうとしているようだ。
正直、こちらにも余裕がないのだけどまあ仕方ない。
こちら宇宙船イザヨイ、船長の日下部です。
スパイラル突破の余波でバタバタしていますがご容赦ください。
「やっぱりスパイラルを跳んできたと言うんですか!?」
管理局の職員は目を真ん丸にして聞いてくる。
彼曰く、こんなに長く続くスパイラルは始めてのことで、観測をしていたそうだ。
そこに真空が乱れたと思うと宇宙船が飛び出て来たので軽くパニックらしい。
それは悪いことをしました。
でもね、こっちも驚いているんですよ。
何せ向こう側ではスパイラルは治まりかけていたもんでね。
これなら跳べるかなと思って跳んでみたら、こっちはスパイラルがまだ治まっていないではないですか。
いや~、ゲートアウト後ビビりましたよ。
操舵がきかず暴れるから船酔いの感じがするし、宇宙船は宇宙船で少し故障したようで今、緊急メンテナンス中ですよ。
と半分嘘をつく。
「それは……。大丈夫なのですか?」
俺も乗組員も幸い怪我はありませんよ。
あとは宇宙船ですが、まあ、そちらに着くくらいまでは……、ああ先に入国手続きをしないといけませんね。
「あ、はい、でも本当に大丈夫ですか? いまこの惑星には宇宙船乗りの方々が何人もいますので、曳航を依頼しましょうか?」
それには及びませんよ。
自力で航行は可能ですので。
それより宇宙船乗りが何人も滞在中なのですか?
「ええ、同郷の方ではないのですか? スパイラルのせいでグルドニアに帰れなくなってまっている人もいますよ」
この惑星にはゲートが4つあり、通行量が多いそうだ。
その一つのグルドニアはひとつしかゲートがなくここしか来れないそうだ、今までは。
「と言いますと?」
俺は今まで惑星フィ=ラガにいたんですけどね。
ウチの乗務員が新しいゲートを発見しまして、今グルドニアにはもう一つゲートがあるんですよ。
「ゲートを新発見したんですか! それはすごい! しかもかなり遠い場所ですね、これは新しい物流の流れができますね」
本当にビッグなビジネスチャンスだと思っています。
こちらでもいろいろコンテンツを販売させてもらおうと思っているんですよ。
「それはぜひお願いします、きっと売れますよ」
稼げるといいな、とりあえず宇宙船の修理費くらいは。
と言って笑い合う。
あと先程、宇宙船乗りの方々何人かいるという話でしたが、ちなみにですが、レオンという、スパイラルが発生する前にグルドニアからきた船乗りってのは、さすがにもういませんかね?
レオンという単語にポーラと管理局の人間がピクッと反応する。
……よく考えたら写真くらい見せてもらっておけばよかったな、顔も知らないや。
カグヤが手が空いたら調べさせよう。
「すでにこの星からでて惑星テクノシアに向かうとか言っていましたが、……お知り合いですか?」
いえね、そいつがグルドニアで結婚詐欺を繰り返して、こちらに逃げたという話なので注意喚起をと思いまして。
「ああ」
俺の返事に得心がいったと頷きつつ、そしてうなだれる。
遅かったですか?
「はい。既に2件の被害報告があります」
ああ、ならまだあるかも知れません。
グルドニアでは騙されたことに気がついてなくいまだに待っている人もいましたよ。
「そうですか。ホントに困ります。ああいう人もいるんですね」
行く先々の港に女がいるというのは、お互いが割りきったドライな関係ならまだわかるが、どちらかが本気ならば不幸なことこの上ない。
そして片方が責任をとる気もなく、それどころか騙そうとしているのだから最悪だ。
しかも宇宙に逃げるなら追いようもない。
「それもテクノシアに向かうと言っていましたけど、逃げるのにバカ正直に行先を告げるのかという気もします」
それもそうだ。
今回はスパイラルの調査ということでゲートアウトする姿を見られたが、普通わざわざゲートイン、ゲートアウトを確認はしていない。
つまりこの星にいたということしかわからないということか。
俺もポーラの手前、一応情報収集をしてみた。
この子はあの件を気にしているという。
ここで聞いておかないと地上に降りてから聞き込みをするかも知れないからだ。
関わってもらいたくはないんだけどな。
そもそも俺が関わりたくない。
スパイラルを抜けてきたということもあり、いつもより長めの入国管理の手続きがようやく終わる。
こっちは疲れているから早く切り上げたいが、向こうは色々知りたいことがある。
やっていることは世間話とはいえ、会話を楽しむ人間が引きこもりなどするわけがない。
つまり俺は世間話が苦痛である。
そして通常のゲート突入なら疲れもしないが、今回は疲れた。
ゲートアウト後にあれだけバタバタするとな。
さて、もう問題がないなら休みたいのだけど?
「休んでもらうのは構わないのですが……」
「マスター、ポーラ姉ゴメン。食事は少し待って。まだ熱源のチェックが終わってなくて」
そうかい。
「でも飲み物はOKだよ」
それは助かる。
気付けにブランデーを飲ませてもらおう。
ポーラはどうする。
「ご一緒させてください」
と立ち上がろうとし、いきなりキョトンとした顔をする。
どうした?
「キャプテンはすごいですね」
何がだ?
「私、何もしていないのに腰が抜けて立てません」
そうかい。
でもこんなのは年の功だ。
40年も生きてたら腰が抜けるほどの怖いことを何度も経験していつしかマヒするもんだ。
自慢できるほどのことじゃないけどさ。
「そうでしょうか?」
そんなもんだよ。
さてお嬢さん、お手をどうぞ。
体力的にも精神的にもお姫様だっこはしてやれないが、おんぶくらいなら何とかしてやれそうだが。
「恥ずかしいので手だけで十分です」
それは助かった。
一週間ほど体調が悪かったのですが、今日一日寝てたらかなり楽になりました。
ストックが減りましたが何とか頑張っていきます。




