#スピンオフ 若者の海賊離れを嘆く女神様に変身できる眼帯をもらったけど、あたしにそんなのできっこない 8
謝罪を受け入れてようやく釈放された。
というか拒否権がなかった気がする。
その証拠にこれからマーロン三世と依頼について話をすることになった。
はっきり言って気が進まないのであたしは2つ条件を出した。
1つ目は同室にいたくないのでモニター越しの会話にすること。
2つ目は1時間限定の交渉でそこでまとまらなかったとしても、今後は干渉はしない。
また怒り出すかと思ったけど何とかのんでくれたので一安心。
さてこのまま船に戻って逃げようとしたけれど、そうは問屋が卸してくれなかった。
管理頭脳に高級レストランの個室に案内された。
仕方ないのでブロンに連絡し、マーロン三世の情報を手に入れようやく何に巻き込まれているのかを知った。
ドラパパ……日下部さんだっけ、派手なことしたんだね。
おかげで困ってます。
まああたしも日下部さんに迷惑をかけたんだけどさ。
まあ気が進まないけど……眼帯に頼むしかないのかなぁ。
「ではこれからこの星で最高の美食を食わせてやろう、感謝しろ」
「いらねえよ、この星のメシはまずいからな」
もう一人のあたしが毒づくとマーロン三世は鼻で笑う。
「それは貴様が美味い店を知らないだけだ。この美食名人の俺が最高級の……」
「ああ、勘違いするなよ、このハゲ」
「ハゲ、だと! そのそも貴様が……」
「うるさい黙れよ、このインチキ名人」
「貴様! インチキだと」
「黙れって言ってんだよ、インチキハゲ! これ以上あたいの言葉を邪魔するならもう出ていくぞ!」
こういう風に面と向かって罵倒されたことがないのか顔を真っ赤にしているが、それでも何とか自制心があるのか黙る。
歯を食いしばった形相が怖いんですけど。
「この星の料理は苦い。何がほのかな苦みが上品だ、苦いってのは美味いにはならねえよ。なんでこの星が辺境かわかるか? こんな苦い料理が美味いって言いはられたらそりゃあ宇宙船もよりつかねえよ。メシはまずいし儲けがないって最悪じゃないか、この星は。そんな中で美食名人ってなんだよ、笑わせるなよ。宇宙的にはこんなまずいメシをしたり顔で最高の美食って腹がいてぇ」
とテーブルをたたいて大笑いする。
マーロン三世はというとさっきより顔が怖くなっているけどまだ耐えている。
「まだペットフードのほうが美味いわ、……ああ、腹がいてぇ。で何だっけ、ペットフード名人があたいに何の用だって?」
言ってる内容はともかく、あんな怖い顔している人を罵倒できるってのはすごいなあと思うんだよ。
あたしじゃあどうやっても無理だもん。
「まあいい、メシがいらないというならそれでもかまわん。依頼の話だ」
マーロン三世はどうにか気を取り戻して話を進める。
「数週間前、この星に宇宙船イザヨイの船長日下部晃が300年物のワインをオークションに出した。奴はまだ持っているはずだ。手に入れてこい」
「おいおい。『手に入れてきてくれませんか?』じゃないのか? まったくワインを強奪しようとして捕まった犯罪者は口の利き方も知らないのか?」
希少なワインを手に入れるがために武装用の管理頭脳で宇宙船に攻め入る準備中に警察に捕まったというニュースが数週間前にこの星であったらしい。
犯人は今モニターに映っているマーロン三世。
よくもそんな犯罪を犯しておいて執行猶予がついたものよね。
この星の司法は本当におかしい。
お金持ちかもしれないけど罪を犯したのならしっかりと罰を与えてほしい。
中途半端だからあたしが迷惑するんじゃないの。
「ワインを素直に出さないあの日下部が悪い」
「おいおい、ワインをタダでとろうとしたんだろう? どう考えてもお前が悪いさ」
だよね、世の中そんなに甘くないよ。
「300年物のワインだぞ! 凡夫が飲んでどうする! 俺のような選ばれし人間が飲むべきものだ!」
「吠えんなよ、勘違いハゲ。あたいは口の利き方を知らないかといったのに、なんでお前の主張を聞かなきゃならないんだよ。いい加減、あたいに対して下手に出ないならもう帰るぞ」
「……依頼する。ワインを手に入れてきてくれ」
「お願いします。どうかこの勘違いハゲにワインを手に入れてきてもらえませんか、美しいお嬢様、だろう?」
おお、マーロン三世のこめかみに血管が浮き出てきた。
経歴見ると甘やかされて育ってきているようだからこういうの許せないだろうな。
あたし的にはさっさと逃げたいのだけど、やっぱり眼帯するんじゃなかったかな。
「……お願いします。どうか……この勘違いハゲにワインを手に入れてきてもらえませんか、美しいお嬢様」
おお、絶対言わないと思ってたけど言ったよ。
苦虫を噛みしめた顔ってこういう顔なんだろうか?
「ほう、良く言えたな、勘違いハゲ。受けてやらないこともないが、金は払ってもらうぞ」
あれ?
受ける気なの?
「5000万払う」
「おいおい、知らないと思ってるのか? オークションに出た300年物が8000万近くで落札されてって知ってんだよ。こっちは手に入れるだけでなく往復の手間もかかるのに5000万ってバカにするにもほどがあるってもんだぞ」
マーロン三世が舌打ちするのが見えた。
「5000万は前金だ。成功報酬でもう5000万だ」
「ふざけてるのか。前金1億、成功報酬2億だ」
おお、計3億。
ふっかけたなぁ。
マーロン三世は少し考え、
「前金5000万、成功報酬1億でどうだ」
と刻んでくる。
それに対してブラッディー・クイーンは、
「前金2億、成功報酬3億だ」
えっと……値上げで対応する。
「おい、ふざけてるのか!」
だよね、普通は最初に高い金額言って値を下げていくよね。
「不満か? じゃあ前金3億、成功報酬4億でどうだ?」
ニヤッと笑ってさらに値上げする。
絶句するマーロン三世をいいことに、
「わかった前金4億、成功報酬5億で手を打とうか」
うわ、えげつないな。
相手が何があってもワインを手にいれたいと思っていることに付けこみ、値を釣り上げていく。
確かにあたしとしては受けたくはない依頼だけどこれだけ高いと少し考える。
「まて、前金が高すぎだ! 持ち逃げされたらかなわない。前金5000万で成功報酬で5億払おう」
ああそうか。
持ち逃げするって手もあるのか。
そっか、クイーンはだから前金を釣り上げてるのか。
「そうか。あたいを信用できないっていうなら話はここまでだな」
「ちょっと待て!」
交渉決裂を立ち上がろうとするとマーロン三世は慌てて引き留める。
「前金1億、成功報酬5億でどうだ」
「前金5億、成功報酬6億だ」
クイーンは引かず、さらに値を上げる。
あくどいなぁ。
「……わかった。それでいい」
がっくりとうなだれるマーロン三世にクイーンはニカっと笑い、
「じゃあ前金6億、成功報酬7億で契約成立だな」
どさくさに紛れてさらに値をつり上げる。
反論してはまた値が釣り上げられるのと思ったのかマーロン三世は黙って頷いたんだけど……、あれ、なんか大事になってない?
スピンオフあと1話です。
今回の話を読んで「あれ、それなら……」と思われた方もいるかもしれませんが明日語られます。
この後、活動報告に今後の予定を書いておきます。
良かったらみてください。