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4話 依頼を受けました

「急な話だけどよ──ライカ、俺のパーティに入らねえか?」


   軽鎧姿の大男──アルバートは、真顔でそんなことを言ってきた。


「…………や、あの。パーティって、何?」


「え、そっから?」


 どうにも締まらない勧誘となってしまったが。






「ようはチームってことかぁ」


「そんなとこ」


 アルバート曰く、この世界には冒険者ギルドと呼ばれる組織と、そこに登録されている依頼を受け生計を立てる冒険者という職業が存在するらしい。

 ギルドの規定で四人以上のチーム──パーティを組まなければいけないらしいのだが、最後の一人が見つかっていなかったそうだ。


「ライカなら実力があるし、何より町のために一人で、しかも丸腰で魔物の群れに突っ込む勇気がある。こりゃもう勧誘するしかねーよってな」


「そうしないと子供が危なかったから……」


 そういうとこが気に入ったと頷くアルバート。かなり単純な男なのではなかろうか。


「入ろうぜ〜? 今ならお得だぜ? 洗剤とかつける」


「通販か何かかよ」


「つーはん?」


「……あ、そう。や、何でもない」


 この世界に通販は存在しないらしい。なにやら釈然としないが、まあそういうものなのだろう。


「そか。まー他にやることがあるってんなら諦めるがよ、無いなら考えて欲しいわけだ」


「確かにやることはないけどさ」


「いいね。じゃあひとまず俺の仲間に会ってみるか。そっから考えようぜ!」


 単純な上に、酷く強引な男だった。しかし憎めない男であるとも思う。

 了解を出すと、アルバートは町の中央にある喫茶店に仲間が待機していると言う。とりあえずそこに向かうことになったのだった。


「あ、その前にさ。背中結構痛いんだけど、そっちの治療とか先じゃダメ?」


「俺の仲間は回復魔法使えるぜ!」


「あ、そう……」






 喫茶店へ向かおうとすると、何やら武装した男たちがこちらへ走ってきているのを発見した。子供達がしっかりと役割をこなしてくれた結果であろうか。

 到着した男たちは周囲に転がっている魔物の死体を見て驚いた雰囲気だった。

 代表であろう青年が話しかけてくる。


「あの、自警団の者ですが……これはあなた達が?」


「あ、はい。わざわざ呼んですみません。案外どうにかなりました」


「おう。まあ楽勝だったよな」


 アルバートが来なければ割と死んでいた気がするが。まあそこはいいか。

 自警団の青年が、困惑した様子を見せつつ頭を下げてきた。


「ありがとうございます。お二人のおかげで魔物に侵入されずにすみました」


「まあそいつはいいんだが……ちょっと聞きたいんだけどよ。こういうのは、この町じゃよくあることなのか? もしそうなら警備が手薄過ぎると思うんだが」


 アルバートが周囲を見渡しながらそう聞くと、青年は記憶を探るような仕草をしてから答えてくれる。


「生まれてずっとこの町で暮らしていますが、群れから逸れた魔物が迷い込むならまだしも、群れが直接町に来る、なんてことは初めてだと思います」


「……へぇ。なあ、この町の長にあとで訪ねに行くかもって伝えておいてくれねーか?」


「は、はぁ……。わかりました」


「頼んだぜー」


 困惑している自警団をおいて、アルバートは歩き出してしまった。


「さっきのどういうこと? 後で訪ねるかもって」


「ん? いや、わかんねえ」


「わかんないってさらにどういうことなんだよ」


 アルバートは困ったように顎をさすった。


「いやさ、戦ってて変な感じしたんだよ。あの群れは何かに怯えてたっつーか……いや、わかんねえわ。わかんねえから俺の仲間に聞いて、何か引っかかるようならそれを町長に伝えた方がいいかもってな」


 彼は、俺は馬鹿だからなーんもわかんねえわ!と笑って付け足した。

 俺からすれば行動に筋が通っており、あまりそうとは思えなかったが。


 色々と話しながら喫茶店の前まで行くと、二人の男女が立っていた。アルバートに気づくと二人は早足で近づいて来る。


「遅くない?」


「すまんレニー。道に迷った」


 青髪の青年──レニーがアルバートに詰め寄ると、アルバートは謝罪する。

 背丈は俺と同じくらいだろう。細身だが、鍛えているとわかる体躯。優しげな目付きで、どことなく品のある青年だと思った。腰には、やはり細身の剣を佩いている。


「だからいつも言ってるでしょ。アルバートに方角で指示するのはよくないから右左で指示すべきだって」


 少女が呆れながらそう言った。

 美しい金髪をツーサイドアップにしていて、フリルがついた可愛らしい服を着ている。勝気そうなつり目と整った鼻筋。お嬢様と言われてイメージするとしたらそんな感じだろうか。


「なあシスティア。それは流石に俺を馬鹿にしすぎじゃねえか?」


「じゃあ、さっきレニーなんて言われた?」


「喫茶店の東にある宿屋に行けって」


 ……東。しかし俺たちがいたのは……。


「ふーん。今どっちからきた?」


 システィアに言われ、アルバートは歩いてきた方を指差した。


「そっちは西よ」


「……マジ?」


「思うんだけど、アルバートは僕らがいないと冒険者出来ないだろ」


 さっきバカには見えないと思ったが、やはり彼はバカなのかもしれない。そんなことを考えていると、システィアという少女がこちらに目を向けた。


「で、そっちの人は?」


「ライカ。四人目の仲間」


 アルバートがそう答える。いつの間に決定してしまったのか。


「……明らかに困惑してない? 絶対無理やり連れてきたでしょ」


「いやそんなことねえよ! なあライカ?」


「ええ……いや、うーん……」


「もうこれが答えよね──って、あなた……」


 システィアがこちらを見て目を丸くしていた。疑問に思っていると、彼女はこちらの背後に回り込んだ。


「怪我してるじゃない」


「さっき魔物の群れと戦ってて、その時にちょっと」


 それに納得の声をあげたのはレニーだった。


「なるほど。そこに迷子のアルバートがちょっかいをかけたってとこか」


「流石話が早えな」


「それで四人目の仲間として目をつけられたってわけね……今治すわ」


 傷の辺りに暖かい感じがしたかと思うと、痛みが急速に引いていった。


「お? おお……痛くなくなった……? これが回復魔法?」


「回復魔法はあんまり得意じゃないけど、浅い傷だったしこれくらいならね」


 魔法って凄い。改めてそう思った。

 システィアにお礼を言うと、アルバートが迷惑をかけた詫びと言われた。助けられたのはこっちだと説明すると意外そうな顔をされたが。


「あぁ、そうだ。二人にちょっと聞きたいことがあるんだけどよ」


 そう切り出し、アルバートは先ほどの群れの話をした。システィアがにわかに考え込んだ後、少し深刻そうに口を開いた。


「気になるわね。この周辺の魔物はあんまり好戦的じゃないというか、臆病だと聞いているわ。考えられるとすれば……そうね。町長に会いましょうか。杞憂で済むならいいけど、調査はすべきだしね」


 レニーとアルバートが頷いた。この少女がパーティの司令塔を担っているのだろう。


「あなたも来る? えっと、ライカだったかしら」


「気になるし、ついてっていいなら行きたいかな」


「決まりね。行くわよ」


 そんなこんなで、パーティへの同行が決定した。






 町の役場に行くと、町長室に通された。先ほどの自警団の青年が話を通しておいてくれたらしい。


 部屋に入ると、初老の温厚そうな男が待っていた。


「おお、話は聞いております。どうぞ、座ってください」


 全員が座ると、お茶が運ばれて来る。


「さて……先ほどはありがとうございました。町を代表して、お礼を申し上げます」


 深々と頭を下げられてしまった。成り行きかつ見切り発車でやったことなので、あまり礼を言われても……と思うが、素直に受け取ることにする。


「町長、先ほどの群れについて話があって我々はここに来ました」


「話、ですか?」


 システィアがそう切り出すと、町長はわずかに首をかしげた。


「ええ。この町の周辺の魔物は比較的臆病な種が多く、あちらが全滅するまで戦闘を行なった、というのには違和感があります」


「……確かに、そうですな。普段町には一切近づいて来ませんし、たまに近づいて来ても大きな音で脅かしてやればすぐに逃げていくような魔物です」


「では、あの群れには戦わざるを得ない理由があった……ということかもしれません。例えば──どこからか流れてきた強力な魔物に住処を追われ逃げていた、とか」


 システィアがそう言った途端、町長の顔色が変わった。もしそうであれば町に危険が及ぶ可能性がある。当然のことと言えた。


「……早急に調べる必要がありますな……。やれやれ、今すぐ自警団を──」


「お待ちください。調査のことですが、僕たちに任せてもらえませんか」


 立ち上がりかけた町長をレニーが静止した。目を丸くする町長に、システィアが補足をする。


「私たちは以前、デクストーク王国で冒険者をしていました。訳あってこちらに移ってきましたが、再び冒険者になろうと思っています。そのために功績があると、何かと便利でしてね。ついでに町長さんの口添えがあるともっとありがたいのですけれど」


「……なるほど、可愛らしいお嬢さんだと思っていましたが、中々計算高いようだ」


 町長は少しばかり面白そうに微笑んだ。それを受け、少女も不敵に笑ってみせた。


「いいでしょう。あなた方に調査を依頼します」


「お任せください。しかとその任果たしましょう。では、また後ほど」


 そう言ってお茶を飲み干すと、彼女は部屋から出て行った。俺含め男たちも彼女の後を追いかけ部屋から出る。


「さすがシスティア。僕の狙い一瞬でわかってくれたね」


「同じこと考えてたから」


「なんにせよ、これがこっちでの初任務ってわけだ。新しい仲間もいることだし気が引き締まるな」


「俺参加するの確定なんだ?」


 ここまで来た以上正直それでいいのだが、一応言っておいた。


「アルバートが連れてくるくらいだし、期待してるわよ?」


「努力します」


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