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「ところで、霧生くんはどうしてるの?」
「……幼なじみとしか考えられないって伝えてからは、会ってないから……」
ネックレスの鎖を触りつつ私は言った。
「……そう。どちらにしても、もう戻るのは難しい……よね」
早苗は空を見上げながら言った。
一日、一日が、長く感じられた。
会いたいという思いを募らせ、それが心から溢れ出しそうになり、居ても立ってもいられなくなる時は、砂浜に出向いた。
そんな日常が過ぎ去っていく中、生活館から家に帰った私が郵便ポストを開けると、二つに折り畳まれた紙が置かれていた。開けてみると、霧生の字で、「今日の夜、八時に灯台で待っている」と書かれていた。
「……」
真珠のネックレスをケースに仕舞った私は自転車で灯台に向かった。霧生は、何か小さめの鞄を脇に抱え、海を眺めている。
「……霧生」
「……」
彼は私の呼び掛けに、生気のない瞳を向けた。
「どうしたの? こんな時間に呼び出して……」
「……終わりにするため、だよ」
「何を……?」
霧生は答えることなく、鞄から真新しい長い包丁を取り出した。
「……!!」
「もう、これしかないんだ……」
そう言って、霧生は、ゆらりと私の方を向いた。
「……や、やめて……お願い……お願い……」
私は少しずつ後退りしていく。けれど、どうしてか、霧生はそこから一歩も動かない。
「お前を刺すと思ったのか……? そんなこと、できるわけないだろう……。だから、こうするんだ」
霧生は包丁の柄を両手で握り、刃先を自分の方へ向けた。
「やめて!! お願い、霧生!! 私、私、この島に残るから!! どこにも行かないから……」
「夏希……お前は俺のものだよ」
霧生は微かに笑うと、何のためらいもなく、その包丁を自分の肉体へと深く突き刺した。
「……霧生……」
私はその瞬間、土手から足を滑らせ暗い海へと落ちて行った。海の水はなぜか温く感じた。うねるような海中を、何かが自分に向かって泳いで来ているような気がした。ぼやける視界の中で、その何かは、霧生のように見えた。




