#100 惑星パール出航
最後に通信するか?
「いえ、お別れは十分しました。これ以上は決心が鈍りそうです」
そうかい。
地上で3人で号泣したらしい。
意外なことに真っ先に泣いたのがイザベラだという。
継承式が決まってからは会う時間もとれなかったので余計に寂しかったようだ。
そして皇帝になる不安で感情が爆発したのだろう。
「つまり船長が泣かしたということですね」
一因はあると認めよう。
道理でこの前の通信で俺に対して当たりが強かったわけだ。
「ですがキャプテンがこういう展開にしなかったら二人とも不幸な未来が予想されたのでしょう? でしたらいずれはわかってもらえます」
別にどっちでもいいさ。
「ですがキャプテンの名誉が……」
そんなのどうだっていいよ。
俺の名誉にそれほど価値はないしな。
それならかえってイザベラに恨んでもらったほうがいいんじゃないかな。
それで気が楽になるかもしれないしな。
エクレアに贔屓しすぎた気もするし、それくらいは甘んじて受け入れるべきだろう。
「キャプテン、ご立派です」
まあそれに今後50年くらいは会うこともないしな。
ほとぼりもさめるだろうよ。
「そういう余計なことを言わなければ、少しいい話で終わるんですけど」
でもカグヤ、俺が自分で言わないとお前がそう突っ込まないか。
「今回は空気を読んで言わないつもりでしたよ」
このドラゴンは時々気を使うんだが、そういう時に限って噛み合わず俺が自爆する。
この辺は種族の差によるものだろう。
まあその辺のちぐはぐなところも会話としてはいいアクセントだろうとあまり気にならない。
さてカグヤ、出港準備は万全か?
「宇宙船イザヨイ、システムオールグリーン。商材、食糧、水の搬入も完了しています」
ちなみに魚の補充状況は?
「生食用だけを一通り、2人で食べるには1年くらいは持つ量を仕入れています」
まあ生ばっかり食うことはないしな。
もともとイザヨイには冷凍でかなりの量が保管されている。
それを解凍して生で食べてもいいんだが、もともと生食の文化のないワイズでの魚なので、念の為加熱してほしいというのがピンクウサギの要望だった。
そこまで問題はないとは思うんだがまあ従おう。
「とうとう噂のお刺身が食べれるのですね」
ポーラ、うっとりしているところ悪いけど5日の魚抜きは本気でするからな。
「キャプテン、ご無体です!」
とりあえずここからゲートが5日だからそれまで禁止な。
「キャプテン、魚がダメならカニを食べればいいんだと」
そういうバカっぽいことを言うのはエクレアだろう、却下だ。
「うぅ」
それはさておき、その後惑星シールに寄らずにさらに15日のゲートを目指し、そこから7日の惑星フィ=ラガに向かう。
都合27日間、宇宙船に拘束されるが問題ないか?
「私は構いませんけど……キャプテンは大丈夫なのですか? この3ヶ月降りた様子がありませんが?」
前にも言ったろう、俺は降りる気がないと。
「でも少しは外の空気を吸ったほうが……」
「いいですよポーラ、もっと地上のすばらしさを言ってあげてください」
「私は宇宙にでて日が浅いですが、それでも久方ぶりの大地に妙にほっとしたものです」
ああ、そういうのいいから。
俺だって地上生まれだ。
40年はそこで生活してきたよ。
言わんとすることはわかる。
だが地上のしがらみに疲れてもいるんだよ。
40年くらいは外界と隔離されたいと思っている。
「40年って危険です!」
「船長、そうでなくても壊れぎみなのに、これ以上壊れるのは困るんですけど」
俺的には癒すために、治すために引きこもりたいのだけど?
まあ俺のことはともかくポーラに問題がないならさっきのスケジュールでいこう。
「了解です」
じゃあカグヤ、後は任せた。
ポーラ、メシにするか。
「はい、キャプテン。一応確認しますけどウナギはセーフですよね?」
お前の星では魚ではないのかもしれない、海のものでもないがな、もう諦めろ。
「では私は何を食べればいいんでしょう?」
故郷で食べてたものでいいんじゃないか、魚食わない戒律だろうに。
テンションの下がったポーラを連れて食堂に向かう。
懲罰の意味もあるが、少し我慢した方が再び魚を食べたときにまた感動することだろう。
俺だって刺身をポーラの目の前で食べるようなことはしない。
ちゃんと付き合いますよ。
ということで今日は漬け物で酒を飲む。
「キャプテン、それは何ですか?」
故郷の野菜の保存食かな。
なす、きゅうり、白菜の漬け物を見てポーラは不思議そうな顔をする。
ちなみに彼女はフェットチーネをさらに平べったくしたパスタを野菜がたっぷりと入ったクリームソースで食べている。
故郷の料理らしいが、地球にも似たようなものありそうだな。
「少し頂いても?」
口にあうかどうか保証はしないぞ。
「変わった風味ですね。酸味もあって、きゅうりは歯ごたえもあっていいですね」
この子は何でも食べるな。
外人が苦手だという納豆でも食べれそうだな。
「ナットウ? それはなんですか?」
大豆を発酵させたものでな。
俺は匂いが苦手なんで食べる気がないのでイザヨイでは作らせてないんだが。
「そうなのですか。少し興味があります」
まあおいおい考えよう。
てかポーラ、嫌いなものはないのか?
「……そうですね、食材としてはあまり好き嫌いはないのですが、辛いのが苦手ですね」
そういやこの前の歓迎会の時でもピザにタバスコはかけてなかったっけな。
そうなるとワサビも苦手かな?
「ワサビ? なんでしょう?」
薬味だ。
刺身や寿司によく合うんだが。
「なんと」
ピンク、そもそもワサビはあったっけ?
茶漬けを食べたときに出した?
そういやそんな気も。
ああ、そうか本ワサビか。
いかんな、安物のチューブなんかがあるわけはないな。
どうにも貧乏社会人の発想だな。
本わさびはあまり辛くない?
なら試させるのもいいかな。
「えっと、つまり?」
うまい刺身が食えるよってことだ。
「キャプテン、最高です」
それは何よりです。
でもあと5日後な。
本編再開です。
とはいえ次の惑星まで食ったり、飲んだり、だべったりのダラダラした日常回です。