表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BEASRON DC  作者: SD
3/3

1話 異端児現る

高山第二高校の屋上、雲ひとつない快晴の空、それに延びる白くて高い煙突。

そんな場所に、1人の少年が空を仰いでいた。


「風が心地いいな…」


教室では…


「おはよう、みんな」


1年D組の教室へ、担任が入ってきた。


「それじゃあ、始めるか」


いつも通り、起立と挨拶をし、着席をする。


「ここでの生活も、まる2ヶ月くらいだが、今日はうちのクラスに新しい仲間が入った。一番後ろの席に…」


私の隣の席を見つめ、先生が話を止める。


「この席、朝からずっと空席です」


私の言葉に、先生も動揺しているようだ。


「…湊、お前の一限って何時スタートだ?」


「一限目は9時半からです」


この学校には共通の時間割がない、それぞれが授業を選び、個々の時間割が作られる。


「それじゃあ、そいつ探しといてくれないか?海道って名前だから」


海道…性別すらも分からない、一体どんな人なのだろう。


「分かりました」


先生も頷き、ホームルームが終了する。


「じゃあ、今日も夢に向かって全力で。頑張ってくれよ」


ヤケにくさい台詞だけど、別に、この先生が熱血な訳ではない。夢を追う為のこの学校では普通のことだ。

ここ、高山第二高校は、超総合専門学校。学長の一橋 一が、この光が丘の町を運営する為に建てた学校である。

生徒は全員、将来の夢の為の授業を受ける。専門分野の授業が大半を占め、100人以上勤務している教師の中に、同じものを教える人間は、ほとんどいない。

そんなこの学校に、今年の春、私は教師を目指して入学した。


「きっとあそこね」


私は階段を上がった。転校生がいそうな場所なんて、屋上以外に考えられない。うちは教師の人数が多い、校舎内は忙しなくて、居心地が良くない。

私は最上階に着くと、目の前の押扉を開けた。

そこには、やはり1人の少年が寝ていた。


「おっ、お客さんかな?」


その少年が顔を上げる。


「あの…あなたが海道君?」


彼が立ち上がりながら言う。


「俺の名前しってるとか、まさかファン?」


当然のような目で私を見る。


「いや…違うから」


「なーんだ、期待したのに」


その自信はどこから出ているんだろう。


「転校生だからって、朝のホームルームくらいは出てよね」


彼は顔を近づけて、私を見る。


「ちょっ、何⁉︎」


「はは〜ん、世話焼きな委員長タイプか」


そう言って、また私から遠ざかる。


「タイプじゃなくて、実際にクラスリーダーですから!同じクラスの湊愛美」


振り返って、私を指差す。


「その眼鏡、いい味だしてんじゃん」


私の自己紹介は無視⁉︎こんな人間は初めて会った。もう、どうして良いか分からない。


「それより、そっちも名乗りなさいよ!」


自己紹介なのに、彼は全く振り向かない。


「俺か?俺は海道蒼、強ぇパイロットになる為にここに来た」


意味不明…この時期に転校して来たのだから、相当な夢なんだろうと思った、けど。


「この学校に来た理由がそれ?」


「一応な。それで、お願いがあるんだ」


この流れで、どんな内容か想像がつかない。


「何?お願いって」


「俺とチーム組まないか?」


「は?」


チーム?何の?まさか、ビースロンの?


「だから、ビーストファイトのチームだって」


そう言いながら歩いてくる。


「私、ビーストファイトなんてやったことないから」


彼がポケットから名刺ほどの紙を取り出し、すれ違いざまに渡してきた。


「今日の放課後に来てな、それじゃっ!」


「あの、ちょっ!」


彼は振り向かずに手を振り、そのまま階段を降りて行った。


「…。本当に意味わかんない」


紙に書かれていたのは、「カードポート」という場所の地図だった。



放課後、私は彼に言われた通りに地図の場所に向かう。はっきりと断りたかったが、知らない世界にワクワクする自分もいた。

カードポート練馬店、どうやら春日町にあるカードショップらしい。光が丘公園の南にある学校から、自転車で10分程。光が丘の町とは違い、長閑な住宅街が広がる道を走る。

地図の場所に到着すると、そこにあったのは…


「古本屋…?」


騙された。やっぱり、出会ったばかりで、しかも、あんな変人を信じた私が馬鹿だったんだ。


「帰ろ…」


「おや、若い娘なんかが珍しい」


古本屋の中から声がした。振り返ると、腰を曲げ、白髪のおじいさんが立っていた。


「すみません、場所間違えちゃったみたいで」


そのおじいさんは、目を細めて微笑んでいる。


「そうかい、その制服、高山二高の生徒さんだねぇ」


創立20年程とはいえ、今年から新しい制服になったばかり。さらに、多くの生徒が自転車通学なので、身内に生徒でも居なければ、そんなことは知らないはず。


「よく分かりますね」


「わしの孫も通い始めてな。お嬢さんも一年生かな?」


言い方からして、おじいさんの孫も一年生のようだ。まさか、同じクラスかな?


「お孫さん、何て名前なんですか?」


おじいさんは、上の方を見上げて言った。


「蒼じゃよ」


「蒼⁉︎」


何が起きてるんだろう、状況が全く掴めない。驚きと混乱が私を支配する。

いきなり私が叫ぶので。おじいさんも目を丸くしていた。


「おぉ…お嬢さん、知り合いかね?」


「それですよ!その蒼がココに来いって!」


私は彼の肩に掴みかかっていた。


「まぁ落ち着きなさいな」


「すみません…それで、蒼君は何処にいるんですか!」


おじいさんが私の横を指差す、そこには看板が立っていた。


[↖︎2F カードポート練馬店]


「あっ…///」


顔が熱くなってきた。もうおじいさんの顔も見れない。


「ご迷惑をお掛けしましたっ‼︎」


私は急いで、古本屋横の階段を駆け上がった。


「若さはええのう」


私は息を荒くして、店のドアを開ける。

レジに座っている、眼鏡をかけた男の人が私を不思議そうに見る。


「あのっ!」


入り口付近にいた子供達も私を見る。


「えっ…あっと…どうしました…?」


私は周りの目なんて気にならなかった。


「蒼君は、何処にいますか」


「あ〜っ、奥のテーブルにいると思うけど…」


店の奥は、棚が邪魔して見えなかった。


「ありがとうございます」


私は礼を告げ、店の奥へむかった。


「ごゆっくり…彼女…?いや、まさかな」


店の奥には、天板が画面になっている4つほどのテーブルがあり、テーブルの周りは50センチ程の高さの柵がある。その中の一番奥のテーブルに、蒼は立っていた。


「おぉ愛美!遅かったな」


「あなたと違って、私は授業があったの」


相変わらず、私の話を聞かずに、店の倉庫に入る。


「ちょっと、ちゃんと人の話を聞いてよ」


「ほら、これ」


彼は、いくつかの箱をテーブルに並べた。


「何これ?」


「ビーストカードだよ。お前もビースロンは知ってるだろ?」


知ってる前提だが、実際、知らない人はいないだろう。50年前に誕生したスポーツやゲームで、人の死なない戦争を可能としたビーストスーツを使用した競技である。

その10年後に、不景気改善のために、世界がビーストスーツ産業に目をつけ、そのデザインやルールの覚え易さから、ビースロンは世界中で、人々に遊ばれるようになる。

今や、戦争をビーストスーツで行うなど、核などの兵器の代わりになる程の影響力を持っている。

特に光が丘では、学校運営のために、町全体で導入されている。


「興味はあったけど、私に出来るのかな?」


私が中学生の頃、お世話になった先生がビーストスーツのパイロットだった。

若い時は全国レベルのパイロットだったらしいけど、ある事件をきっかけに、身を引いたらしい。


「大丈夫、馬鹿でも出来るから」


「確かに、あんたにも出来るんだもん…」


やっぱり聞こえていない。


「お姉ちゃん、ビースロンやるの?」


近くにいた子供達が話しかけてきた。


「うん、そうなんだ」


「ならこれがいいよ!」


渡されたカードを手にとる。正面には、猫のような絵が描かれていた。


「キャット…」


「たくみ君の言う通り。キャットはシンプルなスーツで初心者向きなんだ。結構新しいタイプだから、いいんじゃね?」


「あっ」


思い出した。キャットという響き、幼い頃、よく耳にしていた。

でも、誰が言ったかは思い出せない。


「じゃあ、これにしようかな…」


「よし!じゃあ早速始めるぞ!」



私はパッケージからビーストカードを取り出す。

カードにはスーツのデータがビッシリと書かれていた。素人目で見ると、何の事やらサッパリだった。


「じっと見ても始まらねえよ?とりあえず、カードをその溝に刺してみ」


テーブルの両端二箇所に操作盤があり、そこにカードと同じサイズの溝がある。私は溝とカードの矢印マークを合わせてセットする。

テーブルから音が流れ、目の前の画面に立体映像で私と蒼のスーツが映った。


「このスーツ映像で戦うの?」


「いや、これは観客用だよ。下にヘッドセットが入ってるだろ?」


操作盤の下のフックに、頭に着ける装置が掛かっていた。見た目は半世紀前、2015年くらいのVR装置だった。


「やけに古いのね」


「安いやつだからな。でも、グラフィックの良さは凄いぜ?」


装置を頭に着けた。ヘッドフォンも一体化して付いており、目と耳が完全に覆われた状態になった。

なるほど、この状況でのプレイヤーの安全を考慮して、テーブルの周りに柵があったのか。


「聞こえるか?愛美」


蒼の声がヘッドフォンから聞こえた。どうやらマイクも内蔵されてるらしい。


「聞こえてる。真っ暗なんだけど?」


「ちょっと待ってな。もう直ぐ始まるから」


何かを分析しているのか、loadingの文字が目の前に現れた。


「おまえ、中学どこ?」


「えっ、北中だけど…」


「了解。中3のクラスは?」


何の気兼ねもなく質問されたので、私も気付けば答えてしまった。


「2組だけど…地味に個人情報聞かないでよ!何するのよ!」


目の前からloadingの文字が消える。すると、目の前に浮かび上がったのは私の身長や体重、その他諸々の測定記録だった。


「この身体能力を元に、ゲームに反映されるんだ」


「そういうこと…って!あんた体重見たでしょ!」


納得はしたが、よく考えたら私のデータは全て見られていた。


「いいじゃん、軽いみたいだし」


「そういう問題じゃない!」


私がそう言った直後、目の前が明るくなった。

私は眩しくて目を瞑った。そして目を開くと、そこには見慣れた風景が広がっていた。


「これ、光が丘の街じゃない!」


細かく再現された街は静かで、通行人や車もいない。


「リアルの街を再現してるからなぁ。とりあえず、説明入るぞ〜」


「うん…」


私は不安と緊張で俯いた、しかし蒼は説明を始めた。


「ここから出撃したらバトルスタートだ。シングルバトルの場合は5分間がタイムリミット、時間以内に相手の体力を0にするか、相手より多くの体力を残した方が勝者になる」


「わかった。でも武器とか着いて無いけど、どうやって戦うの?」


「悪りぃ。我慢できないから、やりならがら説明するわ!」


私の質問をサラッと受け流し、蒼は何かを叫んだ。


「海道蒼!プロトシャーク!出撃するぜぇ〜‼︎」


「ねぇ、あんたはどこよ!」


そう言った途端、上から青い物体が降ってきた。

その物体は私の真横をかすめ、地面に槍を突き立てた。


「俺はここだぜぇ。これが俺のスーツ、プロトシャークだ!」


そのスーツは青く、その名の通りサメを象ったデザインをしていた。


「それで、何であんたには武器があって、私には無い…」


私が話している途中、蒼は私には槍を振りかざした。


「きゃっ!」


槍は振り下ろされ、私を捉えた。しかし、顔の目の前で止まった。

自分の両手は、顔をしっかり守っていた。


「ちょっと!いきなり何するのよ!」


「ほら、お望みの武器だぜ?」


蒼の言葉を聞き、私は腕を見下ろした。

VRのはずだが、そこに感じた確かな重み…それは爪型の武器だった。


「これが…武器…?」


「あぁ、キャットは軽い身のこなしを活かせるクローが武器。シャークは様々な武器を使える珍しいタイプだけど、俺は槍を使ってる」


「なるほどねぇ…」


腕を振ってみる。VRだが五感はリンクしている様で、重さの割には扱い易い、確かに軽々扱えそうだ。


「説明は以上。後はその武器で俺を倒せ!」


そう言い残し、再び蒼が私に襲いかかってきた。

軽いスーツで、彼の攻撃を避けるのは容易かった。しかし自ら仕掛ける事は出来ず、結局ジリジリとダメージを受け、私の初戦は敗北に終わった。

決着がつくと、周りから子供達の歓声が響く。


「悪りぃ、ちょっと熱入っちまった」


VR装置を外した時、蒼はそう言った。


「初心者なんだから…手加減の少しくらいしなさいよ…」


ただの遊びだと思っていた。しかし頭は想像以上に疲れていた。

そんな私を差し置いて、蒼は笑っていた。悔しかった。


「息切らしてんのかよ。でも、俺の攻撃をあれだけ交わすなんてな。やっぱセンスあるよ、お前」


「それはどうも…」


俯いている私の目に、靴が入った。顔を上げると、彼は目の前に立っていた。


「今日から一緒に、やらねえか?」


そう言って、彼は手を差し出した。

今までの私だったら手を取らなかっただろう。しかし、今の私は何かを感じていた。

負けた悔しさや、競技の楽しさ。そして何より。

昔の記憶への手掛かりを…


「もちろん、いいわよ」


蒼も意外だったのか、少し驚き、そして笑顔に戻った。


「おう!ありがとな!」


『よかったね!愛美』


「えっ…?」


蒼の直後に耳に入った音…確かに私の名前を呼んだ…


「どうした?ボーッとして」


「いやっ…何でも…」


どうやら、蒼や子供達には聞こえてないようだ…


「じゃあ、また明日な〜!」


「うん、またね」


しばらく蒼と話し、私は店を後にした。

あの声が何だったのかは、結局分からなかった。

しかし、ビースロンと関わるうちに明らかになる気がした。

私の挑戦は、これから始まるのだから…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ