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洗面台の前でシャツを脱いだ。タンクトップからのぞく、両肩にうっすらと残る痣と痛み。鏡を見ながら、肉体の痛みは、霧生の心の痛み……。私は心の奥底でそう思った。
親はデイビッドのことを知っているらしい。けれど不思議なことに何も言ってこない。判断を私に任せているのかはわからないけれど、「余所者と付き合うな。……しかも、外人なんか論外だ」そう言われると思っていた私は、内心驚いていた。
あれから一週間。霧生は当然のことだけれど、デイビッドとも会っていない。少なくとも、痛みが引くまでは……と思ったから。その間、何度か**旅館に電話しようとして受話器を取った。けれど、どうしても指をダイヤルに掛けるだけで終わってしまっていた。
仕事を終えた私は外の公衆電話からデイビッドの泊まる旅館へと電話をかける。迷ったけれど、これ以上、彼を待たすわけにもいかない……そう思ったからだ。
「はい。**旅館でございます」
「すみません。そこにデイビッドさんという白人男性は泊まっていらっしゃいますか?」
「ああ、**様でございますか?」
「はい」
「お客様から連絡がきたら、内線を回してくれとの伝言をお預かりしております。お繋ぎいたしましょうか?」
「……はい。お願いします」
「少々お待ち下さい」
従業員の事務的な応対のあと、〈G線上のアリア〉の保留音が流れていく。しばらく待っているとデイビッドの声が受話器の向こうから聴こえてきた。
「もしもし、ナツキ?」
「そうよ。ごめんなさい。ずっと連絡できなくて……」
「何かあったの? 連絡がないからずっと心配してたんだ」
「ちょっと、法事があって……」
「そうだったのか。今からそこへ行こうか?」
「今日はもう遅いから家へ帰るわ。明日の正午に砂浜へ行くから」
「わかった。それじゃあ」
電話はそこで切れた。




