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人魚  作者: 佐伯亮平
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「ただいま」

「ああ、お帰り。夏希」

「お母さん。霧生から電話なかった?」

「ないわよ。何で? 喧嘩でもしたの?」

「違うよ」

 私はそう答えて台所へ行き、昼間食べなかった弁当を捨てて手を洗う。

「あら、食べなかったの? お弁当」

「ちょっとお腹すいてなくて」

「……そうなの。夕飯どうする?」

 母は不思議そうに言った。

「要らない」

「そう。じゃあ、後からおにぎりでも持っていくわね」

 私は「わかった」という風にうなづいた。





 そろそろ海開きが始まる。その前に泳ぐ子供たちの為、島民で砂浜のごみ拾いをする。もちろん大人たちに混じって子供も参加するのだ。

 海開きをすると、この辺りは毎日、昼の二時から五時まで子供たちで埋め尽くされる。中には運悪くカラコギに刺され、その痛みから泣く子供に親がアロエを塗ったりする。私はカラコギに刺されたことはないが、左足の指を牡蠣で切り、血まみれになったことがある。その傷は刻印のように今もまだ残っている。

 子供の頃、その時に拾った細かい粒状のガラスを集めて瓶に入れていたが、それは危ないからと言われ母に捨てられた。

 この砂浜は色々な物が波に乗って打ち上げられる。角が丸くなり、表面がざらついた色とりどりの硝子破片、図鑑で見た化石のようなもの、犬や猫の死体……。せまい島の中で日々が過ぎてゆく……。これが私の世界……。

 島からは一度しか出たことがない。昔、広島へ旅行に行った時のみだ。小さい頃、本当は心のどこかで、夢のように願っていたのかもしれない。ここから、私を連れ出してくれる人が現れるのを……。




 あれから霧生は私の前に現れない。けれど、それはそれで都合が良かった。会ったとしても、どういう顔をしていいか分からない。それに……もう知られている。それが、姿を現さない理由だろうから。そんな気持ちと引き換えに、私の足は自然とあの砂浜へ向かう。

「ナツキ」

 少し訛りのある低い声が私を呼ぶ。

「こんにちは」

 私は日傘を少し上げて言った。

「この前はすまないことをしたね。これからは気をつけるよ。ツツシミ深く、ね」

「いえ……私も言い過ぎたから……ごめんなさい」

「ナツキが謝ることないよ。さあ、近くのパーラーへ行こう」

「……ええ」

「そう言えば、ナツキと一緒にいた男の子は元気にしてる? まだこの島にいるのかい?」

「……いるわ」

「そう」

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