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――愛情は思慕と同じなのよ。浴衣の上から帯を巻きつけながら、洋画の女優が言った台詞を思い起こした。
私は祖母が使っていた三面鏡を開き、薄く赤い口紅を塗る。
「……あんまり遅くならないようにね」
母はそんな私を後ろから見ながら静かに言った。
夏祭りが行われる**神社は、デイビッドが泊まっている旅館の前の橋を渡った小島にある。その前で待っていたデイビッドは私の手を引いて歩いた。
「その浴衣、どこで買ったの?」
「旅館の人が貸してくれたんだ」
「そうなの」
「ああ。さあ、何が食べたい? ナツキ」
「イチゴのかき氷かな」
「僕はリンゴ飴に挑戦するよ」
彼がそう言ったところで、何か視線を感じた。視線をたどっていくと、その先に私達を睨み付ける霧生の姿があった。ビクリとした私は反射的にデイビッドの手を離してしまった。
「どうしたの?」
「あ、何でもないの……買い物に邪魔だと思って……」
「……そうかい?」
「ええ……」
咄嗟に私は嘘を吐いた。デイビッドにさとられないように、ちらと霧生のいた所を横目で見たが、彼の姿はそこになかった。……幻だった。自分にそう思い込ませ、デイビッドの浴衣の袂の端を握る。そんな私を彼はどう思ったのかわからないが、引き寄せて頭に口づけした。
食べ終えた私達は祭囃子を離れ、白鳥居にやってきた。人気のない中に浮かび上がる鳥居……一人、ましてや夜には絶対に来ない場所だ。
「子供の頃、この鳥居でよく遊んだわ。あの笠木の上に石を乗せることができたら願いが叶うってルールで」
「カサギ?」
「あの、一番上に通る部分よ」
私は指を差した。
「なるほど」
デイビッドは落ちていた石を拾い上げ、投げたがうまく乗らなかった。
「なかなかに難しい」
「幅が狭いから仕方ないわ」
私はクスッと笑って言った。
「……君でもそんな風に笑うんだな。安心した。笑顔を見せないから心配してたんだ」
「きっと、緊張していたせいよ」
視線をずらして私は言った。
「無表情より笑った方が可愛いよ」
私の頭を子供のように撫でて彼は言う。
「笑うことに慣れてなくて……」
「まあ……今は浴衣を着ているから、笑わない方がいい……かな」
「……」
私は何と返していいのかわからず、場を取り繕くろうように帯に挟んでいた封筒を差し出した。




