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追われ身の追跡者  作者: スタリン
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第二章

 10月7日午前6時。ジェームズのお目覚めだ。ウォークマンが爽快な音楽を演奏し始めたわけではない。今朝は勝手に目が覚めた。よほど高揚しているのだろう。

 リビングにはまだ博士の姿はない。ここにやってきて1年半、博士より早起きしたのは初めてだ。

 「おはようジェームズ、今日は早起きだね」

 ロバートはやっぱりもう起きていた。

 「お前には敵わねえなあ…いったい何時に起きてるんだよ」

 「僕のことはどうでもいいよ。それよりどうしたんだい?こんな早起きして?デート?」

 「んなわけないだろ。俺は…」

 「分かってるよ、君のところに女の子が近づくはずがない。ははは」

 「笑うんじゃねえよ!まあ事実だけどな。今日はな、少し遠出だ。観光ってやつ」

 江美さんのことは絶対にばれたくないからムカつくが話を逸らした。オレだって女と遊ぶことくらいあるわ!と言いたいところだが。

 「いつからいつまでよ?今日の護衛当番ジェームズだよ。忘れてないよね?」

 忘れていた。完璧に。

 彼らは4人でローテーションを組んで1日博士の近くにいないといけなかった。で、今日の当番はジェームズなのだ。

 「その顔は忘れてたんだな!で、いつからいつまでなの?」

 「午前8時から…終わりはわからないけど9時には戻れる」

 「1日じゃんか…でもいつもジェームズは退屈そうだからキャンセルしろとも僕はいえないよ。だからさ、これから1ヶ月分僕の当番日もやって。そうすれば今日は代わってあげる」

 なんと理不尽な契約だ…だがジェームズがこの申し出を断ることができるだろうか?いやできるはずもない。江美さんのためだ。

 「そう言えばFBIの奴らも今日は用事があるとか言って出かけたんだよ。もしあいつらがなにか企んでるのならいや、あいつらが敵じゃなくても、敵は今日狙ってくるはずだ。敵がいたとして、彼らはここを監視しているに決まってる。だからちょっと待ってて…」といってロバートは部屋に入った。

 ロバートはいつも考えすぎだ。敵なんているわけ無いだろ。いたらこの超平和な日本の田舎だ、とても目立つに決まっている。とジェームズは思った。

 「お待たせ」

 3分ほどしてロバートが戻ってきた。何か持っている。

 「このイヤホンを耳に付けていてくれ。何かあったらすぐに連絡する。絶対にすぐに助けに来いよ」

 ジェームズは極小イヤホンを受け取った。ロバートが彼の持つトランシーバーに話しかけるとイヤホンからその声が聞こえる。

 「わかったよ。まあ、無駄な努力だ」

 「油断大敵だよジェームズ。楽な任務もふとしたところからぼろが出るんだから」

 「分かってるよ、ありがとうな当番代わってくれて」

 そう言って朝食を済ませ、準備のために部屋に入った。

 確かにロバートの言うことは的を射ている。敵が狙うなら今日は絶好だ。

 そこでジェームズは黒いリュックを取り出した。万が一敵が攻めてきたらこの家は最低でも燃やされる。だから最低限の私物をしまうのだ。

 ジェームズの私物は少ない。現金5百万ドルと300万円、ピストル2丁、その弾薬が数箱分とマガジンが数個、スマートフォン、ウォークマン、サングラス、カラーコンタクト、アメリカ国籍、ロシア国籍、南アフリカ共和国国籍、オーストラリア国籍、イギリス国籍、フランス国籍、トルコ国籍、サウジアラビア国籍、シンガポール国籍のパスポート、黒いジャケット2着、グレーのTシャツ3着、黒い長ズボン2着、まあこんなところだ。

 もちろん着替えは持って行く必要はない。そうするとちょうどよくリュックに収まった。エージェントは多くの荷物を小さなリュックにうまく詰め込む術も学ぶ。外から見ただけじゃそんな物騒なものが入っているなどわかるはずもない。

 午前7時30分、ジェームズは朝食を食べ終え家を出た。そしてイヤホンをセットする。

 徒歩15分ほどして駅に着いた。流石ど田舎の駅。改札口には券売機以外ベンチしかない。無人駅というやつだ。電車も1時間に1本。

 「ジェームズさん!」

 「江美さんおはようございます」

 「分かってますね?今日は私に道案内されてる外国人を演じてくださいね」

 「もちろんですよ、任せてください」

 江美さんに言われたとおりに切符を買いホームで電車を待った。ホームって言うかただコンクリートの段差があるだけだが。

 「本当にジェームズさんを巻き込みたくないんですよ。彼ら、あなたが思っている以上に危ないですよ」

 「何でそんな奴らとつきあってるんです?」

 「私…」

 江美は答えに窮する。

 「ああ、ごめんなさい。ただ気になっただけなんで言いたくなければ無理に言わなくていいですよ」

 「今はちょっと…すいません」

 どんなことがあったんだろうな。ジェームズはこれから江美を自由にすると心に決めた。

 まもなくして電車がやってきた。たった2両編成。乗っているのは大半がお年寄り。

 ジェームズと江美は4人席に2人向かい合って座った。いろいろなことを喋った。そして20分くらいたった頃ある駅に着いた。そこからガラの悪い連中が5人乗ってきた。 

 さっきまで楽しそうに笑っていた江美が突然黙り込んでうつむいた。

 「大丈夫ですか?どうしたんです?」

 「あいつら…彼の部下たちです」小声でささやく

 「もしかしてそいつら暴力団関係?」

 「そんなところです。暴力団の下の組織みたいな、田舎のいち拠点を担当しているヤクザたちです」

 「上等だ…」

 「え…?なんですか?」

 「なんでもないですよ。あと目的駅までどのくらいですか?」

 「2駅です」

 「これはたぶん…バレますよ?」

 その時だった。

 「おい、あそこにいるの江美ちゃんじゃねえか?ほら、ボスの女」ヤクザの一人が気づいた。

 「ああ確かに。あのバッグはでわかるわ。じゃあ一緒にいる金髪は誰だ?」

 ヤクザたちが近づいてきた。まじで臭い。たばこ臭い。たばこなんて吸ったら筋肉や心肺機能が落ちて喧嘩が弱くなるんだぞ?知ってたか?ジェームズは呆れた。

 「よお、江美ちゃん。ひさしぶりだねえ」

 「どうも」

 「こいつ誰?この外人。ボス、言ってたよなあ。他の男と喋ったら殺すって。忘れたの?」

 「いま道案内してるの。そのくらいいいでしょ」

 「俺に聞いても分からねえよ。ボスに聞きな。でもさ、めっちゃ仲良さそうにしてたってことは俺が報告しておくからな」

 「変な誤解引き起こすようなことしないで!」

 「いや事実だろう?なあ外人さん?江美ちゃんと喋ってて楽しかったよなあ」

 「…」

「無視か?もしかして日本語わからない?でもさっき江美ちゃんと喋ったよなあ。江美ちゃんが英語しゃべれるわけ無いしなあ」

 「ねえ、この人は関係ないでしょ!いじめないでよ」

 「お前俺らに命令してんのか?あ?これもボスに報告だな」

 「おいジン、ボスに電話しろ。今から約束やぶり女とボスから江美を取ろうとした外人を連れていくってなあ!」

 「ねえ、なんでそうなるのよ!やめて、お願い!」

 江美の必死の弁解もむなしく、電話を防ぐことはできない。江美は涙目になって今にも泣き出しそうだ。それをみているジェームズは今すぐにでもこいつらをぶちのめしたかったが公共機関で目立った行動を起こすと厄介だ。一応アメリカ合衆国の名の下に任務を遂行中なのだ。

 彼らの嫌がらせはやむことなく、ついに目的駅に到着した。

 「さあさあいけいけ。東口の駐車場に迎えが来てる。おっと、お前はこっちだ外人。まずは俺らと仲良くなろうな」

 「ねえやめて!彼はもう離してあげて!ほんとうにただの旅行者なの!」

 「ふーん。乗った駅も降りる駅も偶然一緒か」

 奴は切符を見ながら言った。

 「江美さんと少し話をさせてください」

 ジェームズは言った。どうせここで彼女と離されることは予想できた。そこでジェームズにはひとつ絶対にしないといけないことがある。

 「じゃあ30秒な」

 近くに奴らがいる以上下手に会話はできない。だから…ジェームズは江美の唇に自分の唇を重ねた。

 「ん!?」

 江美さんも驚いたようだがなんとか伝えたいことは伝わったようだ。

 「ヒュー!これでお前らただじゃすまないわ」

 「うっせえぞ豚ども!じゃあ江美さん、また後で」

 江美は口を結んで頷いただけだった。

 「また後で会えるわけ無いだろ。ほら来い外人。豚ってよんだこと後悔させてやる」

 江美は目から涙を流ながら男2人に連れて行かれた。

 「さて。場所を移すぞ外人。ここだと…」

 「その心配はいらねえぞ豚やろう。分かってるのか?ここには防犯カメラはない。それに人もいない。次の電車まで1時間ある」

 「だからなんだって言うんだ?」

 ジェームズの返答は一発の鉄拳だった。右ジャブ一発、一人目の男の顎に見事命中、脳しんとうを起こし倒れた。

 「ほら来いよ、豚ども」

                        To be continue



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