◆ひとりぼっちな写真部の日常1
目の前に、猫が居る。
そ~っと近づいて、最高のアングルを捉えるために姿勢を整えていく。
スカートから覗く膝小僧を、春の日射しを浴びたアスファルトに落とす。
さしずめ正座に近い格好で、防波堤の頂に横たわり伸びる彼をローアングルで狙う。
春の穏やかな陽気の中、獲物を狙いにやってきたカモメたちの声が響きわたる。
パシャシャシャシャ
最高の一瞬を逃さないために高速連写。しかし、その音により私の存在がばれてしまった。諸刃の剣とはこのことか。
「はぁ・・・・もう一回撮らせてくれよぉー」
撮れた写真を確認しながら、そう呟いた。
猫は嘲笑うかのように堂々と去ってゆく。しかも、こちらをちらちら振り返りながら。
ここの猫はどこまでもマイペース。ついでに住人もマイペース。郵便配達に訪れた職員も、水道メーターを確認しにきた職員も、必ずどこかで住人と話し込んでいる。
一通り撮り終えてカメラを鞄にしまい、時計を確認して学校に急いだ。
古い木造平屋の学舎。
「せんせー!こんにちはー」
校庭の花壇に水を撒いているところだった。
「おう、ハルミか。どうしたんだ?」
「いやー忘れ物しちゃって・・・」
「そうか・・・いよいよ、明日だな!」
中にに入ろうとした私に言った。
「明日はみんなで見送りに行くからな!」と続けて言った。
「別にいいのにー」と冗談で言うと「じゃあ誰も見送りに行かないぞ~」と言い返されてしまった。
私はこの春から島外の高校へ進学する。明日が出発なのだ。
胸踊る高校生活と、期待高まる一人暮らしが待っていると思うと楽しみでならない。
この島を離れるのは寂しいけど、いつでも帰って来れる場所だから不安はない。
新しい環境と新しい友達、それに、島には無かった部活動。目新しいことばかりの世界を前にして、何もかもが眩しく輝いて見える。
海も木々も花も・・・先生の頭までも・・・
なんてバカな発想をしつつ、忘れ物を取りにいった。
これでプロローグは終了です。この先から本編が始まります。
登場人物4人がカメラや写真と関わることで、お互いがお互いを影響し合うような物語を書きたいと思っています。
暖かい眼差しでご覧くいただけると嬉しいです。
長編になるかもしれませんが、ぜひ最後までお付き合いください。