#140 竜玉を封印せし螺旋の檻 12
「船長、お疲れ様です」
マジ疲れた。
俺はぐったりと背もたれに体を預ける。
もう部屋で引きこもる!
「そうしていただきたいのですが、その前に指示をください」
指示と言われても、とりあえずポーラたちを呼び戻せ。
レーティアにはくれぐれもベルベットと穏便に別れるようにと。
くれぐれも再燃させるなと。
再燃するようなら今度は警察につき出せ。
とはいえ、少々、いやかなりヤンデレ気質だが、あんな女を騙した男の方が責められるべきだろう。
少々心が痛む。
だから穏便に済ませてやってくれ。
あと頼むからこっちに矛先を向けるな。
「了解しましたが、必死ですね」
過去の体験のトラウマがな。
正直関わりたくないという思いと、後々のことを考えたら警察に突き出しておいた方がいいのではないかという気もする。
だがこの宇宙基準だとせいぜい禁固1日程度ならあの子は変わるまい。
そう考えたら恨まれずに去るべきだろう。
「ちなみにさっきの話は実話ですか?」
残念ながら実話だ。
かなり内容をカットしたがな。
特にエグい部分とかは。
「あれだけ長々と話して縮小版でしたか。しかし、似たような話もあるもんですね」
そうだな。
俺、生前この話をしても誰も信じてくれなかったんだがな。
話を盛っているって。
「レオンの場合はこの星では3股ですが、他の星でもしている可能性もありますからそれ以上ですよ」
まあ確実に行く星々で女に寄生しているんじゃないのかな?
拗れたら逃げればいい。
そんなタイプだろう。
俺の友達とまったく同じだ。
むしろ俺の友人が宇宙に出ているのではと疑うレベルだ、……そんなことないよな?
単に宇宙が広いだけだと信じたい。
「しかし船長でも丸く収められないことがあったんですね」
俺の人生そんなのばっかだよ。
宇宙に出てからは運よくうまくいってるが、日本という国はそんなに甘いものではない。
カグヤの言うところのドラゴンを滅ぼした民族の末裔の国だぞ。
そりゃあ一筋縄でいくわけがないだろう。
「そう聞くと身震いが起きますね」
そんな国の俺の友人と似たような行動をとる人間がいるというほうが身震いするね。
出会わないことを祈ろう。
「レオンは船長には手に負えませんか?」
関わりたくないというのが本音だね。
ああいう、のちにヤンデレになることがわかっていて手を出すような人間とは相容れられない。
「ベルベットは結果そうなったのではなくて、もともとああいう感じだったんですか?」
レオンはどうか知らんが俺の友人はそういうタイプに積極的に手を出す。
逃げることが前提ならああいう女性のほうが口説きやすく、自分優位で進めやすいという。
「詳しいですね」
不本意ながらな。
しまいには俺が刺されるところだったからあれには肝が冷えた。
あの野郎が何も言わずに逃げるものだから本当に参った。
あの逃げ足の速さは天下一品だ。
しかも友達を身代わりだからな。
「ちなみにその友人はどうなったのですか?」
どこからか俺の新しい携帯番号を聞いて連絡してきたが、第一声が謝罪でなく、裏切ったなと罵声を浴びた。
どっちが裏切ったのかと。
縁切っても文句はあるまい?
噂ではいろいろ聞いたが、結局俺より長生きはしてたな。
「それはなんと言っていいものやら。しかしその経験から今回はどうにかうまくいきましたね」
うまくいったとは思えないがね。
結局問題の先送りだし。
「まあそれはそうですが」
恋は盲目というがあそこまで視野が狭くなると人の話を聞かないからな。
そうでなくてもスパイラル攻略で悩んでいた時にああいうのを相手にすると、スパイラルで武装された人の心を見たようで胃がきしむ思いだよ。
「あとで胃薬を出しておきますよ」
そうしてくれ。
しかしまあよくあれで納得してくれたもんだ。
連れて行けない理由を筋道立てて説明したとしても聞く耳は持ってくれない。
そうなると連れて行ってやってもいいけど、彼氏が待ってろっていう約束を破って本当にいいのか、後悔するぞ、彼氏に振られるぞと、俺は責任持たないぞ、と違う方向から攻めなければならなかった。
俺が連れていけない理由ではなく、ベルベットが行ってはいけない理由を述べる。
それも彼女が信じるレオンが言いそうなことを選ばなければならなかった。
そう考えると人生で初めてあの友人が役に立った日かもしれない。
あのクソ野郎の斜め上理論を聞いていて役に立つ日が来るとは。
……あれ?
斜め上?
5股?
……ああそうか、正攻法でなくてもいけるのか?
そうなるとどうすればいいんだっけ?
「船長?」
……ああもう今日は頭が働かねえな。
よし、一休み。
もとい、引きこもろう!
止めるな、カグヤ。
頼むな、止めてくれるな。
「私も今日は目をつぶって休ませてあげたいのですが申し訳ございません」
イヤな感じだ。
聞きたくないんだが?
でもさすがのカグヤも本当に申し訳なさそうに俺に言う。
「竜玉からの通信が入りました」
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竜玉編も折り返しです。
そろそろ蒔いた種を刈り入れますよ。




