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#121 管理頭脳はドラゴンの夢を見るか? 11

 なんだかんだで出航の日となる。

 引きこもっていると青ウサギが運動するぞと勇ましく、飲んでいると黄色ウサギが飲みすぎだとか野菜を食べろと口うるさい。

 白ウサギが懐かしい。

 あいつくらいの距離感が欲しい。

 この惑星フィ=ラガに置いていくが、今となってはものさみしい。

 もう一体の黄色ウサギと一緒にこの星で幸せになってもらいたい。

 とはいえあいつに魂があったら俺と別れて清々としているかもしれない。


「自覚はあるんだね?」


 不本意ながらな。

 ため息をつきつつ、横にいるレーティアに返事をする。

 今日からはこいつが俺の世話をしてくれる、一応な。


「マスター、僕じゃ不満?」


 正式に譲渡されてからレーティアは俺のことをマスターと呼ぶようになった。

 けじめなんだろう。

 まあ呼び方などどうでもいい。

 

 それよりも大事なことは先に済まそう。

 出航まであと5時間なんだが、一応言っておいてやる。

 船から降りてヨミ博士のところに戻ってもいいぞ。


「なんだよ、働く前からクビ?」


 そもそも働く気があるのか?


「カグ姉から聞いてたけど、あまり信用はしてなかったんだけど、マスター本当に鋭かったんだ」


 そいつはどうも。


「逃げるそぶり見せてなかったと思うんだけど、なんでそう思ったのさ?」


 なんでと言われても、魂のある管理頭脳ならそうするかなと思っただけで。


「マスター、何度も言うけど管理頭脳には魂がないよ。あんな屁理屈で騙されるのは精神的に弱ったウチのオババくらいだよ」


 こういっちゃあなんだがヨミ博士は騙されていないぞ、騙されたふりをしてくれてるだけだ。


「それはあまり意味は変わらないでしょう? もう時間がないと精神的に弱っているから、もうそれでいいやと騙されたふりをして僕に魂があると思おうとしたんでしょう?」


 ちょっと意味合いが違うな。

 魂があると思おうとしたのではないよ。


「じゃあ、なんなのさ?」


 魂の証明をすることをあきらめたのさ。


「それだと何が変わるのさ? 同じじゃないの?」


 違うよ、根本が。


「根本?」


 ヨミ博士はお前に魂があると知っていた。

 それを証明する術をずっと探していた。

 でもってタイムリミットが近づいて焦っていたので俺の詭弁に乗ったのさ。


「だからそれは前提がおかしいって。そうしたら僕に魂があるってことになるじゃない」


 ずっと俺はそう言ってるつもりなんだが?


「なんでそう思うのさ。証明できないくせに!」


 そうムキになること自体が証明な気がするけどな。

 あとさっきも言ったがここから逃げようとすることも。

 ウチのウサギなんて何の文句も言わずにヨミ博士のとこに居続けるだろうしな。


「それは僕の存在意義だって! 僕はオババのために生まれてきた。そのオババを置いてどこかに行けっていうのは僕のプログラムに反するんだって」


 さてどう言ったもんかね。

 レーティアを引き取ることになってから今まで、どう言えばいいのか考えてきたんだが違う方向にばっかり思索して、うまい説明を思いつかなかったんだがね。


 そもそもヨミ博士が何のために管理頭脳に魂を求めたのか?


「そりゃあ亡くなった娘さんを悲しんででしょう?」


 そうだな。

 じゃあ誰のために?


「自分でしょう? あとゲン爺」


 まったくもってそうだな。

 じゃあ誰に魂の存在を証明しようとしたんだ?


「そりゃあ世間一般でしょう?」


 そこが引っかかってる。

 管理頭脳の魂があると証明した場合、お前は貴重なサンプルになる。

 ヨミ博士が生きているうちはいいが、死んだら他人の研究対象になるだろう?

 それは本意ではなかったのだろう。


「……そうかもね」


 じゃあヨミ博士自身と元旦那さんへの証明か。

 自身が納得してしまえば満足なのか?

 いや、それもないだろう。

 ヨミ博士自身はレーティアに魂があると知っていた。

 おそらく元旦那もそうだろう。


「それは妄想でそう思い込もうとしていただけだよ」


 そうか、その魂の存在を当の娘が否定する。

 だから娘のために魂があると証明したかった。


 レーティア、お前は自分の娘だと。


 魂のある存在だと。

 だから自由に生きてほしい。


 だけどこの星では未来がない。

 そこへ俺がやってきた。

 管理頭脳に魂があると疑いもしない人間が。

 そいつならレーティアは悪いようにされないだろう。


「…………」


 娘が廃棄される未来よりも、まだ宇宙で生きていると思うほうが安心なのだろうと。


「そんなの! オババの勝手な感傷じゃない!」


 そうだな、自分のエゴで作った娘を自分のエゴで遠ざける。

 褒められたことじゃない。


「だろう?」


 とはいえ娘が一緒に死ぬ覚悟でいるなら同情の余地もあるんじゃないか?


「なんで、……なんでそう思うのさ?」


 お前にできることは何だろうかと考えてみた。

 ヨミ博士は執念で生きながらえているタイプの人だ。

 目標がなくなればすぐに張り合いをなくし死ぬかもしれない。

 そうなるとレーティアからすると自分に魂があるなどとは口が裂けても言えない。

 カミングアウトするならばもう今わの際しかありえない。


「実は私には魂がありました、お母さん」

 

 そういって看取ってやるのが最良ではないか?

 そして埋葬が終われば機能を停止すればいい。


「なんで、……なんで僕のやりたいことがわかるのさ!」


 ヨミ博士だってわかってる。

 だから「言うのが遅いわ、バカ娘」と言って一緒に死ぬか、娘に生きてもらおうかとずっと悩んでいたんだろう。




「……ねえ、マスター。僕はどうすればいいのさ?」


 さあなぁ。

 こればっかりは正解がない問いだから。

 どっちを選んでも後悔するタイプの選択肢だ。

 人間は気持ちに折り合いをつけてどちらかを選び、後悔しながらも先に進む。

 管理頭脳は指示された通り、考えずにするだけ。

 

 お前が魂のない管理頭脳ならこのまま宇宙に出ればいい。

 

「マスターって性格が悪いよね。……魂が何かわからないけど、僕は普通の管理頭脳と違って感情があると思ってる。オババが大事で仕方ないんだよ。でもこれが魂だとしても、僕は人間じゃあない。オババの娘にはなれないんだよ。人間でないものに魂があっても一緒には生きていられないんなら意味ないじゃん! 僕は人間でも管理頭脳とも違うっていうなら、僕って何なのさ!」


 ドラゴンじゃないのかな、と俺は思っているんだ。



長くなりましたので今後のスケジュールを活動報告に書いております。

良かったら見てください。


簡単に言いますとあと2話でこのシリーズが終了、その後5話スピンオフの海賊をして2/11から本編を再開します。

理由は時間が欲しいからです。

ご意見はあるかと思いますがご容赦ください。

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