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「ただいま」
「ああ、お帰り。夏希」
「お母さん。霧生から電話なかった?」
「ないわよ。何で? 喧嘩でもしたの?」
「違うよ」
私はそう答えて台所へ行き、昼間食べなかった弁当を捨てて手を洗う。
「あら、食べなかったの? お弁当」
「ちょっとお腹すいてなくて」
「……そうなの。夕飯どうする?」
母は不思議そうに言った。
「要らない」
「そう。じゃあ、後からおにぎりでも持っていくわね」
私は「わかった」という風にうなづいた。
*
そろそろ海開きが始まる。その前に泳ぐ子供たちの為、島民で砂浜のごみ拾いをする。もちろん大人たちに混じって子供も参加するのだ。
海開きをすると、この辺りは毎日、昼の二時から五時まで子供たちで埋め尽くされる。中には運悪くカラコギに刺され、その痛みから泣く子供に親がアロエを塗ったりする。私はカラコギに刺されたことはないが、左足の指を牡蠣で切り、血まみれになったことがある。その傷は刻印のように今もまだ残っている。
子供の頃、その時に拾った細かい粒状のガラスを集めて瓶に入れていたが、それは危ないからと言われ母に捨てられた。
この砂浜は色々な物が波に乗って打ち上げられる。角が丸くなり、表面がざらついた色とりどりの硝子破片、図鑑で見た化石のようなもの、犬や猫の死体……。せまい島の中で日々が過ぎてゆく……。これが私の世界……。
島からは一度しか出たことがない。昔、広島へ旅行に行った時のみだ。小さい頃、本当は心のどこかで、夢のように願っていたのかもしれない。ここから、私を連れ出してくれる人が現れるのを……。
あれから霧生は私の前に現れない。けれど、それはそれで都合が良かった。会ったとしても、どういう顔をしていいか分からない。それに……もう知られている。それが、姿を現さない理由だろうから。そんな気持ちと引き換えに、私の足は自然とあの砂浜へ向かう。
「ナツキ」
少し訛りのある低い声が私を呼ぶ。
「こんにちは」
私は日傘を少し上げて言った。
「この前はすまないことをしたね。これからは気をつけるよ。ツツシミ深く、ね」
「いえ……私も言い過ぎたから……ごめんなさい」
「ナツキが謝ることないよ。さあ、近くのパーラーへ行こう」
「……ええ」
「そう言えば、ナツキと一緒にいた男の子は元気にしてる? まだこの島にいるのかい?」
「……いるわ」
「そう」