4
「駄目よ。何でそんなことするの」
私は木から蜜柑を取った霧生に言った。
「もぎたてはすごく甘くて美味いんだ」
「泥棒だわ」
「一つや二つくらい構わないだろ」
悪びれることなく、霧生は皮を剥いて食べている。
「……」
「夏希も食べてみろよ」
「……」
渡された一房を私は仕方なく口にした。
「どうだ?」
「……甘い」
「だろう」
霧生はそう言って、私の横に並んで寝転んだ。
「……」
「上の空だな。あいつのことを考えてるのか?」
「……考えてない」
小さい嘘を私は吐いた。霧生はそれに答えることなく、しばらく私を無表情で見つめシャツのボタンに指をかける。
「……」
「……やめて」
「何でだよ」
「……まだ怖い、から」
それを聞いた霧生は子供のようにむっとした表情を浮かべ、頭をかきむしった。そして、立ち上がり歩いて行く。その足音を聴きながら私は空に広がる雲を見た。
*
家を出た私は生活館へ向かって歩き出した。ゆるい坂を上がるとよく吠える犬を飼っている家のおばさんが、女の子を連れて出て来た。あそこは、兄弟二人だけだったはずだけれど……。それに、あの女の子は見たことがある。いつもおばあちゃんと朝早く墓参りに行っていた子だ。私は軽く会釈をして通り過ぎ、道を曲がって生活館へ入った。
「おはよう、夏希。ねえ、聴いた? 外人さんの噂」
待っていたと言わんばかりに早苗が話しかけてきた。
「……え?」
私は一瞬、心臓が高鳴った。
「あなたを探してる外人さんがいるんだって」
「そ、そう。名前は、名前は何て?」
「さあ。名前まではわからないわ。赤い灯台の見える砂浜辺りにいるみたいよ。お昼休みにでも行ってみたら?」
「……うん」
小さな島だから情報が伝わるのは早い……。就業から昼休みまでは四時間ある。その、たった四時間が私にはとても長く感じられた。