#10 宇宙船イザヨイ(製作コンセプト)
「それでは宇宙船についてご相談させていただきたく思います」
昨日のことがあるのか少し身構えたような感じを見せる。
昨日の件は俺も半分くらいは悪いのではと反省するところである。
「現行40m級のコンテナをベースにして外装の厚みを増やしたり、武装、探知機、シールド発生機の増設などで直径40.584メートルの宇宙船にして、真40m級とすることを提案します」
「メリットは本当の意味での40m級のゲート使用時の加速を得られることと、防御力に攻撃力の向上だろうけどデメリットは?」
「推進力の低下はありますが追加装置でカバーできます。最大のデメリットが直径増大によるゲート突入の難しさなんですけど……問題ないでしょう?」
どこかあきらめたように表情に見えるが気のせいだろう。
きっと気のせいだ。
「昨日の感じだと問題ないと思う。……今乗ってる宇宙船のコアユニットって30m級とか言ってなかったけ? 40m級に乗り換えるの?」
「いえ、確かにコアユニットは30m級ですが、35m級40m級にする場合は外装を5m、10m分増やします。もともと最重要部分ですから外装強化してスペースデブリ等から守るほうが安全なのです」
なるほど、安全はなによりも最優先される。
どこの職場や現場でもよく聞く言葉だが、建前ではなく実際にしてこそ意味があるというものだ。
「じゃあそれで進めて」
あっさりと同意した俺の言動が信じられないのか、
「いいんですか!」
と逆に驚いている。
いいも何もそっちの提案じゃね?
「それは……そうなんですが、てっきり45m級を選ぶものかと」
「カグヤが提案してきたら乗ろうかとも思っていたけどな。一晩考えてみたけど40m級でも腕利きの船乗りって言われるならそれでいいかなと。あんまり目立っても仕方ないだろう?」
まあ45m級がどの程度目立つのかわからないが、40m級でコンテナ3基、出力60%であの驚きようだったからな。
俺のこの程度的な感覚は当てにならないだろう。
「それに改装することで現行の45m級の加速速度ならもしものときにはアドバンテージもあるし、……いいんじゃないかなあと」
「私が説得しようとしたデメリットとメリットをご理解していただいてて恐縮です」
恐縮というよりはうまくいきすぎて拍子抜けしているように見える。
「ただ増築する大きさは0.584mでいいのかなとは思うけど。もうちょっと外装の厚みを増してもいいんじゃないか?」
「それもそうですが創造主が公表するなということでしたし、これくらいなら管理頭脳は誤差と認識するはずですから」
横を向き疲れた顔でため息をつく。
ごめん地雷踏んだ。
「気を取り直してコンテナ数を相談させてください」
そうだね、気を取り直そう。
「40m級ですとコンテナ3基が一般的なのですが船長の操船能力ですと4基でも問題なさそうなので設備的なことも考えて4基を提案します」
それは構わないけど。
「ありがとうございます。こちらがコンテナ設備案です」
「――! なんだこれ?」
見てわかるかなと思っていたが、わかりやすかった。
わかりやすい分、その案に思わず声をあげる。
「疑問点はおしゃってください」
「確認するが、イザヨイには他に乗務員がいるのか?
「いえ、人間は船長のみです。他には私とサポートユニットのウサギたちがいるだけです」
「おい、じゃあ居住区大きすぎじゃね!」
コンテナ2基分が居住区、食糧生産ユニットと機械などの生産ユニットが2/3コンテナずつ。
残りが倉庫や格納庫らしいが
「宇宙での閉鎖的な宇宙船の中ですからできる限り快適な環境を提供しなければなりませんので」
「いや、限度があるだろうよ!」
俺の訴えにカグヤは次の案を提示する
「それでは一般的な40m級の居住区ですが」
「それでもデカくね?」
コンテナ1基と半分が居住区となっている。
「しかし人間はこれぐらいあっても狭い、圧迫感があるといって精神に異常をきたす可能性があると統計的に出てまして」
食堂に来るまでの廊下もやけに広いと思っていたけどそういう理由かい。
しかし心配ご無用。
かつてはウサギ小屋と揶揄された日本の住居で生まれ育ち、学生生活、社会人生活と普通に以下の環境で生活してきた俺には広い空間の方が落ち着かない。
もっというなら引きこもり気質。
さっきの乗務員室で十分だ
「宇宙を甘く見ないでください!一度出航したら2,3日で到着するほどの旅ではないのですから!」
まるで悲鳴をあげんがばかりに訴える。
どうにも文化の違い民族の違い、考え方の違いに大きな溝があるようだ。
では少し話し合おう。
まず客室20とあるが人を頻繁に乗せるのか?
狭い乗務員室だとストレスが出るし、たまには引っ越しをすることも考慮して間取りが違う大きな部屋を用意していますだと。
浴場が7つあるようだが?
日本人はお風呂が好きと聞いていますのでリラックスしてもらおうと露天風呂風、檜、大理石、ジャグジー、サウナと様々種類を用意しています。
食堂が10、喫茶室が5と言うのは?
毎日同じ場所だと気が滅入ると言いますのでその時の気分で選べるように。
ちなみに今いる場所は喫茶室らしい。
スポーツジムは理解できるのだが小・中・大規模運動スペースって必要か?
大規模なんかコンテナの1/3くらい使っているようだが?
大は小をかねるのだから大規模だけでいいような、いやそもそも大規模さえいりませんが。
あとシアターってワザワザいらないかな、ダンスホールはもっといらない。
コンサート会場ってなんのコンサートだよ。
これらって多目的ホールってのにまとめればいいだろう?
いつでもすぐ使えるように分けておいた方がストレスが少ないはずだと?
改装中に気が変わるのは人間よくあることだし。
……まあ否定はしないが、使わないスペースが無駄にある方がストレスじゃないか?
あと遊技場に医療施設、マッサージ室に衛生管理室……衛生管理って何?
男性の性的衝動を発散する場所……まあそれは確保しようか。
しかし本当に無駄なスペースに思えるけど、とふと気がつく。
「ここのメインユニットにも居住区あるよな、それはどんなもん?」
今いるのもさっき寝てた部屋もメインユニットのはずだ。
「でも、メインユニットは本当に最低限しかないのですが」
そういってモニターに映し出された機能は乗務員室10部屋、喫茶室、食堂、風呂、ジム、小型運動スペース、多目的室、遊技場、医療施設、マッサージ室、衛生管理室。
「これだけあれば十分じゃね?」
「いやしかし、メインユニットの客室設備は予備的なもので最低限のものでしかないんですよ!」
「でもまあこの喫茶室も10席もあるくらいだし、他も広いんだろう。最低限とは思えないがなぁ。なんなら乗務員室を2,3つぶしてなんかにしてもいいのでは? でもって生産ユニットと倉庫でコンテナ3つ使えばいいんじゃないかなぁ」
いくら生産ユニットがあるからと長く宇宙を旅するのに倉庫が狭い気がするんだが。
「確かに資材が不足がちですが人間が生活する分には何ら問題ないレベルです」
「不足するくらいなら多めに持っておけばいいさ。なんなら倉庫だけでコンテナ2基でもいいんじゃないか?」
「いや、せめて1基は居住区にしてください。長期間の閉鎖空間でのストレスを甘く見ないでください」
見解の相違だなぁ。
閉鎖空間でのストレスより使わない無駄な空間があるのに物資が足りないほうがストレスだが。
操船適性って39位であのゲート投入能力なのだから、宇宙船の生活に耐えうる適性が31位ってのもなかなかのレベルじゃないか?
「かもしれませんが試せない以上、もしものことを想定したいのです」
確かにその意見はもっともだ。
コンテナの半分は居住区で妥協してもらうかな。
そう思いつつどう説得するかとモニターをみてあることに気が付く。
「メインユニットの艦橋とか機関部とか生命維持施設には予備がないのか?」
「ものにもよりますが、酸素や水といった生命を維持する装置とそれを維持する電力発生システムは絶対に故障しては困りますので、各コンテナに予備がありいざというときにはそちらで対応できます。推進設備やシールド発生器、亜空間共振波発生器は予備がありませんので故障したらその都度修理ユニットにて対応します」
「その間は船は停止状態?」
「そうなります。それゆえに長く宇宙を漂うこともありますので居住区の充実をはかりたいのです」
なるほど、コンセプトが俺と真逆だな。
「真逆とは?」
「故障してから対応するのではなく、故障するもんだとして動いておくってことかな」
「私も故障はつきものだと思ってますよ、だからこそ人命優先で」
それは理解している。
俺も社会人時代が長いから「事故を起こすな」的な訓戒は散々聞いてきた。
しかし俺の持論として人はミスをする生き物で、事故が起きないことはないと思っている。
たとえ本人に全く過失がなくてもたまたま運悪くという防ぎようのない事故も多々ある。
管理頭脳がどんなに優秀でも天文学的なことが重なって事故になるなどはあり得ることだろう。
だからといって、事故は起きるものだから仕方ないとは言わないし、言えない。
それで人命がかかることもあるからだ。
事故は起きるものだからこそ、起きた後にリカバリーさえできればいいのだ。
「40mのコンテナに予備の、第2艦橋や推進設備等を積んでいざというときにはそっちで動かせるようにサブユニット的なものってできるか?」
「それは……可能ですし、私的にも予備の装置があると航行運営にもメンテナンス的にも助かりますけど、船長にとってメリットがないのでは?」
「宇宙ではいくら何週間遅れても誤差って言われても、動けない状態でいるよりもとりあえず動いてたほうが安心するがね。それにメインユニットは30m級だろ? それを40mをベースに作るんだ、空間がさらにできることだし、居住区をメインユニットとは違う感じで作れるんじゃないか?」
俺の言葉にカグヤはハッと気が付く。
居住区が倍になることでまだ彼女的には足りないと思うのだが当面の心配はなくなる。
もしもの時は倉庫を居住区に改造すればいい、そしてその倉庫はコンテナ1つ丸々あるのだから優先度が少し低く積むことをあきらめた物資まで乗せられる。
また生産ユニットも食糧と機械系の生産で1つずつコンテナを使えるのであれば航海計画が非常にスムーズに立てられる。
付け加えるなら外装も増した分性能も向上した。
「じゃあ、まあそんな感じでいってみようか」