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風に揺れて、さざなみが起こった。私は今日も海を眺め続ける。
あれから三十年が経った。景色は変わらないのに、若者たちの着る衣服が私の頃とまったく違うことに、月日が流れたのだと気づかされる。
……けれど、あの出来事は、まだ昨日のことのように感じられる。
デイビッドには一度だけ手紙を送った。「誰か他の人を見つけて欲しい」と。彼の返答は「それでも君を待ち続ける」だった。そしてその通りに、手紙は今も、年二回ずつ滞ることなく届いている。結婚もしてないらしい。
彼には、私の死期が近づく前になら会ってもいいと考えている。
あの日……三十年前の日に私は決めたのだ。霧生が刻むことのできなくなった時間を、この島で代わりに刻んでいくのだと。もちろん、それを後悔などしていない。
私の目の前を、泳ぐのを待ちきれない子供たちが、水着姿で走り去っていく。
……祖母の言う通り、人魚はいたのかもしれない。海へ落ちた時に見た、何か……白い上半身から伸びる尾びれ……。けれど、幻だったという考えも、いまだ捨てきれないでいる。
年月が経ち、くすんでしまった真珠を私は見た。そうして、思い出す。まだ小さかった頃、霧生が、「いつか海にもぐって、夏希のために真珠をとってきてあげる」と言ったことを。
私は両肩を抱き、止めどなく流れる涙もそのままに咽び泣いた。




