#102 刺身解禁
「これがお刺身ですか?」
ポーラが舟盛りされた刺身を見て目を輝かす。
てか豪勢だな?
「これって日本のスタンダードでは?」
2人でこのサイズの舟はないかな。
5,6人のコースの刺身の盛り合わせじゃないのか?
尾頭付きはともかく松の飾りがついたのは初めて見たぞ。
てっきり皿で出てくるのかと思ってたよ。
「せっかくですので一番豪勢なのを真似てみました」
どこの料亭か旅館なんだろうか?
俺、刺身の彩りの緑って大葉かワサビかと思ってたよ。
いや、どっちもこの舟盛りにはあるけどさ。
食用菊もな。
刺身もタイ、マグロ、サーモン、ハマチ、イカ、エビ、ホタテと数がそろっている。
「キャプテン、これはどう食べるのですか?」
どう、といわれても。
醤油につけて食べなさい。
「ちょっと待ってください、これただ魚を切っただけなんですよね? どうしてこんなにおいしんですか?」
サーモンを食べてポーラが喜びの声をあげる。
まあ惑星パールで食べたカルパッチョのほうがまだ手を加えている感じがするよな。
「お刺身、とっても美味しいです!」
それはよかった。
緑の山になってるのがワサビだ。
これを好みでつけて食べるといい。
醤油に溶かすか、刺身に少量のっけて食べるかで論争があるが好きな方でやりな。
「わかりました」
とりあえずどちらもやってみようと小皿にワサビを溶かしたのと醤油オンリーの2つを用意して一口食べては悶えている。
さて現在は惑星パールからシールにゲートアウトしたところだ。
ようやく解禁された魚を前にポーラが幸せそうだ。
世の中少しくらい我慢したほうが美味いというものは多々あるよ。
もっともポーラの場合、魚ならいつ何を食っても美味いと言いそうだが。
「キャプテン、ワサビつけて食べると、ちょっと辛いですけどさらにおいしいです!」
それはよかった。
まあ一通り食べてみるといい。
青い葉っぱを巻いて食べてもいい。
白いのは大根だ、それも食べられる。
食用菊は花びらを醤油に散らすんだったかな?
まあやってみなさい。
「わかりました」
てか食用菊もあったんだな。
「大翠で売ってましたよ」
肉文化の国かと思ったがそういうのもあるんだ。
「肉の薬味にも使えるそうです」
そうですか。
ちなみにこの船盛りの器は?
「木さえあればこんなのすぐ作れますよ」
そうですか。
イザヨイの施設はすごいね。
しかし刺身は居酒屋行くたびに食ってたから食い飽きてたと思ってたんだが、半年ぶりに食うと美味いな。
日本人のDNAかねぇ。
「マイタン人も喜んでますけど?」
魚が戒律で食えない星の子がよく生魚を食えるよなと首をかしげるところではあるがな。
刺身がポーラによって7割がた消費されるとピンクが寿司を持ってきた。
中トロ、大トロ、サーモン、タイ、エンガワ、サヨリ、カンパチ、ウニ、イクラ、ウナギに玉子。
俺からしてみたら安心のラインナップだ。
「これがお寿司ですか? どう食べるのでしょうか?」
箸が使えないポーラが戸惑っている。
俺は手で掴み、醤油をつけ口に運ぶ。
これはネタとシャリの間にワサビが入っているからな、気をつけて食いな。
「わかりました」
ピザを手づかみで食べていた子だ、寿司を手づかみで食べるのはそれほど抵抗がないようだ。
「キャプテン、これもおいしい!」
それはよかった。
「船長ご相談が」
ポーラをしり目にカグヤが俺に声をかける。
「惑星シールから通信が入っていまして」
今回シールはゲートを通ったものの素通りする予定で、入国管理局にはその旨を伝えて次のゲートに向かっている。
特に通信をもらうようなこともなさそうだが?
「腕時計があったら売ってくれ。ないなら取り寄せてくれないか、とこの国の王子が言ってます」
てか俺が出した腕時計がそいつの手に渡ったのでは?
「いえ、あれは継承試練のモノですから基本的に国庫に納められます」
そうなのか。
でもって他に持ってないかっていうのか。
クオーツならあるんだけどそれはまた別もんだよなぁ。
「それはそれで喜ぶかもしれませんが」
まあいいや、ないと言おう。
これから次の目的地に向かうのでお取り寄せもできません、あしからず。
「取り寄せてくれないならせめて売ってる星を教えてくれと言ってきましたが」
しつこいな。
「それほど魅力的だったんでしょう」
安物なのになぁ。
「まさか地球産というわけにはいかないでしょう? 何かいい返事を考えてください」
惑星ワイズ産でいいんじゃないか?
遭難船からコンテンツを拾ったって設定なんだから、そこに落ちてた腕時計を拾ったで。
それなら探しようもないし角も立たないだろう。
「よくもまあ一瞬でそんな設定思いつきますね?」
返事を考えろと言われて、答えたらその言い方ってひどくないか?
「褒めているんですよ」
少しもそんな感じはしなかったがな。
「気のせいですよ。ではそう返事をしておきます」
あいよ。
さて、食事に戻るか……うん、ほとんど残ってないな。
「キャプテン、おいしすぎてお腹がいっぱいです」
そりゃあ俺の分まで食ったらそうだろうよ。
とはいえ5日の禁止令を出したのは俺だ。
解禁日くらい好きに食わせてやろう。
で、ピンク、まだ食材は残っているのか?
倉庫から持ってくればいくらでもあるけど、いまキッチンにある生食用はサーモンとイクラが少しあるだけ。
ああ、じゃあそれで海鮮丼でも作ってくれ。
「海鮮丼! 何ですかそれは? キャプテンずるいです!」
おい。
俺が被害者だと思うんだけど?
刺身解禁回です(謎)
当初こんな話を書く予定はありませんでしたが、ポーラの熱意に負けましたw
作中では半年が過ぎていますが、これでようやく食糧問題が解決しましたw