#12 宇宙船での生活(3日目)
「いや、確かに何もなかったんですけど……だからって45時間も部屋から出ないっておかしくないですか?」
朝起きて、メシを頼もうと考えてるときにカグヤが内線に現れる。
「部屋からは出てるぞ。トイレと風呂くらいには」
「寝室の話をしているのではないんです! その乗務員室から一歩も出てないじゃないですか」
確かに引きこもってるが。
寮と違って休みの日に引きこもろうとしても食物がなくなって買い出しに行くということをしなくてすむのは楽でいいよな。
白ウサギに注文を頼むとピンクウサギがデリバリーしてくれる。
便利だよな。
「それは便利でしょうが……たまには食堂行ってみようとか、船内散歩しようとかないんですか?」
「たまにはって言ってもまだ3日目じゃないか。急ぐことはないだろう?」
「それはそうですが不健全ではないですか?」
「そうはいってもなぁ……」
イザヨイの設計の件が終わって部屋に帰り、前日見てないネット巡回、アニメ視聴、漫画雑誌の発売日だったので電子書籍で購入して読む。
オンラインゲーム、ソシャゲができないのが物足りないがもう数年目で惰性でしていただけで引退のいい機会だと納得する。
それでもやることは山ほどある。
積みゲーは10本単位であるし、読みたかった漫画や見たかったアニメは山ほどある。
会社辞めてから一気読みしようと思って買っていた小説だってある。
時間はいくらあっても足りない、いやこれからは時間はいくらでもあるのだ。
一つずつ消化しよう。
そう思ってだらだらと終了した。
翌日はネットが面白かった。
前日は出ていなかった俺の死亡ニュースがネットニュースに取り上げられるとブラック企業の実態も相まって少しずつ騒ぎが大きくなってきている。
ショック死は常態されたパワハラが原因。
社員寮だからといって夜中に支社長たちが社員の部屋に押し入っていいわけがない。
いいぞ、もっと言ってやれ!
とある掲示板サイトには俺の記事でスレッドが立っている。
まさか死んでからこんなことになるとはなあ。
書き込みを見ていると内情を知ってる社員の書き込みが多数みられる。
「あの人はいい人だ。俺が金のない時に飯をおごってくれた」
……ここ数年は新入社員の面倒見る担当だったから時々若い子にメシを食わせてたからこれだけだと特定できないなぁ。
会社は面倒見ろっていうのに領収書切らしてくれなかったので自腹でしたが。
もっとカオスにならないかなぁ。
てか俺も掲示板に参加したいなあ。
無理だよねぇ。
こんなことなら会社のパワハラを記録したノートでも作って部屋に置いておけばよかったなあ。
会社の裏帳簿のありかとか労働基準局に隠しているデータとかの場所をメモっておけばと。
とまあそんな感じで1日が終わった。
うん、人間意外と暇がつぶせるもんだよ。
「いや、船長ちょっと特殊すぎませんか?」
そんなことないよ、日本の本物の引きこもりはもっとすごいよ。
「それが本当なら日本人って恐ろしいですよ」
とにかく一度部屋から出ろというので朝食は喫茶室に行こうか。
「食堂にまだ行ったことがないですし、そっちに行ったらどうですか?」
そこには別のウサギがいるのか?
「厨房自体は奥で繋がっていますので同じウサギが調理します」
君らの手間がかからないならそうしようかな。
「いえ、ですから私たちの労苦は気にしないでくださいと。……あと部屋から出るときはスーツに着替えてください」
Tシャツ短パンは楽なんですけど、……てか俺の労苦も気にしろよ。
案内されてたどり着いたのはカウンター、テーブル席、座敷と20席ほどの和風居酒屋というか小料理屋というべきか。
間取り的には昔通ってた馴染みの店を思い出す。
こっちの方が新品で一回り大きいが……だから一人なのにスペースの無駄遣いだよなあ。
こんな店だととりあえず生と注文したくなるが朝から飲むほど自堕落ではない、……まだ。
カウンターに座り、トーストとサラダとコーヒーを注文する。
スープはいらないかって?
うーん、今日はいいや。
フルーツ? デザート?
別にいらないんだけど……じゃあヨーグルトを少しくれ。
注文し終え、カグヤを呼び出す。
「改装状況は? 順調?」
「順調です。スケジュールを見直した結果、搬入の順番を変えることで7時間ほど早まりそうです」
なんでも最初に搬入する予定の食糧生産プラントを後回しにしてその他の機器開発プラントを搬入、稼働状態に持っていくことでセカンドユニットの設置が早まるだろうと。
「食糧のほうも搬入前でも今回使う予定のない35m級のコンテナで生産を始めていますのでご心配なく」
いや心配はしてないけど、そんなに急がなくてもいいって何度もいってるだろう。
「予定時間より早くすめばサブユニットの居住区に取り掛かります。限られたスペースを有効活用しようと幾通りもシミュレートしています。外装強化時に一緒に連結部の強化もしてしまえば内部で数か所削っていい場所ができますのでそこを有効活用できればと」
なんか楽しそうで何よりだ。
ピンクウサギの持ってきた朝食を食べながら適当に相づちをうっておく




