#117 管理頭脳はドラゴンの夢を見るか? 7
レーティア、一応聞いとくが、お前のとこの主人は酒に強いのか?
「ザルだよ」
なら安心した。
もうそろそろ一升瓶あけるくらい飲んだかなと思っただけで。
急性アルコール中毒だけが心配なもんでな。
「いい歳だから控えさせたいんだけどね」
「うるさい! とうとうゲンも死んだことだしワシじゃっていつ死んでも不思議のない歳じゃ、美味い酒と美味い食い物くらい好きに食わせろ!」
まあたまにならいいんじゃないかな、お好きなだけどうぞ。
ちなみに俺はもうこっそりと水にしている。
あとポーラは部屋に戻らせた。
もうだいぶ夜も更けたからな。
「で、なんの話してしておったかのぉ?」
なんだったっけ?
「おじさんの国のSF談義をダラダラとというかグダグダとやってたよ」
「おお、そうじゃったな。お主の星はなんか奇妙な価値観というか、ひねくれた価値観だの?」
ドラゴン倒して宇宙に出れなくなった星の住人の考えた妄想の設定だからね、ドラゴンと共存して宇宙に出た人類から見たらそう思うのだろう。
まあさすがにバカ正直に告げることはできないのでぼんやりとぼかす。
「それでも研究に煮詰まってたからな。何かのきっかけになるかもしれないが……まあ明日からじゃの」
管理頭脳の研究してるんですってね。
この星では融通の利く管理頭脳が開発されていると聞いてたけど、博士のそこのレーティアを見る限りかなり人間ぽくできてますね。
さらなる発展のためにも変わり者のデータが欲しいらしい。
俺は変わり者ではないとそろそろわかってくれたことだろう。
「これがワシの最高傑作であり限界でもある」
ヨミ博士はくいっと酒をあおる。
「小僧、ワシの夢は魂を持った管理頭脳を作ることだ。別に笑っても構わんぞ」
笑いどころがわかりませんが?
真顔で言ったせいか逆に博士はキョトンとした顔をする。
「小僧は本当に変わったやつだな。ワシのこの話を聞いて笑わないのはゲンくらいじゃと思ってたが」
旦那さんでしたっけ?
「元な」
この見た目幼女と結婚するくらいだからよほどのロリコンかと思っていたがカグヤの話では実直で誠実な男だったという。
ヨミ博士とは幼馴染で遺伝子異常が発覚してからは陰になり日向になりフォローをしてきたらしい。
その縁でいつしか結婚し、
「ルクレーティアという娘が生まれた。まあこの身体じゃ、未熟児として生まれ、長生きはできんかった」
この星の医療技術は地球よりも発展しており、新生児の死亡率は低下しているがそれでも0ではない。
ついでに言うなら小さい体で産もうとした母体のほうもダメージが大きく、一時は生死をさまよったという。
一命をとりとめたものの、目覚めたときには娘を失っていた。
その後ヨミ博士は管理頭脳の研究に没頭したという。
死んだ子への執着か、はたまた妄執か。
心配して慰める者、止める者もいたが頑ななヨミにいつしか離れて行った。
旦那であるゲンとはほどなくして離婚した。
表向きは彼女の妄執について行けなかったのだろうと思われているが、彼は彼で素体づくりに没頭した。
なんのことはない、彼は彼女を愛していた。
そして失った娘も愛していた。
彼女が管理頭脳に魂を宿すということで娘を生き返らせようとするのであれば、体を作るのが夫の務めだろう。
それからの彼の人生は最高の素体を作ろうとした生涯だった。
さて笑うところがない。
他人から見たら愚かに見えるかもしれないが当の本人たちはそれが最良だと思っている。
たとえ魂を持った管理頭脳ができても娘の代わりにはならないことは百も承知だろう。
それでも200年近く追い続けた執念を、何も知らない俺が何かを言う資格もない。
それくらいの分別はある。
「魂ってなんなんじゃろうか。レーティアは20年くらいじゃが、あと80年で魂が持てるのかの?」
だいぶ酒に酔ってきたのだろう。
ちょっと上体が揺れているのをレーティアが支えている。
本当にね、魂ってなんなんだろうね?
カグヤで禁則事項になっていることから考えるに、三大人類不可能領域の自律思考型管理頭脳の隠しギミックと推測する。
魂を解明したら管理頭脳が向上するのか、何かをしたら管理頭脳に魂が宿るのか。
その辺は全く未知の領域である。
さすがに200年近く研究してわからない人を差し置いて解明しようとするのはおこがましい。
気休めを言うようですけどね、魂って何か誰も証明できないんでしょう?
「そうじゃ」
ならいいんじゃないのかな。
そこのレーティアには魂があるっで。
「なんでじゃ。どこにあるっていうのじゃ! 何が魂だ!」
逆に考えてみよう。
じゃあレーティアに魂がないと証明してください。
存在を証明できない、定義できないから管理頭脳に魂があると言えない。
なら逆にないとも証明できないという寸法ですよ。
「小僧、それは詭弁じゃ! 屁理屈じゃ!」
もちろんそうですよ。
でもそれでいいんじゃないかなと。
俺が保証しますし。
レーティアには魂があると。
前にも言いましたが、俺は物に魂が宿ると信じている国の人間です。
そもそもウチの国ではアニメキャラを嫁と言う人種が大勢いる。
それに比べたら実際に動いて喋る管理頭脳に魂があるって言って、疑うものがいるわけもない。
ウチの星に来たら「レーティアたん」と呼ばれて人が群がること間違いない。
歌って踊ればもう一瞬でトップアイドルだな。
もっといえば母娘でデビューできる。
娘よりもロリな母親はそれこそアニメの世界のみの話だ。
空前絶後の大ブレークですよ。
「……お前はほんとに……変わり者じゃな」
ヨミ博士は盃の酒を一気に飲み干すし、呆れた顔で俺を見る。
だが保証しますよ。
管理頭脳に魂がない?
なら考えは逆だ。
管理頭脳に魂を認めてくれる星に行けばいい。
今までが嘘みたいに認めてもらえますよ。
レーティアは天使扱いで、あなたは女神と称えられるでしょう。
もちろん旦那さんだって神様扱いだ。
いや、この造形美からしてみたら旦那さんのほうが功績を認められることでしょうよ。
たまには物事を違う方向から見てみればいい。
見える景色がまるで違うってもんさ。
「バカバカしい。本当にバカバカしい。……でも、ならもう……それで、いいか」
レーティアに倒れ掛かり寝息を立てる。
どうする?
医務室運ぶか?
「いや、これくらいなら大丈夫だよ。でも、寝室貸してもらえる?」
準備してるよ。
白ウサギに案内させよう。
「おじさん、……ありがとう。なんかこんな風に穏やかな顔のオババって初めて見たよ」
そりゃあよかった。
さて、じゃあ俺はこれからもう少し飲むかね。
ピンク、残った酒とつまみを持ってきてくれ。
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このシリーズの折り返しです。
現在この続きを書きつつ、次のシリーズを構築中。
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時間が欲しい。