#127 お披露目
ポーラが違和感を感じたポイントまで進んでいるが、道中はずっと艦橋に詰めているわけではない。
一日に何回か進路があっているか確認する程度だ。
そんな毎日の中、とうとう待ちに待った日がやってきた。
俺の眼前には白ウサギが立っている。
以前と同じメイド服を着ている白いウサギの着ぐるみだ。
久しぶりだな、白ウサギ、俺のことは憶えているか?
データ移植は大丈夫か?
そうか、問題ないか。
良かった、本当に良かった。
カグヤの口車に乗って何も考えずにお前を手放したが、失って初めてわかることもあるというのは本当だな。
恥ずかしながらこの歳で初めてそれを知ったよ。
お前がいない日々がどれだけ大変だったか。
もうお前を手放さない、ほどほどの距離感で俺の世話を焼いてくれないか。
「マスター、僕に失礼だよ。あとカグ姉にも」
ああ、カグヤ。
綺麗だよ。
これからよろしく。
「反応薄!」
「キャプテン、それはひどいです」
「まあそんな人ですから」
カグヤも人形の調整が完了し、本日から実体化する。
モニターからそのまま出てきたような印象だ。
今までの荒い立体映像よりも鮮明で、確かに近くにいると質量を感じる。
レーティアもそうだが一見人間にしか見えない。
「やっぱりカグ姉の意見に賛成。マスターはストレスがまったくないより、ストレスを与えていた方がいい仕事すると思うんだ。白ウサギ取りあげようよ」
レーティア、恐ろしいことを言うな!
てかカグヤ、ストレスを与えるってなんだ?
「最近、船長の場合、一定量のストレスを与えておいた方がいいのではという検証結果が出まして」
急に方針を180度変えないでくれるかな?
「いえ、徐々に与えてきてたんですよ。で、言動や行動を検証してました」
いつの間に!
……そういや惑星フィ=ラガのころから扱いが雑だった気がする。
「おかしいですね、惑星パールにいたころから徐々にストレスを与えていたんですが、あれくらいだと気が付かないんですね」
なんて恐ろしいことを!
俺はモルモットか!
言っておくが白ウサギは俺のもんだ!
「大丈夫です、他でストレスを与えていきます」
と笑顔で言う。
もしかして新しい身体を褒めなかったことを怒っているのだろうか?
でも管理頭脳だし、いやドラゴンか。
しかし何か言うと取り繕ったことになるだろう。
ここはあえて強気に行くべきだ。
ストレスが多いと引きこもるぞ!
「ストレスなくても引きこもってるじゃん」
「むしろいかに部屋から出すかを検討しています」
不思議なことにウチの龍虎は戦わずに共闘をしている。
さて4人で食堂へと向かう。
カグヤが以前言っていたことだが、俺にお酌をしたいという。
しかし瓶ビールというものはなく、最初から日本酒もどうかと思い、ハイボールを作ってもらうことに。
グラスに氷を入れた後ウィスキーを注ぎ、マドラーで回す。
炭酸水をゆっくりと注ぎ、最後にマドラーで縦に1回混ぜる。
「はい、どうぞ」
初めてしたくせに動作が様になっているのは管理頭脳たる、いや、ドラゴンたるゆえんか。
そして美味い
「ありがとうございます」
とカグヤは満足げ。
「カグヤさん、お上手です」
「僕だってできるよ」
レーティアにもまた次回してもらうさ。
さて今日はテーブル席につき、俺の横にはカグヤ、正面にポーラ、その隣がレーティアである。
一見華やかな席である。
世代としても10代前半、10代半ば、20代前半である、見た目は。
「私に何か含みが?」
カグヤ、それは被害妄想というやつだ。
「ちなみに僕もこう見えてハタチだけど」
レーティア、それは夢がないな。
てかその体で二十歳はないだろうよ。
「オババは僕のことを子供扱いだったからね、幼いほうがいいんだよ」
そうはいってもお前のほうが年上に見えたぞ。
「そこは逆サバを読んでたんだよ」
女の見栄か、母の見栄か。
さて何を食おうか?
「キャプテン、昨日いただいた、かぶら蒸しがまた食べたいです」
新しいものにチャレンジするポーラがめずらしい。
気に入ったのか?
「優しい味でした。ただもうちょっと食べてみたかったです」
単純に量の問題か?
まあいいや、それとサワラの西京焼き、あと鱧の湯引きできる?
大丈夫、なら頼む
俺は辛子酢味噌派だがポーラもいるし、梅肉も用意してくれ
「そのメニューですと二杯目は日本酒か焼酎になさいますか?」
そうだな、一杯目は食い物が来る前に飲み干すから、次は熱燗もらうよ。
この前だらだらヨミ博士と飲んでたら、ソコソコいけるようになった。
「キャプテン、美味しいです。私は梅肉派です」
そうかい。
箸の使い方も様になってきて、鱧を梅肉につけている。
「フィ=ラガは箸文化だからね。地上でポーラ姉ずっと練習してたよ」
「レーティアさんにも教えてもらいました」
子供のいない俺は他人に箸の使い方を教えたことがなく、うまく教えれなかったが、正しい教え方をすればすぐ上達するものだな。
「いえ、キャプテンの教え方も上手でしたよ、私がだんだんと馴れただけです」
「ポーラ、気遣いは無用ですよ。船長は気にしてませんから」
「そーだよ、ポーラ姉。マスターは基本ダメダメなんだからフォローする必要ないよ。教え方もへたっぴなんだから」
まあ似たようなことを言うつもりではいたが、お前らが言うなよ。
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バレンタインデーですがこれは愛(?)の告白ではないはずですw