#120 管理頭脳はドラゴンの夢を見るか? 10
形式上のレーティアの譲渡は完了した。
それでは「ハイ、サヨウナラ」といかないのが人の世の情けというものだ。
レーティアのいう通り、自称老い先短いおいぼれをそのまま帰すわけにもいかない。
俺の担当の白ウサギに調理プログラムをインストールし、医療用の黄色ウサギの予備機に介護プログラムをインストールして譲渡することにした。
「個人で持つには過剰ですが、レーティアとの交換と考えるならもう一体あってもいいかもしれません」
レーティアはウサギ3体分かよ。
「ですので私たちがいなくなった後で手に入るコンテンツ代はヨミ博士も使えるようにしておきます」
それはいい考えだな。
将来的にこちらに立ち寄ることもあるだろうが、それくらいは素体代として支払うべきだろう。
現在ヨミ博士、レーティア、ポーラ、ウサギ2体は地上にいる。
ウサギたちの教育はデータ上で済むのだが数少ない付き合いのあった人間はそういうわけにはいかない。
挨拶まわりを含めて引継ぎをおこなっている。
ポーラも休暇がてら同行させることにした。
急ぐ旅ではないといってもヨミ博士が死ぬまで待つわけにもいかない。
死ぬのを待っているのはさすがに感じが悪い。
そもそも平均寿命が200歳前後で、ヨミ博士が現在210歳。
この星の今までの最長寿が246歳だそうだからそれくらいはいっても不思議はない。
かといってさっさとこの星を去るのも感じが悪い。
それならば一緒に宇宙にとも思ったが、カグヤ曰くそれは非常識な誘いなのだそうだ。
人は生まれた地上で死にたいものらしい。
また迷惑をかけた元旦那を地上に残して宇宙で死ぬと心にしこりが残るらしい。
またヨミ博士には宇宙で生活する適性も低いらしい。
となるとどうしようもない。
さてどうしたものかと考えているとヨミ博士のほうから早めにどこか行けと言われた。
長くいられると決心が鈍るのだろう。
俺だけならいつ出発しても構わないのだが、ポーラがいるだけに少しは地上で休ませたいという思いはある。
イザヨイの酒蔵から辛口の日本酒を根こそぎ持って行ったヨミ博士に、40日後に今作っているものが贈呈できるというとそこまでは滞在できることとなった。
ということで現在絶賛引きこもり中と言いたいところだが、白ウサギがいないと不便ではある。
朝飯の注文が面倒くさくて食べずにダラダラしていたらカグヤに怒られ、しぶしぶ朝から喫茶室に行くことになる。
引きこもっているときにコーヒーをいれてくれる白ウサギがそばにいないので、前もって水筒にコーヒー淹れてくれと言ったら、淹れたてをデリバリーするから呼べとピンクウサギに怒られる。
酒を飲みすぎて部屋に帰るのが面倒になった時、もしくは道に迷った時に面倒くさくなって食堂に戻って奥座敷で寝ていたら、酔いつぶれたと思われて医務室に運ばれたこともある。
本当に困ったもんだ。
「困っているのはこっちです! こんなことならポーラの白ウサギをヨミ博士のところに渡して、当面は黒ウサギをポーラの護衛とさせるべきでした。宇宙船の生活もずいぶん慣れてきたから何とかなるという言葉を信じるのではなかったです」
最低限、何とかなっていると思っているんだが?
「船長の最低限と私の最低限とは認識にだいぶ隔たりがあります」
おかしいなぁ。
別に引きこもっている分には問題ないんだけどなぁ。
「おかしいのは船長です」
いつもながら平行線だ。
「本当です。もう少しましかと思ってました。白ウサギの苦労がしのばれます。自分の服も準備できないなんて」
脱いだ服はクリーニングボックスに入れてるぞ。
スーツはクローゼットに返ってくるのでは?
「船長はわざわざ自室では地球時代の服を着ているでしょう? それの洗濯もクリーニングボックスでいいんですけど、返却は寝室には戻らないんですよ」
そうなのか?
言われてみたら下着が減ったなあと。
「船長の寝室は特殊ですからね、直接送れないんですよ。クローゼットの下の引き出しに入っていくんですよ」
それは知らなかった。
「いつも白ウサギがそれを寝室に運んでいたんです。いま溜まっていますのであとで回収しておいてください」
了解。
「本当に失敗しました。まだ宇宙に出たばかりのポーラの環境を変えるのはどうかと思って船長にしたんですが、本当にひどいですよね。こうなると使ってない予備機を急いで改造すべきでした」
白ウサギは料理担当のピンクウサギと同等の指先までの器用さと、護衛担当の黒ウサギと同等の運動性能を持つ高性能タイプでイザヨイにも2体しかない。
増産は可能だが、どうせこの星で目当ての素体の他にも汎用性のものを購入予定だっただけにそれからでいいと思っていたそうだ。
俺的にも慣れた白ウサギがいなくなるには難色をしめした。
だが外見も学習データもそのままで機能が拡張した白ウサギに生まれ変わるということでしぶしぶ受け入れた。
まあヨミ博士が娘をこっちにくれるのだ、俺もウサギを出すべきだろう。
俺的には同等なのだが、相手がどう思ってくれるかは疑問だが。
差し当たっては当面の俺の生活だが。
「医療用の黄色ウサギと運動用の青ウサギを船長のフォローにまわします。どのみちポーラがいませんからその2体を使うのは船長だけですし。とりあえずそれでしのいでください」
いや、そこまでしなくても。
1体あれば最低限はなんとか。
「もう船長の最低限は信じません!」
不思議なことに俺の言葉はカグヤに強く拒否された。
誤字報告、ブックマーク、評価してくださったかたありがとうございます。
このシリーズはあと3話です。
それはさておき白ウサギにファンはいませんよね?