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1話 異世界ライフ始めます

 その日、俺はいつもと同じ時間に起床した。いつもと同じように学校に行く準備をし、家を出る。俺こと藤崎頼嘉(らいか)は高校生だ。……だった、と言う方が正しいかもしれない。なぜなら、俺は今日、さっき死んだのだから。


「いや、死んだと思うんだけど。なんだここ。あの世ってやつ?」


 死んだはずだった。猛スピードでトラックが突っ込んで来たところまでは覚えている。

 そのあとは思い出せないが、まああれは死ぬと思う。ともあれ、死んだはずの俺は、どこまでも真っ白い空間にいた。見渡す限りの白。その果てはまるで見えなかった。


「死んだのは正解です。あの世、というのは違いますけどね」


 突然背後から女の声がする。振り返ってみれば、そこには美しい女が立っていた。長く綺麗な金髪、整った顔立ち、出るところは出てひっこむところはひっこむ完璧なプロポーション。そして天女が纏うような白く美しい衣装。まるで女神のような出で立ちだった。


「……どちら様でしょうか?」


「神様です」


 その女は、どうやら本当に神だった。






「で、神様が何の用ですか?」


 立ち話もなんですからと、神様がどこからともなく出した机と椅子でお茶会が始まっていた。出されたお茶を一口飲んでみてからそう聞くと、神様が答える。


「いえね、頼嘉くん。実は大事なお話がありまして」


「俺が死んだってこと?」


 差し当たっての話題といえばこれくらいしか思いつかなかった。


「それに関してですね。というか、死んだって自覚ある割に冷静すぎやしませんか?」


「まあ、なんというか、死んでもそんな困らないっていうか……」


 そう、別に死んでも困らないのだ。死にたいわけではないが、生きていたいわけでもなかった。


 俺の人生には何もない。やりたいことも、やるべきこともなく、日々をなんとなく過ごしている。それがたまらなく苦痛だった。恋人もおらず、友人もいない。両親とも、一緒に住んでこそいるが会話はない。お互いに興味がないのだ。そんな人生に執着はなかった。生きているのは死ぬ勇気がなかっただけで、死ぬなら死ぬで別に良いか、と思う。


「淡白ですねぇ。私としてはありがたいですけど」


「ありがたいって、なにがですか?」


 お茶を飲んでから神様はにへらと笑った。笑って、とんでもないことを言いだす。


「いやあ、間違えて殺しちゃったけど許してもらえそうだなあって」


 時間が止まる。いや、止まったように思えた。


「あら、どうしました?」


「いやどうしましたじゃないですけど。間違えて殺したってなんですか」


「私ってば生と死を司る神様なんですよ。なんというか、死ぬべき人を死ぬべき時に殺したりする仕事なんですけど、今日ですね、藤阪来奈、という人が死ぬ予定だったんです」


 まさか、と思う。そんな馬鹿なことがあっていいのだろうか?


「間違えちゃいましたよねー。藤阪来奈と藤崎頼嘉。語感が似てません?」


「知らんわ!」


 あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて思わず声を荒げてしまった。別に生きていたいわけではないけれど、だからってこの終わり方はどうなのか。


「……神様、それで務まるの?」


「他の神にバレなきゃセーフです」


 ……見た目は女神でも、中身は悪魔かもしれない。


「まあでも、間違えちゃったごめーんってのも悪いなーなんて思いまして? せっかくですし、新しい生をプレゼントしようかなーって思ってるんですよ」


「新しい生?」


「いわゆる生まれ変わりってヤツですね」


「……別にいいよ。そこまでして生きたいわけじゃ……」


 そう言ったところで、神様がずいっと身をこちらに乗り出してきた。結構胸元が開いた服なので目のやり場に困る。思わず身を仰け反らせるが、その分さらに神様は身を乗り出してきた。


「いやいやいやいや! そういうわけにはいきませんよ! それじゃ申し訳なくて夜しか眠れません!」


「しっかり寝てるじゃねえかそれ」


 思わずツッコミを入れると神様は姿勢を元に戻した。……少し安堵した。


「いいじゃないですかー生まれ変わりましょうよー」


 子供のように駄々を捏ね始めた。威厳もクソもない。というか、そんな神様を見て一つ疑問が生まれた。


「なんでそこまで生まれ変わりをさせようとするんです?」


 そう、わざわざ駄々を捏ねてまでなぜ俺を生き返らせたいのか。それを問うと、神様はしれっと答える。


「予定と違う死者が冥界にいくと私のミスがバレちゃうんで」


「こいつ……」


 どうしようもないと思った。こんなんが神様やってるとか信じられなかった。世の中どうかしている。


「まあいいけどさぁ……」


「お、助かります。実は神界から追放されるかどうかの瀬戸際でしてね」


 追放した方が良い気がする、と言う言葉は飲み込んだ。これ以上ややこしくしたくなかったからだ。まあすでにややこしいのだが。


「というか、あんた生と死を司るって言ってたけど、俺を生き返らせたりできないのか?」


「できますけどぉー……」


 神様が言い淀んだ。視線で先を促す。


「一回死んだ人間が生き返ったら大パニックでしょ? そしたらほら、私のミスがね?」


「結局そこかよ!」


「時間を巻き戻すことも考えたんですけど、それにはどうしても時間を司る神の協力が必要でして」


「あーそうですね他の神様にバレちゃいますね」


 理解が速くて助かります、と神様の笑顔。本当に見た目だけは溜息が出るほど綺麗なんだが、中身は溜息が出るほどどうしようもなかった。


「あんた地獄かなにかに行った方がいいと思う」


「私は善人判定受けてるので天国行きますけどね」


「その判定した奴に基準変えた方がいいぞっつっとけ」


 そういうと神様はけらけらと笑った。


「ま、そういうわけで、転生という手段が一番私的に都合が良いんです」


「あぁ、そう……。まあなんでもいいけど、やるならやってくれ」


「では、貴方をこれから剣と魔法の異世界に転生させようと思います」


「なんで?」


 間髪入れずに疑問をぶつける。普通に元の世界に生まれ変わるものだと思っていたので、あまりに予想外の言葉に驚いてしまった。


「出生リストっていう、次にどの魂が生を受けるのか書いてあるリストが各世界にあるんですけど、貴方の世界のリスト管理者は厳しい人でしてねー。そこに割り込ませるのは難しいのです。ですから、リスト管理が甘い世界に転生させる必要がある」


 俺的にはないが、神様的にはある、というのが果てしなく面倒な話だった。


「そっすか……。もうなんでもいいです……」


 どう話してもこの神様の保身の話が出てくる気がした。多分正解だと思う。


「あはは、安心してください。こう、いい感じに転生させてあげますので!」


 神様が光を放つ。その光に包まれると、意識が遠のいていった。


「いい感じってなんだよ⁉」


「ではでは、異世界ライフ、楽しんじゃってくださいねー!」


 質問に答える気はないらしい。呆れつつも、抵抗できない俺はおとなしく意識を手放した。


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