#118 管理頭脳はドラゴンの夢を見るか? 8
「キャプテン、今朝は珍しく早いですね」
翌朝、食堂でポーラと会う。
それは違うぞ、早いんじゃない、ずっとここにいるだけだ。
「どうしてですか?」
ヨミ博士が結構遅くまで、というか朝方まで飲んでくれたので、お開きした後、久々の接待したせいか疲労感がでて、酒でも飲まないとやってられないと、ダラダラ酒飲んでいたらこんな時間だ。
「それは……大丈夫なのですか?」
もうちょいしたら寝るよ。
てか今、しめにカニ雑炊を作ってもらっているけど一緒に食うか?
「カニですか!? いただきます」
この子はカニでもこのテンションか。
「これはスープリゾットですか?」
茶碗に入った雑炊にカニの身がたっぷりと乗っかっている。
見た目はどうか知らんが、味はたぶん違うと思うぞ。
「キャプテン、このお米すっごくおいしいです」
それはよかった。
「朝からこんな贅沢していいのでしょうか?」
昨晩おでんがイマイチお気に召さなかったみたいだったからな、いいんじゃないか?
「いえ、あれもとっても美味しかったです。……ただ」
はいはい、魚感がなかったのね。
ポーラはああいうのは苦手というか、納得できないのね。
「おはよー」
と、レーティアが眠そうなヨミ博士を伴って食堂にやってくる。
早いな?
「年寄りは朝が早いんだよ」
「うるさい!」
老化しない体でもそうなるのか?
「お水もらうね」
レーティアが給水器に水を取りにいく、ヨミ博士は俺の横に座り、
「オートミールか?」
米ですが。
一杯どうですか?
「少しくれ」
ピンク、もう一杯頼む。
「これはなかなかいけるな」
「ですよね」
それはよかった、まだあるからいくらでも食いなさい。
ピンク、あったかいお茶をくれるか?
「オババも水飲みなよ、昨日飲みすぎたんだから」
「わかっとるわい」
「小僧、素体が欲しいんだったな?」
ポーラとヨミ博士が朝から3杯の雑炊を食べ、お茶を飲み、人心地ついてから話しかけてくる。
「全部持ってけ、その代わり一つ頼みを聞いてくれ」
あんまり無茶言わないでくださいよ。
「大したことじゃない、レーティアを連れて行ってくれ」
「オババ! なに言ってるのさ!」
即座に当のレーティアが反応する。
「ワシももう歳じゃ。いつ死んでもおかしくない。まあ死ぬのは構わないのだが、レーティアが心残りでな」
「僕のことより自分の心配しなよ。オババ、僕がいないと何にもできないだろ」
「うるさいのぉ! お前だってワシが死んだら生きていけまいが」
「管理頭脳なんだから他の誰かに使ってもらえるよ」
「バカ言うな、お前みたいなカスタマイズされまくった管理頭脳なんか危なくて廃棄処分にきまっとろうが!」
そういう危険なものを押し付けないでもらいたいんだけど?
「お前さんにとっては魂のある管理頭脳だろう?」
ああ、そういうことですか。
「オババ、本末転倒だよ。僕はオババのために生まれてきたのにオババを置いてどこか行けなんて、僕の存在意義に矛盾が生じるよ」
「その作った人間が譲渡するといっているんだ。問題があるまいが」
「それは……そう、なんだけどさ」
レーティアは言葉に詰まる。
「ワシももう210歳、いつ死んでもおかしくない。ゲンの奴も死んだしな。死ぬのはまあもう覚悟ができてるが、心残りはレーティアだけだ」
ヨミ博士は静かに語りだす。
「レーティアはワシとゲンの娘じゃ、だが誰も認めてはくれん。ただのカスタマイズされた管理頭脳じゃ」
こういった個人購入の管理頭脳は身寄りさえあれば引き継がれるが、天涯孤独となると遺産は国庫に回収される。
再利用できるなら初期化され、別の持ち主のところにいくのだが、
「まあ、レーティアは無理じゃろうて」
そもそも規格が違うらしい。
ここから発展させ新しいものを作るには一からの研究となり、手間がかかるだろうと。
一つの資料として残してもらえれば御の字らしい。
「それなら物分かりのいい小僧にもらってもらいたい。その方が娘にとって幸せだろうよ」
娘を嫁に出すように言わないでくれないかな?
「おお、まさかワシがそういう気持ちにさせてもらえるとは。ゲンがいたら『貴様のような引きこもりに娘はやれん』と殴っていただろうよ」
いつ俺が「お嬢さんをください」と頼みにいったよ。
しかも殴られるのか?
「ちょっと待ってよ! そういう意味なら僕だってこの引きこもりを拒む権利があるよ」
なんかだんだん俺のディスり大会になってないか?
誤字報告、感想、ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。
細部はまだですがこのシリーズが大まかに書き終わりました。
全13話になります。