#スピンオフ 若者の海賊離れを嘆く女神様に変身できる眼帯をもらったけど、あたしにそんなのできっこない 7
あたしの取り調べは時間がかかった。
まずあたしが人間の警察官との会話を怖がったことで話が進まない。
医療用の管理頭脳からパニック障害の疑いを受け、病院に搬送され、長期の宇宙生活によって解離性同一性障害ではないかと診断された。
マーロン三世に暴行をしたあたしは二重人格と判断されたみたい。
正直に眼帯の呪いですと言おうものならさらに病院が長くなるだろうから、ぐっと黙ってその診断を受け入れた。
そして今度は警察の管理頭脳に取り調べをされることになった。
あたしが人間相手だとおびえて取り調べにならないというのが理由だ。
そして今あたしは正当防衛を訴えている。
あんなに詰め寄られたらそりゃあ怖いでしょう?
身に危険を感じるのが当たり前じゃない?
そもそもあの人、犯罪者なんでしょう?
野放しにしておく方がおかしい。
何よ、あの保護観察用の管理頭脳!
犯罪おきても記録だけして助けないってこの星の管理頭脳はどうなっているのか?
執行猶予中の本人の行動を見守って、それで犯罪を犯したときの証拠にはなるかもしれないけど、被害者の身にもなってよ!
と相手が人間でないならこれくらいのことは言える。
「マーロン氏は確かに高圧的でした。ですがそれは幼少期からのことです。特権階級だと自分のわがままを通してきた結果です。また最近犯罪を犯し、周りに当たり散らしたせいで彼の使用人や取り巻きがすべて離れてしまいました。ゆえに彼は精神的に追い詰められています。情状酌量の余地があります」
ちょっと待って!
言い分がなんかおかしい!
あれがセーフであたしが過剰防衛っておかしいでしょう?
あたしがこの星の人間じゃないからってひどくない?
この星の司法はどうなってるの!
どんな忖度、働いてるのよ!
他の星でこの星の司法はおかしいって訴えて、誰も立ち寄らないようにするんだからね!
とあたしの最後の一言に管理頭脳が止まる。
取調室には私と管理頭脳しかいないが、様子はモニターされているはずだ。
最後の一言に反応したということはきっとそれは困るんだろう。
考えてみればこの星からのゲートは一つしかない行き止まりのいわば辺境。
そしてこれといった観光名所もなければ、料理も苦いではそれは宇宙船が立ち寄らないだろう。
ここは攻めるべきだろうか?
でも攻めたら逆切れされて、この星に拘束されるってこともありえないかな?
そんなこんなを考えていたら管理頭脳が思いもかけない言葉をかける。
「マーロン氏が示談を申し込んでいます」
示談?
「はい、一つ依頼を受けてくれるなら示談すると」
お断り。
なんであいつの依頼受けないといけないの?
いやよ、いや!
あたしの即答に管理頭脳がまた固まる。
いったい何だって言うんだろう?
「マーロン氏が一度話をしたいと言っています」
犯罪者と話すなんて怖いからいや。
そんな至極当然の要求をなんでか受け入れてくれない。
すったもんだのやり取りの後、モニター越しでの通信でということになった。
「依頼を引き受けろ」
モニターに現れたマーロン三世は開口一番そう言ったのであたしは通信を切った。
あの人、頭がおかしいのではないか?
そうあたしが管理頭脳に告げると、向こうも向こうでいきなり通信を切るのは無礼だと言ってるそうだ。
やだなあ、本当にやだ。
なんでこんなことになったんだろう。
もう帰りたい。
しばらく部屋の隅っこでうずくまっていたら管理頭脳がマーロン三世が今度は謝罪すると言ってきたと告げる。
「謝罪する」
仏頂面で頭も下げずにそういうのであたしは通信を切った。
管理頭脳を通じて無礼だの不作法だのと文句がきている。
あれのどこが謝罪っていうのよ。
あたしはこう見えても宇宙歴が長いから自星の謝罪のルールが一般的ではないことは知っているけど、あれがこの星の謝罪の一般的だっていうの?
違うでしょう?
なら無礼はそっちじゃないの?
他星の人間に何してもいい星なの、この星は?
管理頭脳が静かになる。
どうにもこの管理頭脳を通じて対応をしている職員が慌てているようだ。
この星の悪評を広めるのは避けたい模様だ。
ねえ、もう釈放してくれない?
今ならこの星の悪評はあたしの胸にしまっておくよ。
そういうと少し向こうがざわめいた気がするが返事がない。
仕方ないのでまた部屋の隅っこに行ってうずくまっておく。
帰りたい。
それからしばらくして今度こそ謝罪すると言ってきた。
断る選択肢が欲しい。
ダメ?
ならこれだけは言わせて、あたしの星だと男は謝罪するときに坊主にしていないと本気の謝罪と認めてもらえないって風習があるの。
とあたしが言うと管理頭脳を通して「ふざけるな」と小さく聞こえたような気がする。
あたし的には当たり前の風習なんだけど、確かに他の星ではそんなことはないことは知っている。
ただ心情的には知っておいてもらいたかった。
それからしばらくまた管理頭脳の応答はない。
帰らせてくれないかなとまた部屋の隅っこで座っている。
結局ここが一番落ち着くポジションだ。
「これで満足か!」
唐突にモニターから声が聞こえ、見ると坊主になったマーロン三世が不機嫌そうにこっちをにらんでいる。
満足というかあたし的にはようやくスタートラインなんだけど?
誤字報告、感想、ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。
本編のほう170話くらいまでの展開が決まり、現在次のシリーズの150話までの構成中です。
今日中に終わらせて、明日からは執筆を開始したい。