#142 竜玉を封印せし螺旋の檻 14
「キャプテン、申し訳ございません」
数日後、帰ってくるなりポーラは頭を下げる。
ちなみにこの数日カグヤはなにも言わず引きこもらせてくれた。
実は俺的にはまだ余裕があったのだが疲れたと言い続けた甲斐があった。
仮病で休んだ時のように多少罪悪感はあるが、存分に引きこもった。
そして久方ぶりに外に出てポーラと再会する。
別にポーラが悪いとは思っていないが、まあ少し叱っておくか。
ベルベットに出会ったのは不可抗力だ。
それは仕方ない。
だけどな、武器持って脅してきた人間への対応としては間違っている。
まず身を守ることが最優先だ。
困っている人に手を差しのべる、それは尊い行いだ。
蒼龍教の教義はどうかは知らんが、俺はそう思う。
だけどな、必死だからと言って、理由があるからと言って犯罪を犯して良いわけではない、それはわかるな。
「はい」
まあレーティアも白ウサギもいるから大事には至らなかったからよかったが、ポーラに何かあると悲しい。
いろんな人に会って人生経験を積んでもらいたいとは思っている。
が、時と場合によると言うことだけは覚えておきなさい。
「はい」
頭を下げ神妙な顔をする。
あれ?
叱りすぎた?
年頃の娘は難しい。
まあ、無事でよかったよ、といいながら頭を撫でフォロー。
セクハラではない。
怖い思いをしたろう。
少し休みな。
後で一緒に魚でも食べよう。
「は、はい!」
ポーラは顔を真っ赤にして返事をする。
レーティア、しばらく一緒にいてやれ。
「オッケー、じゃあポーラ姉、いこうか」
退出していく二人を見送りながら、
「船長もああいうこと言えるんですね」
そりゃあ叱るべきタイミングで叱るのは教育だからな。
大した問題でないことでもミスした本人にはそれがミスだと伝えておかないと気がつかずに同じミスを繰り返すことになる。
ひいてはそれが大きなミスやトラブルを引き起こしかねない。
とはいえ研修期間の新入社員に最初からクズノミヤ式で叱るとすぐやめてしまうからな、まずはソフトに伝えるのが俺の仕事だ。
叱り方、注意の仕方は非常に難しい。
きつく言っては拗ねられる、甘くすると舐められる。
この塩梅は非常に難しい。
とはいえ、弊社クズノミヤ、ほうっておいても後々上にパワハラまがいに怒鳴られる。
最初くらいは甘いほうがいいと俺は優しく叱っていた。
あとちゃんとフォローで飯や酒もおごっていた。
きっと恨まれていないと信じたいもんだ。
「そっちではないのですが」
どっちだ?
「ついでですから今後もしレオンに出会うことがあった場合のことを考え、ポーラに異性への免疫や対処法を教えておいたらどうですか? 壁ドンとかアゴクイとか」
今時かよ。
てかお前、時々変な知識を持ってくるな。
それはさておきレオンに会いたくないんだけどなぁ。
免疫はアラフォーのおっさんは10代の子に免疫を与えられないかと。
あと対処法は……あんまり友人のことは思い出したくないんだけどなぁ。
まあおいおい考えよう。
「そうですね。ではこれからどうしましょう?」
まずは出国手続きかな。
「ああ、お久しぶりです、クサカベ船長」
しかしなんで入国管理局に連絡したら事務総長がでるんだろう?
「お加減が悪いと聞いてましたがいかがですか?」
ああ、そういえばそういう設定だっけ。
多少良くなったのでそろそろ出発するつもりです。
長いことお世話になりました。
それでは失礼します。
「ちょ、ちょっと待ってください」
なぜか慌てて引き留める。
「クサカベ船長の入国許可が下りました。どうか地上で養生なさってください!」
ああ、竜玉からそういう命令が来ました?
「……はい。クサカベ船長には不快な気持ちにさせて申し訳ございません! ですが、どうか、どうか私を、いえこの国を助けると思って」
イヤです。
本当にどの面下げて言っているんですか?
バカも休みやすみ言いなさい。
よくもまあ手の平を返せるもんですね。
しかも人を不快にさせておいて助けてくれとは何事ですか?
貴方には恥の概念がないのですか?
と俺の正論に事務総長は絶望の表情を浮かべるが、自業自得だろ。
じゃあそういうことで。
「お待ちください、お怒りはごもっともです。ですが、どうか最後に竜玉と話してもらえませんか?」
竜玉と?
「はい、異例なのですが、竜玉が自分が交渉すると言っております」
まあすでに数回話してますが。
人間との手前そう言っているのかね。
まあどのみち竜玉とは最後に話しておくつもりだったから了承する。
まあだいぶ勿体つけたがな。
なんだこれ?
画面が切り替わると青い玉が転がっている。
よく見ると手足が生えているので竜玉のようだ。
これは寝そべっているということか?
とりあえずいつも見えてた顔が下にむいている。
「――お願いです、助けてください」
その姿勢で竜玉は声を発する。
「船長、……これ、もしかして土下座のつもりなのではないでしょうか?」
土下座?
……まあ玉に生えた短い足だと正座できそうにないし、頭を下げると重さと丸みで転がるよな。
てかどこが頭で顔かわからんけど。
「お願いです、助けてください」
どこか泣いてるように聞こえる。
てか大丈夫か、このドラゴン?
「いえ、私に聞かれましても」
同族のカグヤも困惑顔だ。
そこに竜玉が、
「――蒼龍のようになりたくないんです!」
それは悲痛な叫びであった。
早いもので今日で連載開始から5ヶ月が経ちました。
よくもまあここでまほぼ毎日投稿してきたものです。
これからもできる限り頑張りますので読みに来てください。