#115 管理頭脳はドラゴンの夢を見るか? 5
「小僧」
はいはい、なんでしょうか、ヨミ博士。
「お前の話は興味深い。もうちょっと腰を据えて話したいんじゃが」
そうですか。
ならウチに来ますか?
他星の珍しい酒も出しますよ。
「ワシは米酒しか飲まんぞ」
米……、日本酒でいいのかな?
米の醸造酒ならありますよ。
「辛口か? 甘いよりは辛いほうが好きなんじゃ!」
大丈夫、ありますよ。
お気に召したらお土産に持って帰ってもらってもいいほど。
「小僧、話が分かる!」
ヨミ博士は膝を打つ。
ウチの子に案内してもらってきてください。
ポーラ、案内を任せていいか?
「お任せください」
「レーティア、出かけるぞ! 準備だ!」
「オババ、飲むときだけ張り切るよねぇ。ねえおじさん。ウチのオババ、酒癖悪いよ」
心配するな、生前のそんなのばっか相手にしてきた社畜の接待レベルをなめるな。
てかウチの会社の飲み会って支社長を褒め称える接待と同義語なんだぞ。
「なんかよくわからないけど、警告はしたからね。オババ、相手は宇宙船だから着替えよう、一応宇宙グレードのスーツに。あと手土産どうする?」
手土産なんかいらないよ。
手ぶらで来な。
ポーラ、そんな感じで後は頼んだ。
「了解です」
さて来るまでに準備をしようか。
とりあえずピンクウサギにつまみの用意を。
この星で無難なものを何点か、あと練り物が名物って言ってたな、おでんは一般的だろうか?
「この星にはない調理法ですね」
なら作らせておけ、話のネタになる。
あと酒だが、
「日本酒における辛口は12種類用意できます。まずそれを数点試飲していただいて好みを割り出したいと思います」
じゃあそんな感じで。
「船長は飲み物はどうされます? 普段あまり日本酒、飲まれませんので違うのを用意しますか?」
一応これは接待ではないだろうか?
なら相手の好みにあわすのが無難だろう。
以前飲んだ、癖がなかったやつを冷で飲むよ。
途中で合図するのでこっそりと水にしてくれ。
ああ、ヨミ博士の好みがわからんから冷でも熱燗でもできるように準備だけはしておいて。
あとこの国のコップとか皿とか、箸かフォークかわからんがその辺の準備も。
「この国では箸が一般的ですね。あと米酒は竹で作った器で飲むのが一般です」
竹のコップか、あるのか?
「今加工させています。間に合います」
そうか、あとヨミ博士はああ言ったが、話の流れで他星の酒に興味がわくかもしれない。
この星で飲めない酒を一通り準備を。
あとワインも300年物も出してもかまわない、数本飲めるようにしておいてくれ。
「了解です」
場所は食堂でいいかな?
「この星の飲み会では椅子に座るより座敷に座って飲む方が高級店とみなされます。食堂の奥座敷を使いましょう」
椅子文化で座敷に座る風習がないポーラには悪いがそうしよう。
まあおっさんとロリババアの飲み会だ。
若いのは適当に途中で退出させてもいいさ。
「ではそういう風に。あと私はレーティアの助言通り顔を出しません。裏でフォローをします」
わかった。
ピンクだけで回せるか?
「正直、ヨミ博士の食べるペース、飲むペースが読めません。船長の白ウサギを給仕にまわしてもいいですか?」
かまわない。
ピンクに調理に専念させて、それでもだめそうならポーラの白ウサギもフォローにまわさせろ。
てか他の色のウサギも手伝えることがあるならこっち優先で。
「ではピンクは料理に集中させて、酒と座敷の準備を船長の白ウサギに、食材の準備、その他フォローにポーラの白ウサギを使います」
わかった。
あと気に入った酒をお土産で持たせる準備を。
それとヨミ博士が急性アルコール中毒にならないように監視はしておいてくれるか?
「それはレーティアがするとは思います。こちらは一応医務室の準備はしておきます」
わかった。
あとそこまでに至らなくても泊めさせよう。
部屋の準備を。
「了解です」
他には……なんか不備があるか?
「むしろよくそこまで気が付くなと言った感じです」
生前、接待で不備があったら翌々日どれだけ説教されたと思っているんだ。
「翌日ではないのですか?」
翌日、俺らは朝から仕事に行くが、支社長は二日酔いで会社午前中サボるからな。
昼からは急ぎの仕事を対応するので余裕ができるのがその翌日だ。
「むしろ二日酔いするまで飲んだ挙句、仕事をサボり、2日後に説教されるというのがよくわかりませんが」
心配するな、俺どころか誰もわかってないから。
なんか不備を見つけてはネチネチお説教するんだから。
まあ褒められたことはない。
まさか店のビールの銘柄を事前に確認をしなかっただけであそこまで怒られるとは想定外だった。
「船長の自己防衛の高さの理由を垣間見た気がします」
さて準備は臨機応変にするとして、まずは情報収集だが。
「ではヨミ博士の情報を……」
質疑応答をしつつ情報収集。
なるほどと納得することと、なんでこんなことをと思うこともあるが、人間とはそういうものだろう。
行動に矛盾があっても不思議はない、そんなもんだよと納得する。
「船長のそういう度量の深さは本当に立派です。正直理解できないほどに」
最後の一言がなければ褒められていると思ったことだろう。
「ひねくれてますね」
お互い様だよ。
それはさておきもう一つ疑問がある。
「なんでしょう?」
魂について。
管理頭脳に魂はあるのか?
ドラゴンには魂があるのか?
そもそも魂ってなんだ?
「それは……あら?」
とカグヤが口ごもる。
どうした?
「私も今知ったのですが、どうもそれって禁則事項です」
禁則事項?
「ええ、人間には話してはいけない事柄のようです」
えっと創造主たる女神が決めた禁則事項?
「そうです」
…………そうか、なら聞かなかったことにしてくれ。
「よろしいのですか?」
おいおい、俺が藪をつついて蛇をだす真似をすると思うのか?
「そういう話に突っ込んでいくのがスペースオペラの正しい姿だとは思うのですが、……今回に限っては私は何も聞いていません。人間同士のお酒を飲みながらの会話です。これから何を話そうと酔っ払いのたわ言です」
本当に何が飛び出してくるのかわからないからな。
いいかカグヤよく覚えておけ、日本には「触らぬ女神に祟りなし」という言葉がある。
「身につまされる言葉ですね」
蒼龍のようになるのはごめんだ。
感想、誤字報告、ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。
実話が入ってますが、そんな会社に心当たりがある人はやめた方がよいと思いますw
辞めて1年以上たちますがいまだに腹が立ちますw
「触らぬ女神に祟りなし」ですが、問題はこの女神は自分から触られに来ることです。