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小さな国のヘンな君主の物語   作者: 志多滝埼可
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5.山の少女。伯爵のライバル現わる。彼の国の運命は伯爵の手腕にかかった!【前篇】

山の少女。伯爵のライバル現わる。彼の国の運命は伯爵の手腕にかかった!

A girl in the mountain. The rival appears in the Count. Whether his country will be saved or not onto depends upon his dexterity!

エセナァパジの海上ホテルの成功はZ国外交官たちの面目を大いに失墜させることになった。

中古船とその改造は日本に、その内装はフランスに、それぞれ取られてZ国はその材料の調達が廻って来たのみだ。この程度では小国とは言え一国の経済の主導権を握ることはできない。


しかもZ国特使の「反対者の取り締まり」や「輸出制限」などの恫喝ともとれる発言が報道され、Z国は国際社会において恥をかかされた結果となった。


しかしエセナァパジなど吹けば飛ぶような小国だとの認識を持つ大国Z国はこのままにしておくわけにはいかない。Z国には世界、特に手の届く国々は支配すべきとする観念を持っている。よってZ国外交部はこの失態を取り戻すべく、新任の特使と共にある男を書記官としてエセナァパジに送り込んだ。


そして今晩となる。

伯爵邸貴賓室の食堂では新任のZ国特使とその書記官を迎えての晩餐会が開かれている。


「フカのヒレを食材とする発想は素晴らしい。世界にかけがえのない文化をもたらしました」

伯爵はフカヒレスープを楽しみながら特使にこう言った。エセナァパジにはフカを食する習慣はない。晩餐会の前に伯爵邸料理人シノハラが「ハルサメみたいなモノが入ったスープが出たら、ともかく褒めてください」と入れ知恵しておいたのだ。


「いえいえ、このスープの味はなかなかのものです。良い料理人をお持ちのようですな。どこの方ですか?」

「日本人です」

ほぉ・・・日本人がこの味を出しましたか、と言いそうになり特使は慌ててこの言葉をスープと一緒に飲み込んだ。


スープの前に出された「アントレ」は様々な魚を刺身のように切った具材にこの国の伝統的な調味料フラァ(魚醤の一種)をサッとかけて「ヌラ」というスダチに似た果物の汁をかけたマリネであった。フラァとヌラの相性は良く魚の生臭さが消え、爽やかにしてコクのある旨味を出していた。


スープの後の「ポワソン(魚料理)」は、白身魚にヤギ乳バターを軽くぬり油でサッと揚げたところに、香菜と白髪ネギを載せてから、紹興酒に様々な薬味で味付けされたタレをたっぷりとかけた料理だ。オニオンではなく「白髪ネギ」を使用することはカツラからシノハラに下された命令であった。


そしてメインディッシュはマトン(ここではヤギ肉)が入ったエセナァパジ・カレーがライスと一緒に出された。

エセナァパジではカレーの具に魚介類を使うことが多い。しかし今晩は「ヴィアント(肉料理)」としてマトンが使用された。


特使はカレーを口にする時にはその前に味わったスープやポワソンの味が口の中から消えてしまうことを覚悟したが、それは杞憂に終わった。

カレーはカレーとしてその味を楽しんだが、その前に食べた各料理の味も口の中で消えることなく再現できる思い出が残った。


南国フルーツたっぷりのパイがデザートに出され、最後のティーを飲む頃には特使はここの料理人の腕に文字通り舌を巻いていた。最初から最後まで全てが計算された食材の選択、味付け、見た目の華やかさ、まさに芸術を味わったような気分になれた。


「若し宜しければシェフを呼んで頂けませんか。お礼を述べたいので・・・」

特使は心からそう言った。


*****************************************


「フワーァ、さすがに疲れたぜ」

特使に呼ばれたシノハラが厨房に戻って来た。

今日は夕食の時に同席する伯爵らが晩餐会に出席したのでネコラは厨房で賄い料理を頂いていた。


「特使は何て言われたの? シノハラさん」

「特使閣下は料理全般を褒めてくれたよ。でも同行の若い書記官は最後のカレーだけを絶賛してくれたよ」

「へぇー、それってスゴイんじゃないの?」


「いやいや、カツラのオッサンからの指示で、アントレはエセナァパジのもの、スープはまんまZ国のもの、そしてポワソンでエセナァパジとZ国の旨味を相互に引き立てさせ、最後はエセナァパジのオモテナシで締めるという意味だったのさ」


「つまり・・・」

「Z国と仲直りしたいというカツラのオッサンからメッセージだ。でもあの書記官はカレーだけを褒めた。世界的に最高の肉類はやはりビーフ(牛肉)さ。だがこの国の牛は労働力ではあるが食用ではない。だからマトンになる」


「つまりビーフを輸入してくれというメッセージにしたかったということ?」

「ご明察! 相手の落ち度を暗に責めるためにカレーだけを絶賛する。こうしてこちらの心遣いは伝わらなかったというオチにしたかったんだと思う」

「うーん・・・やるわね・・・」


「ここでカツラのオッサンは何か言うべきなのに下を向いて黙っちまった。そこに口を開いたのが伯爵だったんだ」

「伯爵は何て言ったの」

「我が国のカレーを喜んで頂けて光栄です。我が国ではマトンは(いわ)(ごと)に食するものです。両国の友好を祝したいことに書記官殿からご賛同頂けたようで嬉しく思います、と言ったんだ。すると今度は書記官の方が下を向いちまってさ」


「なるほどね」

「マトンを(からか)うもりでカレーだけを褒めたようだが、ここではマトンは祝い事の食べ物、外交官のクセに相手の風習を勉強していないのかというカウンターパンチ! 伯爵にその考えがあったかどうかは分からんけど、ともかくこの言葉で『場』の流れがガラッと変わったのは事実だ。ホント伯爵は不思議な人だよ。普段はアァだけどシメルときはキチッとシメル。」


シノハラは背は伯爵と同じくらいで年齢も同じだと聞いた。

各国大使たちを(うな)らせる程の料理の腕前を持ちながら、この伯爵邸で長く料理人を務めているシノハラをネコラは不思議に思っていた。


同い年だからかシノハラは伯爵とは気が合うらしいし、料理は外交の場での大切な手段であることも理解している。

この国で伯爵を「伯爵」と呼ぶのは自分とシノハラぐらいだ。

そのシノハラをして「不思議な人」と言わしめる伯爵には、まだまだ自分が知らない面があるのだろうとネコラは思った。


************************


伯爵邸からホテルに戻るリムジンの中。

「危ないところだったな」

Z国特使は若き書記官に言った。

「いえいえ想定内ですよ。タネを撒くことに成功しました」

若き書記官、リュウ・ホワロンが答える。

「そうか」

「はい、自分は暫くこの国に留まりますよ」

不敵な笑みを浮かべている。

このタネは数日後、ある大きな事件を起こすことになる。


*************************


ここで少しエセナァパジ・ステートの歴史について説明したい。


この国の唯一の山にして3000メートル級の高山は海側には(ゆる)やかな傾斜となっている。逆に内陸側には絶壁に近い傾斜である。その絶壁の下の土地は大きな樹海に覆われている。この樹海の果てまでがエセナァパジの領土である。

伯爵のご先祖はこの土地を治めるに当たり「守備範囲」を「この樹海の果てまで」として「守備軍」を置いた。

よって外敵は戦いながらこの樹海をくぐり抜け、次に絶壁をよじ登り、頂上に到着してようやく本格的なエセナァパジ攻略に転じることができるのだが、高山の向こうにあるネコの額ほどの土地にそれだけの戦力を投じる国はなかった。


ネコの額ほどの土地。それは当時は、ただ単に人が住める土地は少なく殆んどが荒地だった。だがその土地は工夫次第で無限の可能性を秘めていた。

緩やかな傾斜はヤギの牧畜に適しており、その昔、山の民はヤギ乳からバターやチーズを作り、そして(つぶ)したヤギ肉を、河川沿岸の農地の民の農産物と、浜辺の海の民の海産物と、交換して生計を立てていた。

つまり経済の主流は物々交換だったのだが、伯爵のご先祖が貨幣という概念を持ち込んだため市場(いちば)(market)というシステムが発達した。

だから山の民は市場に自分らの商品を持ち込み販売し、貨幣を稼ぎ、自分の判断でその時に必要な物資を購入することができるようになった。


市場の発達により、各地の民の生活は充実したことから人口は増えて行った。

人口が増えれば、これまで「無人」で「荒地」だった、「傾斜地」を山の民が使用し始め、「河川沿岸地」を農地の民が開墾し始め、更なる「遠洋」へ海の民が進出して行った。


ネコの額と思われていた山の向こうの土地はそれぞれの民がユニットという集落を作り、それが市場で交流することから、各民の生活が合理化されていった。


伯爵のご先祖はこれだけの変革を何代かけてやり遂げたのかは分かっていない。ただ「海の彼方(かなた)からやって来た人」という伝承のみが残っている

そして、どうして「伯爵」という地位を名乗ったのか、この地の人々は何故西方の宗教であるヤソリックを信仰しているのかは、これからの研究が待たれる状態で明らかになっていない。


更にある時の伯爵のご先祖は「牧、農、漁の民は皆話す言葉は同じなのだから、皆は同じ土地の民である」と人々に説明して団結を呼びかけるようになる。

そして「国家」としての体裁が整い「政府」らしきものを成立させると、今度は近隣の諸外国との交易を始めて、山の向こうや海の向こうから様々なモノを「土地の民」に紹介し、更にその生活を合理化していく。


こうした治世が何十年も何百年も続くと「伯爵」と名乗る人への「土地の民」の信頼は絶対的なものとなっていき、ここの土地とその民は「エセナァパジステート」という名称の「国家」となり「国民」として存在するようになった。


*******************


さて現在の「伯爵」だが、来るべき「復活祭」のために執務室にて「マザー・ネコラ」直々に作法のレッスンを受けている。


「先ず祭壇の前まで歩いて・・・、ロボットじゃないんだからもっと自然に!・・・ そこで祭壇の方を向いて三歩進む。そして祭壇に片膝を着いて礼、そうそう・・・、ゆっくり立ち上がって3歩後退して・・・、180度転身して・・・! その廻り方じゃボンダンスです! それから両手を挙げて・・・そうそう、国民の拍手に応える・・・」


ネコラが伯爵に手解きしているが伯爵は儀式ばったことは苦手なようだ。歩けばロボットのようにぎこちなく、廻れば幼児のように体幹がブレてしまいダラシがない。


何回も練習は繰り返されたが、祭壇に片膝を着いて礼をしてからゆっくりと立ち上がるところで、

「うわー! 足がぁ~、脹脛(ふくらはぎ)が攣ってしまったぁ~!」


伯爵が(みぎ)(ふくら)(はぎ)を両手で押さえて左足でピョンピョン跳ねてこちらに近付いて来る。


ネコラは何故あの動作で脹脛が()るのか(いぶしか)しみながら伯爵に手を差し伸ばした途端、「アッ」と伯爵が何かに(つまず)いてネコラに胸に倒れ込む。


結果としては伯爵の顔がネコラの豊かな胸にすっぽり埋まってしまった。


「何するんじゃ~い!」

ネコラがハリセンで伯爵を引っ叩く。いつの間に、いや、どこから出したのだろう? このハリセン??


「伯爵様、一大事です!」

そのとき、リラゴ・サクシーン侍衛大臣が執務室に駆け込んで来て・・・その場で固まった。


右手にハリセン、左手で胸を押さえて真っ赤な顔のネコラ様。

床にカエルのように貼り付いている伯爵様。

ちなみにリラゴは両手を挙げた状態で固まったので、一粒300メートルのキャラメルの箱と同じポーズになっている。ただ、顔は笑顔でなく茫然としていたが・・・


「リラゴォ~、どうしたんだい~?」

床に張り付いている伯爵の声でネコラとリラゴは我を取り戻した。

伯爵をソファにねかせ、リラゴが伯爵の(ふくら)(はぎ)をマッシージして、ネコラがそこに湿布薬を貼った。

「アァ~、助かった~」伯爵は2人に礼を言う。


「で、何が起こったのかな?」

「あ、そうでした! 山のヤギの集団が(ふもと)の街を目指して行進しています。」


「それなら君が侍衞隊の一部隊を派遣して止めれば済む話ではないか?」

「いや、それが・・・先頭のヤギには女の子が乗っておりまして・・・」


「・・・もしかして、ヘイジか?」

「・・・はい・・・」


「では僕が現場に行こうか」

「・・・恐れ入ります」


ネコラは儀式の練習を逃げるつもりだなと思ったが、リラゴ侍衛大臣が直々に伯爵執務室に来たのだから本当に「一大事」なのだろう。

「私も一緒に付いて行っていいかしら」

「アァ、いいよ。じゃあ行こうか」

伯爵らはリラゴの後について執務室を出る。


この国には山はひとつしかないので、特に名称はない。単に「ヤマ」と呼ばれている。


そのヤマに続く道の途中に数十頭からなるヤギの大群が「行進」している。

その先頭を歩く一際大きく長い角を持つヤギの背中に細い棒を持った少女が(またが)っている。

年の頃は10歳前後か、丸く大きな瞳に焼きたてのパンのような色の肌、長い髪は三つ編みにして背後に垂らしている。


侍衛隊部隊は盾でバリケードを築いて道を塞ぐことでヤギたちの行進を止めようとしているが、ヤギたちは意に介さず行進を止めずに進んで来る。

その迫力に()しもの侍衛隊員もジリジリと後退をしている。


決して逃げるために後退しているのではない。何かの手を出そうにも先頭には少女がいる。

下手してヤギが暴れ出したら少女は無事には済まないだろうという考えからだ。


侍衛隊のバリケードの間から伯爵がスラリと現れて先頭のヤギの前に立つ。

「やぁ、ヘイジ、元気かい。今日はどうしたんだい?」


「ア、伯爵様!」少女は大きな目を更に大きく開けた。

「ヘイジ、ちょっとお話しをしようよ」


するとヘイジは指笛をピィー~!っと鳴らすと

「アル! ヘラ!」ピーッピ!

2匹の犬が素早くヤギ群の横を走り、列から外れそうなヤギたちを群に戻す。

「モグ! オロ! トス!」ピーピーピッ!

3匹の犬が羊の前に廻り込み体勢を低くして飛び掛るような姿勢をとるとヤギは行進を止めた。


ヤギの整列を確認した犬5匹はヘイジの下の集まり次の指示を待つ。

ヘイジは犬たちに右手を左右に振ると犬たちはそれぞれの「持ち場」に戻って行った。


それからヘイジはヤギから下りると一目散に伯爵に駆け寄り抱き付き自分の顔を伯爵に埋めた後、大きな声で言った。

「伯爵様、お願いですからヤギたちを全部殺さないで下さい!」

伯爵を見上げるヘイジの顔は涙でグショグショだった。


その顔に伯爵は驚き「何の話しだい?」と問いかけたが、ヘイジはそのままビェーンと泣き出してしまった。

伯爵は優しく両手でヘイジを抱きしめて背中をやさしくトントンと叩いた。


ヘイジ・ヌーンバックは夜が明ける前にヤギたちを連れ出したらしい。

5匹の牧羊犬が彼女の忠実なアシスタントだ。


5匹が子犬の頃から、自分もようやく幼児から女児に成長したヘイジが弟妹の世話をするように、水や餌の用意、フンの始末などの世話をやき、父親の横について牧羊犬のトレーニングを手伝い、上手くやると抱きしめて褒めてやり、トレーニング中にふざけ始めるとその犬の鼻をペチンと叩いて叱る。


こうして育てられた5匹はヘイジを自分たちの「アネキ」のように思っている。

身体は自分たちの方がはるかに大きくなっているのに。


そんな優秀な牧羊犬を使いながらヘイジは大人たちに気付かれることなくヤギを連れて牧場を出て街に向かった。

早朝に大人が目を覚ますと牧場からヤギがいなくなっていることにドギモを抜く。


直ちに侍衛隊に電話連絡し、地元侍衛隊員がパトロールすると山の(ふもと)の直ぐ近くの街の入口附近にヤギの大群が迫っているのを発見した。

地元侍衛隊分隊から侍衛隊本部に連絡が走り、リラゴが伯爵に助けを願い出たのがこの事件の顛末だった。


山の民のユニット・リーダーでありヘイジの父親デルザ・ヌーンバックはリラゴ侍衛大臣の前に行くと土下座し両手をついて頭を下げる。


「娘には私からよく言って聞かせますので、どうか寛大なご処置を・・・」

「その件は後でじっくりお話することにしましょう。今は早くこのヤギ達を山に戻して頂きたい」


リラゴの指示にデルザはユニット・メンバーに命じて、手際良くヤギの群れを山の方に転換させ移動させていく。侍衛隊員らもメンバーと一緒に身体を張ってヤギが1匹でも街に紛れ込まないように注意深く様子を見守っている。


そうした緊張の外で伯爵はヘイジの頭を撫でながらヘイジの後ろに控えている犬たちに話しかける。

「アル、ヘラ、モグ、オロ、トス、ヘイジと仲良くしてくれているかな?」

すると伯爵に向かって5匹はススッと近寄りお座りして口を開き尻尾を振った。


ネコラは、この人、犬ともお話し出来るのかしらと思いつつ

「ヘイジさん、ネコラです。よろしく・・・」

とヘイジに右手を差し出すと途端に5匹はピィンと緊張感を発して口を閉じ立ち上がった。

ネコラは思わず出した手を引っ込めた。


「アンタたち、この人は大丈夫だよ」とヘイジが言うと5匹はまたお座りの姿勢に戻った。

何だこの差は?・・・やはり犬と話ができるのかいな伯爵は・・・ネコラは少し悔しかった。


伯爵がヘイジから聞いた話と、リラゴ大臣がユニット・リーダーのデルサから聞いた話はほぼ一致した。


それは、先週報道されたある新聞記事に端を発していた。


Z国はエセナァパジ政府に貿易不均衡の不満を表明した。


「エセナァパジは食用肉に対する関税が高過ぎる。関税を撤廃しなければ、エセナァパジが輸出する全ての食料品に対する関税を上げる」

と通告してきた。


しかし元々エセナァバジの人々は蛋白源を魚介類や豆、そしてヤギ乳やチーズから摂取している。

マトンは慶事に御馳走として頂くくらいで、肉はあまり食べられていない。

狭い国土から生まれた習慣だった。


政府としては、簡単に食用肉の関税を下げてしまうと、安い外国の獣肉が入ってしまい、この国の食文化のみならず、産業構造までも変わってしまう。


だから政府としてはZ国の要求をそのまま受諾することはできない。


だからと言って、はっきりと大国Z国にはっきり「ノー」と言えるほどの力は残念ながら持ち合わせていない。


対応策を講じていたが、これが国民には弱腰と映り、政府の予想以上に、山の民が過剰に反応して「近く政府が肉類の輸入に対する関税を撤廃する。」という噂が広まっていたのだ。


「ビーフ(牛肉)はマトン(ヤギ肉・羊肉)より世界的には評価が高い。」

実際には地域によって異なるのだが、最近オープンされた海上ホテルなどの外国の観光客の泊まるホテルの増加に伴い、ビーフの使用に対して山の民は不安ストレスを高めていた。


外国の美味くて安いビーフが国内に流通始出(しだ)したら、狭い国土の一部でしか生産されない、しかも慶事にしか食されないヤギ肉に対して、この国の民の舌が手軽に食べられてしかも美味いビーフの味に「占領」されてしまったら、山の民は自らの糧を得る方法を大変換せざるを得ない。


このストレスから山の少女であるヘイジは子供心に危機を感じて、その卓越した能力を最大限に駆使して「世論」、子どものヘイジにはこの言葉は似合わないが、「国のみんなに山の危機を知ってもらおう」と考え、子どもの知恵を最大限に絞って、大人では暴挙とされる行為に出てしまったらしい。


このことに伯爵はかなりのショックを受けたようだ。

こんな子どもにまで将来の心配をさせるとは・・・

自分の無力感を感じる。


その昔では、閣議の開催者は伯爵であり、総理大臣は伯爵の考えに合わせて閣議を進めた。しかし現在では伯爵は象徴的な存在で、意見を述べることはあるが、閣僚はそれを必ず受諾する義務はない。


しかし今回の場合、閣議冒頭に閣僚全員が伯爵に対して頭を下げた。


「私共の力不足のため伯爵様には多大なご心配をお掛けさせ誠に申し訳なく思っております。」


カツラ総理はお詫びの言葉を述べた。

伯爵は一言「宜しく頼む」と閣僚たちに告げ、あとは閣議の内容を黙って聞いていた。


最近、伯爵は書庫に籠ることが多くなった。また何かの「研究」を始めたらしい。


Z国は「獣肉に関する関税撤廃」をアメリカ、オーストラリア、カナダなどにも打診して支持を得ている。


エセナァバジ政府としては窮地に陥っていることは事実だった。


復活祭まであと20日。

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