#133 竜玉を封印せし螺旋の檻 5
「初めまして、宇宙船イザヨイの船長殿。私はこの惑星グルドニアの事務総長です」
事務総長?
この星のトップですよね?
入国管理局につないだはずなんですけど?
「その通りです。今回は特殊な案件ですので自分に対応するようにと竜玉より指示がありましたので」
そうでしたか。
すみません、いきなり偉い人が出てびっくりしたもので。
敬語が下手かもしれませんがご容赦ください。
「お気になさらずに。事務総長と言っても官僚のまとめ役というだけですので」
若くは見えるが相変わらず歳はわからない。
人のよさそうな柔和な顔立ちからは重責ある国家のトップだとは到底思えないが、竜玉の管理下によるトップだとそれほど重責もないのだろうか?
さて、受付というのは普通は下からだんだん上へと上がっていくのがセオリーだ。
俺がVIPというなら話は別だが一般的にはただのフリーの宇宙船乗り。
いきなりトップが来るなど悪手だと思うのだが意図はなんだろう。
「とても言いにくいことですが、貴方を入国不可にしろというのがわが星の管理頭脳、竜玉の判断なのです」
なるほどそうきたか。
それを一番下に言われたところでこっちが文句を言って上司を呼ばせてクレームを言い、それを続けられると面倒くさいという判断なのか。
初手をトップに対応させ、国の判断だ、入国禁止だと言わせた方が確かに確実で早い。
そこまで俺に来てほしくないのか。
まあ、それならそれでいいだろう。
そうですか。
それではこのまま引き返します。
「えっ!?」
おい、なぜ驚いた顔をする?
「いえ、すんなり受け入れてもらえるとは思わなかったもので」
基本、一番下っぱが言ってきても素直に引き下がったと思う。
経緯が経緯だ。
ごねて得などないだろう。
では失礼します。
「あの! ちょっと待ってください」
いや、うちの子を早く惑星に降ろしてやりたいので、この星がダメならさっさと引き返したいのですが?
「いえ、ご存知かどうかはわかりませんが、わが星は唯一のゲートが現在スパイラルにより閉鎖されていまして」
らしいですね。
もう一年になるとか。
「ご存知でしたか。貴方のお陰でわが星の閉鎖が解除されたことには感謝しております」
ちなみにゲートを新発見したのは自分ではなく、ポーラという預かっている娘です
「それは重々承知しています。イザヨイの方々には感謝しております」
でも入国禁止なんでしょう?
「はい、管理頭脳がそう判断しまして?」
ちなみに理由は?
「わかりません。返答してくれません」
そうですか。
特に犯罪歴もないのですが。
入るなと言われたら無理に入ろうとはしませんよ。
それでは……。
「お待ちを。貴方のお陰で新ゲートが開通し、この星にもいずれ交易船がやって来るとは思います」
まあ来るでしょうね。
「ですがすぐには来ないことでしょう」
かもしれませんね。
「我が国の宇宙船は現在動けるものがありません」
そうですか。
「わが星では1年、他星からのコンテンツ供給がなく、国民は娯楽に飢えております。どうかコンテンツ販売を開始してもらえませんか?」
はて?
この事務総長は何を言っているのだろう?
コンテンツ販売とおっしゃいますが、売るからには金の回収をすることになります。
その間入国はさせてもらえないのですよね?
「……はい」
事務総長の額に汗が見える。
なるほど無茶を言っている自覚はあるんだな。
ちなみにこの星の貨幣はどこか他の星と共通とか言いますか?
「いえ、わが国でしか使えません」
ということになりますと、こっちは販売しても、入国はできない。
売れるまで宇宙で待っていても入国できないから物品は買えない、通信範囲内でそちらのコンテンツを買うくらいしかできない、と?
事務総長、この星の常識ではどうか知りませんが、私の感覚だと最大級の非礼を受けていると感じています。
「クサカベ船長、誤解です!」
今すぐフィ=ラガに引き返します。
この星の常識を知らしめて、近寄るなら覚悟がいると伝えなくてはなりません
「待ってください!」
事務総長の顔色が一気に青くなる。
「誤解です、少しこちらの言い分を聞いてください!」
入国禁止で、でもコンテンツはよこせ?
俺の感覚では泥棒よりたちが悪い。
それを一国のトップが言うんだからこの国は危険な国だと警告する義務があります。
俺たち宇宙で生活している人間にはコンテンツが命綱で、それを元手に惑星を渡り歩いている。
そんな危険国家など封鎖すべきだ。
近隣の惑星にはこちらからの国家の交易船が来ても相手にするべきではないと伝えましょう。
「お願いです! 言い方が非礼でした! 謝罪します」
事務総長は机に頭をぶつけて謝罪する。
「我が星は管理頭脳の指示に逆らうことはできません。どんなに納得がいかなくても結果的にそれが正しいからです」
俺としてはその考えがそもそもおかしいと思うんだが?
その件は置いておくとして、そちらも無茶を言うからには落としどころを用意しているのでしょう?
「そうです。竜玉は貴方を入国させるなと言いました。我が国の法律では宇宙港は国家の施設ではありますが他星からくる船の緩衝区画としてまだグルドニアに入国したと判断されません」
なるほど、宇宙港にしばらくとどまれと?
「はい。そこからですと物品の輸出入はできます。もちろんそれにかかる関税、手数料はいただきません。あと宇宙港の使用料を免除します」
しかし宇宙港だと入国したことにならないとはいささか乱暴ではないですか?
「若干詭弁めいていることは認めます。ですがこれくらいの融通はきかせれます」
なるほど。
融通はきかせれると。
……ならこういうのはどうでしょう。
竜玉は私の入国を禁止したのでしょう?
ならば私はもちろん惑星に降りません。
ですが、うちの娘は入国させてもらえませんか?
「娘さんですか?」
預かった子ですが実の娘のように思っています。
私は少々宇宙船にこもっておくのは構いません。
ですが娘はまだ若い。
惑星を目の前に我慢しろとは言えません。
事務総長、どうでしょう、もう一つ融通をきかせてくれませんか?
人道的なご判断をいただきたい。
「……それは人道的には……心情的には同意したいのですが」
ではこうしましょう、ポーラが惑星に降りている間だけコンテンツを販売しましょう。
1週間許可していただけるなら1週間、1ヶ月なら1ヶ月、半年ならその期間、どうでしょう?
「どうでしょうって、貴方それは!」
販売だけさせておいてやっぱり管理頭脳がノーと言った、出ていけでは困りますからね。
ちなみに最初の1ヶ月で1惑星分、2ヶ月で2惑星分、3ヶ月で3惑星分でどうでしょうか?
「……クサカベ船長、こちらを信用していただけませんか?」
入国するな、でもコンテンツは寄こせ、という人を信じろと?
「貴方という人は……」
こちらの要求をのむならお早めに、私も無駄足を踏みたくないのですぐにでもUターンしたいのですが。
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明日から仕事やプライベートでバタバタしますので、来週の月曜まで19時に予約投稿をします。
これから順次していきます。




