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人魚  作者: 佐伯亮平
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「それじゃあ……色々とありがとう。デイビッド。夏祭りの写真は後から手紙で送るから」

「ああ、頼んだよ。また、今年の冬期休暇に来るよ。ミカン鍋が食べたいからね。あと、これを。帰ってから開けてみて」

 そう言い、私を抱きしめ口づけた。タクシーの中で、彼が手を振る姿を私はしばらく見ていた。

 家まで歩く中、夢だったのかと思い、急に不安になった。私はデイビッドのくれた紙袋の持ち手を強く握る。大丈夫だ……ちゃんとある。そう思うとなぜか安心し、私の瞳からは音もなく涙が伝い落ちていった。




「夏希……何だかすごくきれいになった、ね」

 早苗は驚いたように言った。

「……そんなことないよ」

「ないよ……って。夏希は私と、この生活館で働く女性だけじゃなくて、全世界の女性を敵に回したわ。その一言で」

「……ごめん」

「ふふ。まあ、それはさておき、その外人さんは帰っちゃったんだね」

「うん……。でも、今年の冬にまた来るって。みかん鍋を食べに」

「それはおまけ。本当はあなたに会いたいから来るのよ」

「……そうかな」

「そうに決まってるでしょ。大切にしなさいよ。外人さんのこと」

「うん」

「で、その真珠のネックレスは外人さんからかな?」

「そう」

「あれ、何だか、この周りだけ温度が上がったかなあ。なんだか暑くなったみたい」

 早苗は手をうちわのようにして前後に仰いだ。

「もう、茶化さないでよ。早苗ったら」

「ふふーん。しかし、真珠ね……真珠って別名〈人魚の涙〉って言われてるのよね」

「……人魚の涙……」

「そうよ。真珠は人の汗や分泌物に弱いから、使ったあとはちゃんと拭くのを忘れないようにね」

 念を押すように早苗は言った。

「わかったわ。有り難う、早苗」

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