24時間年中無休
「おい、おーい。起きろ黒兎。起きろボゲェ!」
「フガッ……朝か」
俺の朝はいつも奈緒雪の一声から始まる。布団を剥がされて空気にさらされる感覚が一日の始まりだ。
「なあ奈緒ユッキー。俺は幸せなんだろうか。カワイイ幼馴染に毎日たたき起こされて一緒に飯食って、学校行って。人は俺を漫画の中の世界の住人みたいだと言うだろうか。それとも現実は小説より奇なりと言うだろうか」
「……寝ぼけてる?」
「大丈夫だ。きちんと起動してる。ただ少しオーバーヒート気味だ。少し冷ましたい。ぶったたいてくれ」
「アナログとか言ってた人が何言ってんの。じゃあ殴るよ」
「待って! グーを握るな! わかった! 起きたよ完全に。ご飯を食べよう」
今日も今日とて始まり、教室に到着する。行く先々で耳にしたのは第四校舎の崩落についてだ。不可解な崩壊を起こしていたので近々学校そのものの立地調査が行われるとか、何日か休校になるとの話が上がっている。
引き起こした当人としていたたまれない。
俺は席について昨日の歓迎会の最後の乙音の言葉を思い出す
『お互い知り合った以上もっと連携を取れる環境が必要だよ。近々ボルトも学校に通うと思うんで悪しからず』
つまり、あのチビガキボルトがこの学校に通うなんてベタなことをしてくるのだろうか。無理だろう。あんなちびっ子が高校生の振りなんてできるとは思えない。
「あと、このクラスの担任が急に変わることになったの知ってる?」
「……何? 担任が? 辞めたのか」
「Доброе утро! 皆席について! посадкапосадка! さっそく出欠を……の前に自己紹介しなきゃいけないわね!」
勢いよく机に額を叩き当てる。地球が反転したかと思った。
(担任として学校に通うって……ぱにぽこじゃないか! ネギまじゃないか! アホじゃないか! アホじゃないか!)
「私はアニーシャ・アヴェリナ。師匠って呼んでってそこの赤ん坊! 何突っ伏してるの! 起きなさい!」
落ち着け。こんな形での再会なんだ。皆は初対面だと思っている。さも初対面のように振る舞え。
「アンタ、私に対してそんな態度取るわけ? ん、ファイア」
「落ち着け。落ち着け俺。今は我慢だ」
「答えなさいよ」
「ゴッ! アホじゃないか君は! アホじゃないか! 何で出欠表で殴った! 何で俺のところに来た!」
「私だってこんなことになるとは思わなかった。心細かったから知り合いに話しかけただけ」
無表情に泣きごと言われた。一気に文句が咽の奥に引っ込んでしまった。
「……後で話は聞いてやるよ」
「うん。じゃあ皆。出欠取るから、顔をしっかり見せてちょうだい」
昨日に引き続き今日も波乱の始まりだ。気が滅入る。
「で、お前はアニーシャ先生と知り合いなわけ?」
「一応」
「先生なのに小っちゃいよね」
「そうだな」
「親しいの? いつ会ったの? 何回会ったの?」
「親しくないつい最近一回だけ」
午前の授業を終え、今まさに昼休みが始まった時間だが、とにかく休み時間中奈緒雪がボルトについて聞きまくってくる。そんなに気になるか……まあ気になるか。
「いきなりだよね。担任が変わるなんて。しかも外国人。ちびっ子。そして黒兎の知り合い。何か隠してない?」
「隠してなんか」
「いませんよネークロウサギ!」
後ろから強襲!
「乙音さん。どうしたんですか?」
「イヤー、アニーがクロウサギのクラスの担任になったと聞いて。いやはやまさかこんなことになるとは。にしても人気者ですねぇアニー」
ボルトは今クラスのみんなに囲まれて質問攻めだ。顔を覚えるために教室で食事をとるとか言ってたな。
しかしあまりにも白々しい。どんな手段を使ったかは知らないけど学校に通うを翌日に実行してくるとは。
「アニーシャ先生と知り合いなんですか?」
「知り合いどころかBestFriend! 仲良いですよー。というわけでこいつ借りマース」
「え、なんだよ襟首つかんでってひっぱんな! ひっぱんな!」
「はーい失礼。はい失礼。ヤーヤーアーニー」
「ノイ、乙音。ここでは師匠と呼びなさ、何? 何襟首つかんでるの?」
「この子も借りてきマース!」
唐突に現れ、俺たちは地面から足が浮くほどに引っ張られ連れて行かれた。