#96 三つ子星の優しい王女と愚かな影姫 14
今回はポーラ視点です。
「エクレアやりましたよ!」
皇帝陛下より次の皇帝にエクレアさんが指名された瞬間、イザベラさんはエクレアさんに抱きつきます。
私、ポーラも胸をなでおろします。
私は部外者なのですが、護衛ということでこの場にいます。
以前イザベラさんを投げ飛ばした手前、断りにくかったのと、せっかくお友達になったイザベラさん、エクレアさんがどうなるか見守りたかったのです。
キャプテンのくださった腕時計が管理頭脳に鑑定不能と言われた時はもう生きた心地がしませんでした。
私でもそうだったのですからイザベラさんの心中は推して知るべしです。
顔を青くしていたイザベラさんの横で、ニコニコとしていたエクレアさんは大物かもしれません。
でもこれでいいんでしょうか?
その後、私たちは打ち合わせをしてイザヨイに戻ります。
「今度はパールでいいのか?」
「はい、国に報告して、戴冠式の準備をしなければなりません」
イザベラさんはキャプテンに進路を告げます。
戴冠の議は次の首都で行うのが習わしだそうです。
次の首都に前皇帝が赴き、新しい皇帝に冠と錫杖を手渡します。
「なるほど、そりゃあ自分の星の住民にまずお披露目しないとな」
「そういうことです」
「ああ、そういう意味だったの? あたし、あのままくれれば楽なのにって思ったのに」
「もう、エクレア。……まああの時黙っておいてくれたからいいです」
エクレアさんの言動にイザベラさんは肩をすくめますが、今までと違い表情が柔らかいです。
ここまでの道のりは私たちとお茶を飲んでいても話していても時々顔がこわばっていましたが、ようやく肩の荷が下りたというところでしょうか。
エクレアさんは逆に緊張するのかと思いきや、いつもと変わりません。
ちょっと不思議に思いましたが、帰り道は仲の良い姉妹が穏やかに会話し、私もそれに加わってとても楽しい時間でした。
惑星パールに到着後、私はお二人とお別れして、今度こそ街に商材の購入に行くつもりでした。
お魚は何とかなりましたので、あとはその他の買い物です。
キャプテンの腕時計レベルというわけにはいきませんが、他星で価値のあるものを見つけようかと。
「え~、ポーラも王宮においでよ」
エクレアさんは私の腕を組み、離れません。
「えっと、これから忙しくなるので、エクレアの相手をしてくれると助かるのですけど」
イザベラさんは遠慮がちに言いますが、手を握って離してくれません。
「いいんじゃないか、皇位継承式なんてめったに見れないんだし行ってきな、急ぐ旅でもないし」
「そうですよ、ポーラ。いい経験になります。それに商材の交易は船長がやってくれますので、そっちは安心してください」
正直なところ私もエクレアさんの皇位継承式には興味がありましたので王宮に同行することにしました。
船を降りる際に若干キャプテンとカグヤさんがもめていた気がしますが、いつものことでしょう。
王宮について行ったといっても私に特にすることはありません。
ご家族にご挨拶の後は忙しそうな皆さんをしり目に、エクレアさんについて王宮を案内されたり、お茶を飲んだりして過ごしています。
ご家族や数名の使用人の方はあれやこれやと走り回っています。
特にイザベラさんが準備を手伝いつつ、当日のエクレアさんのすべきことを簡単にまとめ、教え込む様子を見ると私も何か手伝わせてもらいたいものです。
「エクレアの相手をしてくれるだけで助かるのです。本当にこの子は目を離すとどこ行くかわからないから本当に助かっています。変なことをしそうになったら投げ飛ばしてもかまいません。ああ、でも顔だけは傷つけないでね」
イザベラさんはおろかお祖母様にまでそういわれると私の仕事はただただ、エクレアさんの話し相手です。
それはそうと話には聞いていましたがイザベラさんは、本当にお祖母様そっくりでした。
背の高さ以外はお顔もお声もそっくりです。
お祖母様以下、みなさん忙しく走り回りつつも、本当にあの子を新皇帝にしてもよいのかと不安がっていますが、当のエクレアさんはあまり気にせず過ごしています。
最終的にイザベラさんにフォローを任せればとみなさんが思っている雰囲気さえ感じます。
イザヨイの食事も美味しいですが王宮の食事も美味しいです。
「あたし、フカヒレが好き~」
と、勧められたそれはとても美味しかったです。
聞けばサメのヒレだと言います。
サメと言えば蒼龍さまの剣と言われる眷属です。
納得の美味しさです。
「エクレアさんは本当にいいのですか?」
食後、二人っきりになりましたので、私は思いきって聞いてみました。
「何が?」
「皇帝の件です」
「ああ、いいんだよ」
あっけらかんと言うので何も考えてないのではと不安になります。
「失礼な、ちゃんと考えてくれたんだよ、ドラパパが」
それは自分は考えていないということでは?
それはさておきキャプテンが?
「うん、そだよ~。みんなが幸せになる方法があるって」
この状況でそんな方法があるのでしょうか?
にわかには信じられませんが?
「内緒なんだって~。えっと、敵も味方も騙すにはまず……なんだっけ? なんかそんなこと言ってたよ。敵ってなんだろね? 味方しかいないのに」
何を言っているのかよくわかりませんが、エクレアさんは何も教えてくれません。
そもそもキャプテンの言っていることを理解しているのかさえ不安になります。
「大丈夫だよ、ポーラもお魚いっぱい食べれるから幸せになれるんだって」
それはありがたいですが、なぜでしょう、不安しかありません。
私は不安を抱えたまま皇位継承式を迎えます。
厳かな中に垣間見える絢爛豪華さは我が国のどんな儀式も太刀打ちはできません。
そんな中、お化粧をし、皇帝衣装を身にまとったエクレアさんはとてもお美しく、昨日まで一緒にお茶を飲みながら話していた人と同一人物とは思えません。
その姿にイザベラさんは涙をこぼしています。
式典は順調に進み、とうとう最後、新皇帝の挨拶が始まります。
イザベラさんのみならずご家族が皆一様に緊張なさいます。
イザベラさんが何度も推敲し作った原稿を結局覚えきれず、耳につけたイアリングから録音音声を流して、エクレアさんが続くという方法になりました。
「本日この日より、皇位を継承しました。まずは国民の皆様に謝罪をさせていただきます。ご存知の通り、我が王家は5代にわたって皇帝を輩出できませんでした。国民の皆様の期待にそうことができず、我が王家は恥じる年月でした」
イザベラさんが我が子の学芸会を見守るかのようにハラハラしています。
今のところ順調です……あれ?
エクレアさん、いったい何を言い出して?
ああ、イザベラさんしっかりしてください。
私は目を回して倒れるイザベラさんを受け止めます。
あの、キャプテン、……これはやりすぎでは?
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