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#101 常識の時間 8(宗教)

 さてポーラ、この星はどうだった?


 ビールから焼酎に切り替えてグラスをもてあそびながら、思春期の娘を持つ父親のように会話にとっかかりを求める。

 年齢的にはそれくらい離れているし、暮らしてきた文化も違う。

 距離感がいまいち難しい。


「とても新鮮で、楽しかったです」


 目をきらめかせて言う。

 

 この子と話していて何が幸いかというととりあえず俺のことを「うざい」だの「きもい」だのと言わないことだ。

 そういった意味では世の中の父親に比べて恵まれていると言えるだろう。


「お友達もできましたし」


 初めての星で王女と友達になるとはなかなかレアな体験だろうな。


「そうですね。でも王女でなくてもああいうお友達はレアでした。マイタンでももちろんお友達はいました。でも同時に神を信仰する同士でもありましたので、あんなに屈託なくお話することってなかなかなくて」


 そんなもんかね。


「友情の証に3人で同じイアリングを買ったんですよ。一生の宝物です」


 と言われてみたら三日月の形をしたイアリングをつけている。

 友情の証ね、地球でもなんかその風習聞いたことあるなぁ。

人間って星が違っても似たようなことするんだな。

 まあいいや、大事にしなさい。


「もちろんです」

 

 あとまあしばらくはさみしくなったりするだろうから、何かあったら俺かカグヤに言うように。

 まあ戻ろうと思えばいつでも戻れるしな、特に目的があるわけでもないんだから。


「そこまでは甘えられません。それに私には蒼龍様から授かった宇宙を旅するという目的があります」


 まあその蒼龍も……いやなんでもない。

 使命なんて人生に比べたら大したもんじゃないよ、自分の好きに生きな。


「エクレアさんも似たようなことを言ってくれました」


 まああの子は実際に使命を放り捨てた子だしな。


「イザベラさんは蒼龍教の支部を作ってもいいとおっしゃってくれました」


 そうなのか?


「はい、ありがたいお申し出でしたが、我が蒼龍教では他星へ布教という概念はありませんので」


 何でまた?


「宗教とは土着のものと考えられています。私は蒼龍様を信仰していますが、この星にはこの星の守護龍様がおいでです。この星で蒼龍様の信仰を布教するのはこの星の守護龍様をないがしろにすることになります」


トラブルの種になるからか、賢いな。


「ですので宇宙に出る際は気を付けなさいと教わります。他人の宗教を否定してはならないとも」


 でも俺がマイタンで神の信徒を名乗っても信じてもらえなかったぞ


「それは段階を経ていなかったというか、少し乱暴だったのかと。いきなり蒼龍様に呼ばれて来たと他星の方に言われてもにわかには信じがたいです」


 まあ、乱暴だったかもしれない。

 そもそも目的はポーラが正当に選ばれたというアリバイ工作のためだ。

 作戦がザルだったので相手を混乱させて妙な勘繰りをさせないのが目的だったからな。


 まあ宗教とか信仰は難しいそうだ。


「私もこの星に来てそう思うようになりました」


 というと?


「蒼龍教では布教という概念がそもそも薄いのです。私たちは蒼龍様の子供として生まれ、当たり前のように祈っていますので」


 そういやマイタンは他に宗教がないんだったな。

 生まれてすぐに洗礼を受け、場合によってはそのまま教会に預けられたらそりゃあ選択肢はないわな


「惑星パールでいくつかこの星の教会を見学させていただきました。私の知らない神様を奉じていたり、神様の声を聴いた使徒が作った宗教だったりと様々ありました」


 まあどこもそんなもんだろうな。


「よくわからないのは信仰の内容はほぼ同じなのに、神の声を聴いた使徒が違う宗教や、神ではなく守護龍の声を聴いたとされる宗教もあり、どうしてこんなに似たような宗教がたくさんあるんだろうと」


 分裂したんだろうなぁ。

 人の数だけ考え方も違うんだ、ずっと1つっていうのも難しいもんだよ。


「そんなもんですか?」


 むしろ蒼龍教がよくいままで分裂してこなかったと思うがね。

 まあ今後は知らんが。




 せっかくだから聞いてみるが、惑星には神様がいるが、宇宙にも神様がいると思うか?


「……どうなのでしょう? 考えたこともありません」


 質問が悪かったか、この子は蒼龍を信じてる子だからな。


 例えばだ、いいか例えばだぞ。

 宇宙を作った神様がいるとする。

 仮に創造主としよう。

 創造主は惑星を作り、人を作った。

 そして眷属たるドラゴンを各惑星に配置し、人間を導くように指示した。


「つまり蒼龍様を作った方がおられると?」


 まあそういうことだ。

 人間に宇宙を旅するように育てなさいと命令しているのさ。

 惑星にいる人間はドラゴンが担当し、宇宙に出た人間を創造主が見守っている。


「その場合、人間は創造主に祈る際、何に対して祈るのでしょうか?」


 ごめん、今度は俺が何を言っているのかわからない。


「えっと、私が蒼龍様に祈りをささげるのは大地の恵みにより食事ができる感謝とか、健やかに生きれる肉体をくださったことへ感謝とか人が生きれる自然をくださって感謝しますなどいろいろあるんですが」


 ポーラは言語化しようと思索する。


「宇宙にいる創造主にはどこでどうやって祈ればいいのかなと? 宇宙に出た人間を見守るのでしたら宇宙船もしくは宇宙港でお祈りするのでしょうか? その場合何に感謝するのでしょうか? 宇宙には大地の恵みがありませんので食事は惑星から持っていきますよね?」


 まあそうだな。


「健康に過ごせる肉体は……そもそも惑星で生まれたものですから感謝自体は生まれた星ではないでしょうか? 宇宙には自然もありませんし、……日々無事生きていけるのって宇宙船や管理頭脳のおかげですよね? 人間は宇宙空間に生身で出れないのですし。それに宇宙は精神を病むくらい過酷な場所なんですから……創造主っていらっしゃるのでしょうか?」


 なるほど、仮に宇宙に神がいるとしても、人が生きれない場所にいる何もしてくれない神様を祈るのは難しいと。

 それなら実際にいる蒼龍を祈るほうが建設的と。


「まあ少し乱暴なまとめですがそんな感じです」


 なるほど、つまりはそもそもの設定自体が間違っているんだな。

 人類を宇宙により進出させる方法は初手から間違っていると。


「船長のおっしゃっていることがよくわかりませんが、蒼龍教でも宇宙に出ることは推奨されていますが、数は少ないです。人間は宇宙に耐えられない生き物なのではないでしょうか?」


 ドラゴンの初期設定を逆にすればよかったのではと思うがね。


「逆、ですか?」


 おっとこれ以上はやめておこう。

 聞き耳立てられたら困るからな。


「聞き耳? 誰にです? カグヤさんですか?」


 気にすんな、飲みすぎた酔っ払いのたわ言だ。

 ほら、遠くで女性が舌打ちしたような幻聴が聞こえるくらい飲みすぎただけだから。



感想、誤字報告、ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。


ずいぶん久しぶりの「常識の時間」です。


読んでくださっている方は日常編が面白いとか、惑星での長編が面白いと好みがあるかもしれません。

私も日常編を書いてるときは長編を求められているのではないだろうか?とか長編を書いてるときは日常編のほうが簡単に読めて喜ばれるのだろうか?とか思いつつ書いています。


もっとも本人は「常識の時間」を考えるのが一番好きで、ネタに困ったらこれを書こうと思っていました。

幸いなことにあまりネタに困ることがないので最低限の説明だけに話数を使ったくらいなのですが。


これから次の惑星までに「常識の時間」が増えますが久々に書きたいだけ、もしくは説明しておかねばならない設定です。

ネタに困っているわけではありませんw


困っているのは執筆時間がないことです。

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