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別のナニカの短編置き場

国語教師の軽い憂鬱

作者: 別のナニカ

読んでくださっている方々がいて、とても嬉しいです!


短編シリーズ 第4弾

あぁかなり緊張してるなぁ、俺。いいぞぉ。この緊張感がたまらなく良い!

 ついに俺の、先生としての1発目の授業が始まるぞぉ!

 

 えーと、3年B組の教室は……あ、ここか。

 よぉし。大丈夫。何も心配することはない。いつも通りの俺でいい。

 

 俺は教室の戸をガラガラと開け……アレ、開かない? うそ? 外れてる?

 嘘だろぉ。俺の1発目の授業だってのに。幸先悪いんじゃないかぁこれ?

 

 すると突然、

 

「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 俺は正直とても驚いた。生徒達の笑い声だ。生徒達が、俺が教室に入れないのを見て笑ってくれているのか?

 

 ……なんていい子たちなんだ……。

 

 よぉし。戸も直したし、改めて、

 

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ……ここの戸、長くない?

 

「……」

 

 ここでは笑わないのかよ!! まぁそうか、戸が長いのは2年過ごしてきた生徒達にとっては普通のことか。ていうかなんでこんな長いんだ?

 

 よぉし。気を取り直して、始めますか!

 

「おぉっす! みなさん、初めまして!! 今日から国語を担当します!! よろしくなぁ!!」

 

 

 「うぇーい」という歓声。教室内に響く大きな拍手。あれ、今どこかでブーイングの声が聞こえた気がするけど、まぁそれはそれ。

 

 こんな歓声と拍手に包まれて先生ができるなんて……俺は本当に幸せ者だ。泣きそう。

 

「おぉっし、じゃあ簡単に自己紹介から! 俺の名ま……」

 

「先生彼女いるんすかぁー」「何歳?」「早く授業始めろよー」「そんなイケメンでもなかったねー」「ねぇ何歳?」「なんか背、低くない?」「戸、外れてたの、あれダサかったよなー」「ねぇねぇ何歳なの?」「声でかくね」「自己紹介とか別にいらんがな」「ねぇ何歳なの!!?」「ぶっちゃけキモくね」「ないわー」「何歳なの……もうどうでもいいや」

 

 

 

 ……おぉ、なんだこのクラスは……、さっきの歓声と拍手はどこいった、悪口めっちゃ聞こえてきたぞ。でも、逆に捉えるんだ。いい、すげぇいい。めっちゃ俺に興味持ってくれてる……。

 

 よぉし。ここは俺の考えてきた、生徒達を注目させる話題でいこう!

 

「おぉっし、みなさん聞いてくれぇ。突然だけど、みなさんの『嫌いな部首』は何かな!? ちなみに俺は『しんにょう』が嫌いだ! 意外だろ! ククククっ!」

 

「…………」

 

 ……あれ? 引いてる? もしかしてみなさん引いてる?

 まずかった? 最初の話題が『嫌いな部首』はさすがにまずかった!?

 

 くそぅ……! ならば敢えてこの話題を広げていこう!

 そうすれば生徒達も、嫌いな部首の話題の魅力に気づくはずだ!

 

「『しんにょう』ってさぁ、なんか書きにくいと思うんだ! ふにゃってなるというか、バランスが取りにくいというか……なんか書きにくい!」

 

 シーン……。だがいい! この静けさが逆にたまらん!

 

「あぁ、もちろんこれは個人の意見だ。『しんにょう』が好きなやつは、どんどん『しんにょう』を書いてくれて構わない。『しんにょう』を愛し、『しんにょう』に愛される、『しんにょう』人間になってくれ!!」

 

 これもシーンか……。だがまだ、奥の手がある!!

 

 

「だから、なるべく俺は『しんにょう』を書きたくないんだが、実は、『しんにょう』とは切っても切れない縁なんだよ、俺は。……なぜかって?」

 

 次の一言を言った瞬間、たちまち教室は、笑いの渦が巻き起きるだろう……ククククっ!

 

「なぜなら、俺の名前は『遠道 達造』だから!! すごいだろ!! 全部『しんにょう』が付いてるんだぁ!! ククククっ! クククク!!」

 

 シーン………………。

 

 

 

 

 

 ……アァ、やべぇ、帰りたい。

 『しんにょう』の話題が、こんなにも受けないとは……。

 

 

 もっと生徒達の心を掴むような話題を探さなければ!!

 ていうかその前に、授業をしなければ!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

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