#103 三つ子星との別れ
「これは!」
俺の前に置かれたサーモンとイクラがのせられたオレンジに輝く丼を真顔で眺める。
欲しければ一口でも二口でも持っていけ。
「いえ……お腹がいっぱいですので」
なら顔を離してくれるか?
食いにくいから。
で悪い、カグヤなんだったっけ?
「先ほどの続きです。旅先で似たような腕時計を見つけたら購入、もしくはそこの定期便に惑星シールならそれが高く売れると伝えてくれという依頼がありますが」
依頼ねえ。
別に前金くれるわけじゃないんだろう?
「依頼というよりは懇願でしょうね」
善処しますと伝えておこう。
「あと設計図とかがあったら国にある壊れた時計が直せるかもしれないので、そういうのもあれば手に入れてくれと言ってますが」
てか必死だな。
そんなに気に入ったのか?
「まあ惑星シールだと国宝級のロストテクノロジーですからね」
まあ気持ちは理解しなくもない。
だが俺の立場的に何ができるだろうか?
俺の経歴を正直に言うわけにもいかない。
惑星ワイズにも似たようなのがあったとか言ってなかったか?
コンテンツの中にそんなのあるんじゃないのか?
パールに置いているコンテンツをあさればいいんじゃないのか?
「カタログ的なものは大量にありますが、技術的な構造が書かれたものっていうのは少ないですね」
そうなのか?
「一応売るのが目的ですので売れ筋の文化はすべて出品してます。学問とか技術的なものはあまり売れませんので、量は少ないですね」
そうか。
でも少しでもあればいいだろう、求めているものがあるかどうかは別問題だ。
「私のデータバンクには詳しい製造法だのがありますけど、これを渡しますか?」
やめておこう。
すべてしてやることもないだろう。
とりあえずパールのコンテンツをあさってみればいいさ。
とっかかりがあれば自分で何とかできるかもしれない。
どうせ暇を持て余してるんだからやらせればいいさ。
「了解しました」
ちなみにワイズ並びに今まで手に入れたコンテンツは惑星パールでしか売り出ししていない。
シール、ゴール両惑星では滞在期間が少ないので儲けが少ないというのと、三つ子星では惑星間で文化的に差異を出すために同じコンテンツをすべての星に設置しないでくれという要請を入国管理局で受けたためである。
強制力はないので無視してもいいのだが、惑星パールだけで儲けは十分あるし、惑星パールに少し関りができたものだし自重することにした。
さてこれからゲートまで15日。
長かった三つ子星とお別れである。
まあほとんどが惑星パールだったが。
「正確には船長はずっと宇宙船の中でしたが」
まあ今更だろう?
「それでも注意喚起を促すのが私の仕事です。人間の健康面、精神面を考えると宇宙船に引きこもるのは決して正しい選択では……ないはずなんですけどねえ」
カグヤがため息をつく。
もうなんだかんだで半年以上の付き合いだ、そろそろあきらめろ。
この世の中にはすべてのことにおいて例外があるものさ。
だから俺のような人間もいるのだと。
「いえ、まだそう断言するにはデータが足りないかと。単に船長のストレス許容量が大きいだけの可能性があります」
なら問題ないだろう。
「いえ、それを発散することなくため込めば許容量をオーバーした時に大爆発するのではと危惧しております」
ため込まないように引きこもっているんだけどなぁ。
どうにも話が噛み合わない。
「本当ですよね、なんでこんなに噛み合わないんでしょうね?」
もうこれは種族の差だろう。
人間とドラゴンでは噛み合わないところもあるさ。
「ポーラも船長の引きこもり方には首をかしげてましたよ」
そっちは育ってきた文化の差だな。
あんなドラゴンを神として祈ってきた人類だ、そりゃあ俺と話が合わないだろうよ。
「まあ確かにポーラも特殊な惑星の出身ですが、一般的な宇宙に出る人類としては普通の精神しているんですけどねぇ」
まあ逆に考えろ。
普通の精神の持ち主だと女神さまの望むスペースオペラ展開にならないんだから、女神様にスカウトされた俺のほうが正しいとは思わないか?
「残念なことに船長がスペースオペラをしているかどうかという点は疑問符がつきます」
まあそれは認めよう。
あと引きこもりだらけの宇宙だと今以上に何も起こらない気がするな。
さて食事を再開したいのだが、ポーラ、食ってもいいかな?
「決めました、ピンクさん、ミニサイズを一つお願いします」
ようやく結論が出たのかい。
この後にやっぱり大きいサイズと言わなきゃいいけどな。
感想、誤字報告、ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。
ようやくポーラの使い方がわかってきた気がしますw
とはいえポーラ・魚・オチだとマンネリ化するので難しいです。