#97 三つ子星の優しい王女と愚かな影姫 15
「ハメましたね!」
イザベラは通信が開くやいなや、開口一番そう言い放つ。
こっちも現状カグヤにハメられて商材の物色中なんですがね。
「ふざけないでください!」
まあ落ち着け、イザベラ。
俺も察しがいいほうだ、お前が何に怒っているのかはわかっているつもりだ。
「だったら!」
でもそれが俺のせいって証拠がどこにある?
「あの子は『恥を雪ぐ』だの『宿願』だの『才色兼備』なんて言葉を知りません! たぶん本人、言ってても意味が分かってませんよ。あなたからの入れ知恵としか考えられません!」
そう言われると辛いな。
少しは悪いと思っている、すまない
「坊主にしていない人の謝罪なんか誰が信じるものですか!」
坊主?
なんでだ?
「船長、この星では謝罪の際、男性は坊主にするのが一般的です」
ああ、日本でも似たようなのがあるけど。
「むしろ坊主にしないと謝罪とは認められない文化です」
ちなみに女性も坊主?
「女性はショートカットですね。坊主の男性、ショートカットの女性はこの星では誰かに謝ったんだという印になります」
世間にアピールするんだ。
そりゃあかわいそうに
「船長も坊主にしますか?」
俺そこまで悪いことしたか?
「自覚がないのが残念です」
皇位継承式の後の国民へのお披露目の際、新皇帝エクレアはスピーチを行った。
「本日この日より、皇位を継承しました。まずは国民の皆様に謝罪をさせていただきます。ご存知の通り、我が王家は5代にわたって皇帝を輩出できませんでした。国民の皆様の期待にそうことができず、我が王家は恥じる年月でした」
この部分はイザベラの原稿通りだった。
しかし言葉だけの謝罪だったんだな、エクレア髪切ってないし。
「この度、私が皇帝になれたことで一つ恥を雪ぐことができました。ですので皆様には王家にもう一つある宿願を聞いていただきたいと思います。我が国の最後の皇帝、曾祖母のことです。曾祖母には自慢の娘がいました。才色兼備のその娘は自分などより皇帝にふさわしいと信じて疑いませんでした。不幸なことにその娘は皇帝になることはかなわず、失意のまま逝去なさいました。その娘は……私の祖母ですが、子や孫を皇帝にしようと常日頃頑張ってこられました。この度それが報われたとはいえ、曾祖母の願いが叶ったと言えるのでしょうか?」
このあたりで会場はどよめきだしたと言う。
脇に控えているイザベラなどは何を言うのかオタオタしていたとポーラから聞いた。
「今更祖母に皇帝を目指すことなどは無理です。ですが奇しくも私は曾祖母の再来と言われるほど容姿が似ております。そして我が王家には祖母の再来と言われる私のいとこのイザベラがいます。……だからあたしは考えました」
このあたりからもう台本を読むのをあきらめたようで、口調がくだける。
「『皇帝の威光』を使います! あたしは本日現時点をもって皇帝を退位、イザベラを代理皇帝に任命し、残りの在位を任せます! いい、『皇帝の威光』だよ? みんな従わなきゃダメなんだからね。……ってことでイザベラ、あとはよろしく~!」
っとエクレアは逃げて行った。
当の指名されたイザベラは目を回して倒れて、ポーラに支えられていたという。
さぞや会場は混乱したことだろう。
「あなたのせいでしょう!」
俺にも責任がないとは言わない。
だが考えてみろ?
お前は、いやお前たち王家の者は本当にあんなのが皇帝になっていいと思ってたのか?
「――それは……。ですから私がエクレアのフォローをするつもりで」
最初はそれでいいさ。
面倒なことをイザベラがすると言っても、前に立つのはエクレアだ、することは山ほどある。
すぐに破綻するよ。
なにせモチベーションの差がありすぎる。
すぐにこの前のようにケンカになるさ。
それでもまだケンカできるうちはましな方さ。
最後には口もきけないくらいの修復不可能の仲になるか、エクレアの心が壊れて終わりさ。
そんなわかりきった未来に進もうとする王家のほうが責任を負うべきだと思うぞ。
「そんなのあなたの想像じゃないですか」
危険予知と言ってくれるか。
モチベーションがない中でさせられる仕事がどれほどのものか。
それも逃げ場がない環境だ、あんな能天気でストレス耐性のない子なんてすぐ壊れるよ。
半年で笑顔がなくなるよ。
「…………」
まあ確かにバカな王女だろう、でもな、お姉ちゃん孝行のために30年我慢して皇帝するって言うくらい優しい王女だ。
手を差し伸べてやるのが大人の務めだろうよ。
「じゃあ私はどうすればよかったって言うんですか!」
なんとしてでも上の兄貴に押し付けるべきだったと思うけどな。
でなきゃ安物持って行って、皇帝になれませんでしたとするべきだったかな。
祖母さん孝行も立派だけどな、妹だって見てやんな。
何度も言うが優しい王女だ。
「……本当に私は愚かな影姫ですね」
まあすでに影姫ではなく代理皇帝だがな。
俺の言葉にピクリと眉を吊り上げる。
まあ睨むな。
人間、生きていると予想外のことばっかりだ。
「……皇帝の威光とはいえ、よく管理頭脳もすんなりOKしたものです」
皇帝の威光は皇帝の宣言を国の運営をまとめる管理頭脳によってまず審査される。
どんなことでも叶えるとは言うが無理なことだってある。
死んだ人間を生き返らせろといった常識的に実現不可能なこと、誰かを不当な扱いをするなどの倫理的に問題があること、国家を解体するといった政治的に不可能なことが該当する。
今回の場合、倫理的・政治的に引っかかる可能性があった。
本人の同意なく、皇位を譲渡することは倫理的に引っかかるのではないか?
そもそも皇位は試練によって選ばれるもので他人に譲れるのか?
イザベラはそもそも王家、いや祖母のパール王家から皇帝を出すという意向に沿って動いていた。
エクレアが皇帝になり、イザベラは影姫として補佐をすることになっていた。
補佐とは言うがどうしても皇帝がしなくてはいけない儀式以外を担当することになっていた。
どうしてもエクレアにはできないことが多すぎて、イザベラが優秀すぎるのだ。
つまりはどのみち影姫というか、影の皇帝ということである。
ならば代理皇帝でもいいのではないだろうか?
政治的に考えた場合、試練をクリアーしたのはエクレアだ。
その当人が30年後、次の皇帝を指名するのは不可だが、自分の御代中に代理を立てるのはギリギリセーフではないかという。
かつては皇帝在位中に不慮の事故で亡くなった場合、または病気になって公務が行うことができずに代理を立てた例があるからだ。
イザベラは王家に連なるものとして下位ではあるが王位継承権もあり、資格としてもクリアーされていた。
そして悲しいかな常識的な観点からエクレアに皇帝は無理だと判断され、イザベラ代理皇帝が正式に受理された。
ちなみにカグヤによるハッキングで管理頭脳にそのように判断させたわけではない。
この星の管理頭脳は自らそう判断した。
「あの子は管理頭脳にもダメな子だと認定されているのでしょうか?」
イザベラは肩を落とす。
その件についてはフォローのしようもない。
でも俺も自分の管理頭脳に詐欺師だのなんだの言われているんだ。
そこまで気を落とすようなものではないさ。
「その件に関しては私はカグヤを支持しますよ」
「ありがとうございます、イザベラ様」
ひどくないか?
誤字報告、ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。
三つ子星にはもう少しいますが、次回がこの章の締めとなります。




