#139 竜玉を封印せし螺旋の檻 11
150話記念 サプライズ2話連続投稿。
本日2話目
えっとお嬢さんはベルベットと言ったかな?
少しおじさんの昔話を聞いてくれないか?。
他県の大学に行った友人が夏休みに帰省した。
金がいるからバイトすると言い、なぜか俺も連れて面接に行った。
面倒くさかったんだがその友人は昔から押しが強く、断れたためしがなかった。
面接に行った会社は24時間フル可動の3交代勤務の工場だった。
「24時間フル稼働はわかるけど3交代って?」
人間が交代でその工場を動かすんだよ、管理頭脳ではなくてな。
「何で? 夜に働くのって体に害があるんじゃないの? それでも働くのって危機意識がなくない?」
日本の経営者と社畜に聞いてくれ。
まあ問題はそこでないから進めるぞ。
8:00~16:00の1勤
16:00~24:00の2勤
24:00~8:00の3勤となっていた。
俺と友人はバイトということもあり1勤のみだった。
正社員は3交代なんだが短期のバイトだのパートは時間指定で働けたんだ。
俺はちょうどパソコンが欲しくて金が必要だったから黙々と働いていた。
友人とは配属ラインが違うから朝と帰りに少し話す程度だったのでまったく気がつかなかったのだが、ヤツの目的は出会いだった。
いつの間にか彼女をつくったらしい。
「別にいいじゃない」
それは最後まで聞いて判断してほしい。
我が星には残業というものがあるのだがわかるか?
「なにそれ?」
勤務時間が終わっても働くことだ。
「何で? 時間がきたら帰るものでしょう?」
そんな優しい世界で生きたかった。
それはさておき人手が足りないとかで、数時間でも2勤で働いてほしいと要請が来る。
俺は基本断っていたが友人は頻繁にしていた。
なぜかって?
ヤツの目的は出会いだと言っただろう。
2勤でもほどなくして彼女をつくった。
「なにそれ!」
そうなるとヤツは考えた。
3勤でも彼女ができないものかと。
しかし現状では3勤と接点はない。
3勤に行くのは24時間働くことになるのでそれは流石に嫌だったようだ。
「諦めたの?」
発想を変えた。
3勤の子と出会えないなら、出会った子を3勤にすればいいのではと。
「……意味わかんない」
その頃にはベタ惚れで貢ぐようにまでなっていた1勤の彼女を3勤に異動させ、自分は1勤に残り、新しい彼女を探す。
「最低! だいたいそんなのすぐバレるでしょう」
それが3人目まではなんとかなったようだ。
後から知ったのだがアリバイ工作に勝手に俺を使っていた。
他の女と会っているときは俺と遊んでいることにしていたらしい。
「あいつは昔からボッチで俺しか相手してやる人間がいないんだよ。大学進学で県が離れて一人でやってるのかと思えば、相変わらず友達は作れないし、バイト行くのも俺についてきて欲しいっていうくらいのダメ男でな。でもな、ガキの時から面倒見てやってるし、あいつの親にも見捨てないでやってくれと頼まれてるんだ。お前にはさみしい思いをさせるかもしれないが、友情を大事にする俺ってイケてないか」
「素敵、抱いて!」
という展開だったらしい。
そんなアホの子を見る顔で俺を見るな。
こっちは被害者だ!
そもそもガキの頃から尻拭いしてきたのも親に見捨てないでくれと頼まれたのも俺のほうだ。
でまあ3人でうまく回っているならそれでよせばいいのに、さらに1勤の子でかわいい子を見つけて声をかけてそこからちょっとした騒ぎになり、そこから
「あの人2勤の子とつきあってなかったっけ?」
「え? 3勤の子と朝からキスしてたよ」
という話になり、大きな騒ぎになった。
俺がこの話を知ったのはこの段階だ。
正直人づてにそのことを聞いて、この短期間で5股かよと驚いたもんだ。
「5股?」
ちなみに会社で騒ぎになったその日の夜には実家から大学のある県に逃げていた。
そもそもこっちに帰ってきたのは夏休みの帰省が主目的ではない、大学でできた彼女に浮気がばれたためにほとぼりが冷めるまで実家に避難していただけのことである。
「なにそれ!」
お怒りはもっとも。
ポーラも目を真ん丸としている。
その後なぜか俺がこっちの彼女たちに糾弾される。
そもそも俺は知らなかった、勝手にアリバイに使われていただけである。
こうなった場合はどうしようもないので俺はまず携帯を渡す。
それで通話記録だのメールでアリバイをどうにか証明した。
その時点で2人はこの件から手を引いた。
最後の4人目の子は付き合ってまだ日が浅いので腹は立ってたがバカバカしいと思ったようだ。
3人目の1勤の女性はバツイチ子持ちで若いこと遊んでいただけのつもりだったと言い去っていった。
問題は1人目の3勤にいった子と、2人目の2勤の子だ。
3勤の子はかなり友人に入れ込んでいたようだ。
まあ言いなりになって1勤から3勤に行くような子だ、かなり重い子だった。
今となってはヤンデレという言葉がよく似合う。
イヤ悪いのは友人ですがね。
2勤の子はただただ怒りだった。
あんな男に弄ばれていたということが許せないらしい。
最低でも顔面を殴らないと気が済まないと言っていた。
ぜひとも殴ってやって欲しいと思った。
俺は無関係です、ではサヨナラでいかせてくれたら楽だったのだがそうもいかず。
彼女たちはすでに着信拒否、では俺の携帯ならばとかけたらそれも着信拒否。
あの野郎、この事態がわかっていて俺に何も言わずに逃げやがっただけでなく、着信拒否ってひどすぎるだろう。
まあ最初からかばう気は欠片もない、自業自得というものだと俺は保身に走る。
俺はとりあえず女性陣に携帯を渡すことを提案した。
ヤツのことだ、ほとぼりが冷めたかどうか電話してくるだろう。
それでなくても俺のフリしてメールを送っていれば読むだろうし、返信はあるだろう。
それで勘弁してくれないか?
もちろん俺は新しい携帯を買うが、それにはヤツのアドレスを入れない。
疑うならそれは君たちがやってくれればいい。
これで俺とヤツに接触はなくなる。
だから解放してくれないか?
とまあ必死で懇願した。
まあそれで何とか逃げれたが、まったく生きた心地がしなかった。
ぜひその気持ちを友人にも味わってもらいたかった。
「それでその友達はどうなったの?」
さあ?
連絡取れなくなったからその後のことはどうにも。
「……なんでこんな話をしたの?」
ベルベットは睨む。
君の予想の通りかと。
「言っておくけどレオンは誠実な人よ。わたしを何度も愛してるって言ってくれたし、優しいし。時々ひどかったけど、それはわたしを思ってのことだし! わたしのためにお説教をしてくれたんだから! お金だって貸したけどそれを元手に稼いで帰ってくるって、そしたら結婚しようって、信じて待っていてくれって言ったのよ!」
もうそれを聞いた時点で騙されているとしか思えないが、それを言うとこじれるのは知っている。
そうだろう、レオンは俺の友人とは違って誠実な人なんだろう?
「そうよ、当たり前じゃない。あんたの友達みたいな人間の屑じゃないのよ!」
やつは確かに人間の屑だが、レオンだって……。
それはさておき、信じて待っていてくれと言ったのに君が迎えに行くのはダメじゃないのか?
「だってもう1年以上も」
船乗りにとっては1年なんて誤差みたいなもんだよ。
だいたいスパイラルが発生しているんだ。
そんなのを跳ぶのは自殺行為で、そんなことをして死んだら君を悲しませる。
もちろんいま君が心配しているのはレオンは知っているだろう、だって彼だって君に会えないのが苦しいのだから。
でもベルベットは信じて待っていてくれるとレオンは信じているのではないだろうか?
きっとレオンはスパイラルが収まったらすぐに跳んで来ようとしているはずだ。
そういういい男なんじゃないかい?
違うか?
「そうよ、レオンはそんな人よ!」
なら君は信じて待つのが正しくはないだろうか?
「でも!」
彼は君を危険な目にあわせても平気な人間なのか?
「そんなことない!」
だろう、レオンはそんなタイプだ。
ゆえに君はここで待つべきだ。
「そうかもしれないけど、だって」
あとレオンは嫉妬するのではないだろうか?
「なんに?」
彼のような船乗りはね、自分の船に乗せるのは恋人のみと決めているタイプだ。
そんな彼が自分の愛する女性が他の男の船に乗ったと知ったらきっと君のことを尻軽女だと非難して別れるタイプだね。
「そんな! わたしは彼しか」
でも信じて待っていてくれと言った彼女が他の男とやってきたと知ったら間違いなく激怒するね。
そういうところがなかったかい?
自分の言うことを聞かないからと怒鳴られたことはないかい?
「…………あった」
じゃあ答えは決まるだろう?
「……待ってる」
OK、その言葉が欲しかった。
この話はフィクションです。
もしも似たような経験がある方がいらっしゃっても確認しようとしないでください。
彼の居場所は未だに知りません、本当です。
当方は本当に無関係です。
繰り返します。
この話はフィクションです。
大事なことだから2回言いました。