#109 常識の時間 10(管理頭脳の基礎知識 中編)
ピンクウサギが持ってきたタルタルソースがたっぷりかかったチキン南蛮を受け取る。
「その白いソースは以前いただいた白身魚のフライにかかっていたものとよく似てますが?」
同じなんだろうけど、どんな覚え方だよ。
「じゃあそれはお魚ですか?」
残念ながら鶏肉を揚げたものです。
一切れ食ってみるか?
「興味はありますけど、もう食事を終えましたのでまたにします」
そうかい、これが魚だったら逆だったことだろう。
おっと悪い、カグヤ、話が中断したな。
まあなんとなく管理頭脳については理解した。
でもまあ今回の主目的はそこではないのだろう?
「はい。今回の目的は管理頭脳用の素体を購入することです」
「素体……ですか?」
ポーラが首をかしげる。
管理頭脳ってのはカグヤみたいな宇宙船、あとは政治とかを役所の仕事をするような据え置き型とウサギのような人の世話をする移動型があるという認識なんだが。
「あとはスーツにつけられた携帯型ですかね。据え置き型が容量も多く、処理も早く、性能が高いもの。移動型は専用の仕事の従事するもの。携帯型は補助的なものと思ってください」
了解。
「素体を手に入れるというのは移動型を手に入れるということですよね?」
「はい、私もモニターの中やこの微妙に荒い立体映像ではなく、実体を持ってみようかと思いまして」
とカグヤはおどけて言う。
ちなみにそれがポーラのためだというのは内緒である。
「ですがそれって……」
「そうですね、ポーラは基礎知識がありますからその問題点にいたると思いますが、船長はわからないので最初から説明させてもらいます」
あいよ。
ただその前にピンクに飲み物を同じもののお代わりを頼む。
ウサギがテクテクと飲み物を持って歩いてきて、空のグラスと入れ替える。
「ちょうどいいから、これで説明しましょう。船長、今のウサギの動作を見てどう思いましたか?」
どうって、人の動作を着ぐるみでこなしているわりに器用に動くなといった感じかな。
「ちなみにポーラは?」
「船長と同じです、汎用型にしては器用で、機敏です。見慣れないせいでしょうか、違和感といいますか、危なっかしい気もしますが」
汎用型?
「はい、これはウサギの着ぐるみのような外見ですが動き自体は人間を模していますよね?」
そうだな。
「そういったものを汎用型といわれます。それなりにいろいろなことができます。ピンクウサギが料理、白ウサギが乗務員の世話としていますが元は同じ汎用型です。設定を変えれば白ウサギが料理だってできます」
まあそうなんだろうな。
「ですがこれって効率が悪いことなんですよ。例えば飲み物を運ぶ際、二足歩行の汎用型が運んでくるのと、ワゴンのような形をした配膳専用型の管理頭脳が運ぶのとどっちが効率がいいと思いますか?」
ワゴンタイプのほうが安定性があるからこぼれないという感じのことを言いたいのか?
「そもそもワゴンタイプで飲み物を提供する管理頭脳は、キッチンからコップに飲み物を入れたまま運ぶということをしません。飲み物やコップは内蔵されていますので求められたら人間の目の前で注いで提供します」
移動式の自動販売機を連想してしまった。
それの超高性能型なんだろうか?
まあそう考えると言いたいことはわかる。
目の前で注ぐから運んでこぼれるリスクは減るし、暖かいもの冷たいものといった温度もキープできる。
確かに効率を考えればいいのだろう。
他にもいろいろありそうだな。
掃除をするのもウサギが掃除機なりモップかけるより、地球でいうところのロボット掃除機の超進化版を使ったほうが効率がいい、そういうことか?
「話が早くて助かります」
でもそれだとその動作に関しては効率がいいかもしれないが、費用効率が悪いのではないだろうか?
例えば飲み物専用の自動販売機だと、他の料理の配膳や調理自体にも専用機がいる。
ピンクだと1体でそれを全部こなせる。
掃除だってそうだな、床はそれでいいかもしれないが、高い場所のモノを磨くのは他の専用機がいる。
「費用効率が先に出るあたり、社会人として予算に苦労してきたのでしょうか?」
会社のコピー機でもスキャンはできるのだが、個人用にスキャナーがあれば時間効率が良い作業があって、申請したことがあるのだが通らなかったことがある。
理由としてはコピー機でできるならそれでやれ、お前一人の効率が良くなるためにわざわざ会社の金は使えないと。
欲しいのは1万円ほどのモノだったので自腹で買い、堂々と使っていたのだが、上司はそれが何かさっぱりわからないくらいの機械音痴だったので怒られることもなく、俺は月の残業を3時間減らした。
3ヶ月で元が取れるので年単位で考えるとかなりの得なのに、それがわかってもらえない頭の固い上司だった。
それはさておき今回のケースだと、俺は上司の立場になる。
ウサギが何でもできるならそれでいいのでは? と思わなくもない。
ただウサギ1体以下の値段で必要作業の専用型が揃うのならばそっちを優先したい。
「船長、話がずれています。今はウサギを専用型に変えるという話ではないのです。専用型と汎用型の利点と欠点さえわかってもらえれば」
ああそうだったのか、OKだ、続けてくれ。
「費用の面から考えると汎用型は確かに割高で作業的に不安定なところもありますが、スペース的な問題を考えると1体で何役もこなせる汎用型のほうが優れています」
宇宙船のような限られたスペースだと汎用型のほうがいいのか?
「このイザヨイは船長の操船能力のおかげで広いのでそこは心配ないところですが、小さい船でもそこは好みになりますね。汎用型の動作が不安定で心配な人は専用型を載せますし、逆に専用型がたくさんあると圧迫感を感じる人は汎用型を選びます。専用型と汎用型両方を使っている人も多いです。あとは初期の投資費用と相談ですね」
なるほど。
ちなみにこのイザヨイは汎用型のウサギのみ?
「費用の面では問題がないので汎用型が多いですが、例えば船長が朝使っているひげ剃ったり髪を整えてくれる椅子は専用型ですね。他にもジムでトレーナーは汎用型ですが、器具は専用型です」
ああ、なるほど。
「遊技場の器具やマッサージ室の器具も専用型です」
とポーラが俺が使ったことない部屋の情報を教えてくれる。
てかマッサージ室なんかあったんだ?
「ありますし、最初に説明もしたはずですが。メインユニットの最低限の居住設備です」
カグヤがあきれ顔で言う。
そうだったかな、記憶が薄い。
どこにあるんだ?
「ジムと医務室の間です」
……どうにも記憶にないな。
そもそも医務室もどこだっけ?
二日酔いで運ばれた時しか行った記憶がないんだが?
「そうですか。ではいい機会ですのであとで行ってみませんか? ついでにメンタルケアとカウンセリングを受けましょう」
なんかさっきもそれ言われた気がするが、お断りだ。
俺は正常だ。
「異常な人ほどそう言うんです」
酔っ払っている人ほど酔ってないと否定する、という理論で言わないでほしい。
誤字報告、感想、ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。
この話もう一話続きます。
その後は次の惑星の話が始まります。