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「そうよね……」
「こういう海や山に囲まれたところだと、都市伝説みたいなものが一つや二つあってもおかしくない」
彼はそう言うと矢庭にシャツを脱ぎ捨て、石の後を追うように海へと飛び込んだ。子供の頃は私も皆に混じって海へ行き、彼らが飛び込むのを見ていた。祖母の言い付けを破っていることに、少しの罪悪感を感じながら。
私達はそのさまを俗語のように「サカ」や「サッカー」と呼んでいた。何か暗号めいた言葉に、一体感を感じたものだ。けれど、年月は流れ、当時遊んでいた子供たちも皆この島を出ていき、残ったのは私と霧生だけだ。
霧生はいつまでも変わらない気がする。この島の風土が、彼をそうさせているのかもしれない。都会と違って、時の流れがゆるやかな、この島が。
霧生は無邪気に海からこちらへ手を振っている。私も答えるように右手で振り返した。
*
梔子の甘い匂いは消え、季節は夏一色になってきた。汗ばみ、体内まで焼けつくような、夏……。
私は弁当箱を持って生活館を出、海が見える場所に座った。この辺りは七月から八月になると釣り目当ての観光客が押し寄せる。橋一本で本土と繋がる小さな島の住民は、それを心よく思わない。閉鎖空間に住む人間にはよくある、保守的な考えだ。他所から越してきた人間にも同じ目を向けるものだから、問題は絶えない。
もともと陸地の少ない島で、産業は限られている。昔から農業と漁業でもってきた所なので、都会を夢見た若者は島を出ていくが、結局帰って来て親の稼業を継ぐ者も多い。
私は通り過ぎていく観光客を見ながら、思い出していた。海で遊ぶ私達をただ一人で、遠くから見ていた白人少年のことを。私達とは違う、髪の色と瞳が印象的だった。「一緒に遊ぼう」と誘う私達へ、そばにいたクラスの先生は「海水着を持っていないから無理だと言ってるのよ」と教えてくれた。異国の言葉を話す少年は、終始、青金石のような瞳を下へ向けていた。