表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚  作者: 佐伯亮平
16/22

16






 ――愛情は思慕と同じなのよ。浴衣の上から帯を巻きつけながら、洋画の女優が言った台詞を思い起こした。

 私は祖母が使っていた三面鏡を開き、薄く赤い口紅を塗る。

「……あんまり遅くならないようにね」

 母はそんな私を後ろから見ながら静かに言った。




 夏祭りが行われる**神社は、デイビッドが泊まっている旅館の前の橋を渡った小島にある。その前で待っていたデイビッドは私の手を引いて歩いた。

「その浴衣、どこで買ったの?」

「旅館の人が貸してくれたんだ」

「そうなの」

「ああ。さあ、何が食べたい? ナツキ」

「イチゴのかき氷かな」

「僕はリンゴ飴に挑戦するよ」

 彼がそう言ったところで、何か視線を感じた。視線をたどっていくと、その先に私達を睨み付ける霧生の姿があった。ビクリとした私は反射的にデイビッドの手を離してしまった。

「どうしたの?」

「あ、何でもないの……買い物に邪魔だと思って……」

「……そうかい?」

「ええ……」

 咄嗟に私は嘘を吐いた。デイビッドにさとられないように、ちらと霧生のいた所を横目で見たが、彼の姿はそこになかった。……幻だった。自分にそう思い込ませ、デイビッドの浴衣の袂の端を握る。そんな私を彼はどう思ったのかわからないが、引き寄せて頭に口づけした。




 食べ終えた私達は祭囃子を離れ、白鳥居にやってきた。人気のない中に浮かび上がる鳥居……一人、ましてや夜には絶対に来ない場所だ。

「子供の頃、この鳥居でよく遊んだわ。あの笠木の上に石を乗せることができたら願いが叶うってルールで」

「カサギ?」

「あの、一番上に通る部分よ」

 私は指を差した。

「なるほど」

 デイビッドは落ちていた石を拾い上げ、投げたがうまく乗らなかった。

「なかなかに難しい」

「幅が狭いから仕方ないわ」

 私はクスッと笑って言った。

「……君でもそんな風に笑うんだな。安心した。笑顔を見せないから心配してたんだ」

「きっと、緊張していたせいよ」

 視線をずらして私は言った。

「無表情より笑った方が可愛いよ」

 私の頭を子供のように撫でて彼は言う。

「笑うことに慣れてなくて……」

「まあ……今は浴衣を着ているから、笑わない方がいい……かな」

「……」

 私は何と返していいのかわからず、場を取り繕くろうように帯に挟んでいた封筒を差し出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ