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獣の欠片が蠢く時、世界大戦は加速する

世界大戦その裏で暗躍する異邪の目的とは?

「京、俺達って何だろうな?」

 メイド服を着た女性が、お茶を運ぶ喫茶店で勇一が呟く。

「異邪を滅ぼす者。それ以下でもそれ以上でも無いよ」

 前に座る京の言葉に、外を指差して勇一が言う。

「世間様では戦争だって騒いでる中、優雅に喫茶店でお茶してて良いのかって意味だったんだがね」

 苦笑する京。

「しかし、今は谷走タニバシリが前回の事件の裏を探っている最中だ。下手に動けないから仕方が無いだろう」

 そして、一人のメイド姿の黒髪の少女が紅茶を持ってくる。

「お待たせしましたお客様」

 礼儀正しく頭を下げる少女に、勇一が言う。

「別に俺達にまでそんな礼儀正しくしなくても良いぜ」

 それに対して、その少女が笑顔で答える。

「例え知り合いといってもお客様。お客様に礼を欠かす訳にはいきません」

「僕は君のそう言うところが大好きだ」

 京の台詞にその少女、京の恋人、鈴木花子が顔を真っ赤にする。

「御用がありましたらおよび下さい」

 頭を下げて奥に下がっていく花子を見て、勇一が半ば呆れた感じで言う。

「よくもまーそんな歯が浮くような台詞を吐けるものだ」

「愛し合っているからね」

 淡々と答えた後、京が言う。

「そう言うお前はどうするのだ? 一度断られたから諦めるのか」

「馬鹿言うなよ、一度断られたくらいで諦める程、半端な気持ちじゃない!」

 勇一が机を叩いて言うと京が頷く。

「だろうな、でなければ他の家の人間と結婚しようとなんて思わないからな」

 その言葉に、少し勇一が怯む。

「しかし、もし結婚するとしたらどうするのだ? どっちも本家の人間、後々の揉め事に繋がる」

 勇一が肩を竦めて言う。

「最悪は、俺が遠糸の分家に養子にでもなるさ」

 その言葉に京は少し驚いた顔をする。

「本気なのか?」

 勇一は不満気な顔で答える。

「仕方ないだろう、翼は遠糸の長の座を引き継ぐ可能性があるんだからな。萌野の長は、兄貴が継ぐんだから、俺が折れるのが正しいだろう?」

 京は歯切れの悪い態度で頷く。

「しかし、よくそこまで覚悟を決めたものですね?」

 恥ずかしげに頭をかく勇一。

「惚れちまったんだからよ」

 勇一は京を睨み言う。

「当座の敵はお前だ!」

「どうして? 僕には花子が居るのだよ?」

 それに対して勇一が言う。

「女にとっては関係ない。とにかく次の仕事でお前より活躍して、翼にかっこいい所みせないとな」

 力む勇一の頭が杖で叩かれる。

「誰だ!」

 勇一の振り返った先には、一人の女性が居た。

 30は越している筈なのに、体から発生する気が尋常で無いくらい若い為に、年不相応にとらえられる黒髪で洋服を着たその女性を見た時、勇一が固まる。

 そんな勇一を置いといて、京が頭を下げる。

神谷カミヤの長、お久しぶりです」

「久しいわね。白風の長はお元気?」

 その女性、神谷十朝トアサの質問に京は頷く。

「はい。元気です」

 そんな女性の後ろから本日も和服の翼が現れる。

「何時まで固まって居るのですか! 八刃の一つ、神谷の長に態々来ていただいたのです、確りしなさい!」

 その言葉に慌てて勇一が頭を下げる。

「お久しぶりでございます神谷の長」

 そんな勇一を十朝はきっと睨む。

「さっきの台詞は何?」

 その一言に体全体から冷や汗を垂らす勇一。

「それはその……」

 しどろもどろになる勇一に、十朝が言う。

「良い所を見せようなど不純な気持ちを持っているならとっとと八刃を辞めなさい!」

 その一言に土下座する勇一。

「すいません。今後心を入れ替えて、粉骨砕身の思いで戦いに赴きます」

 その言葉に十朝は微笑み言う。

「ならば宜しい」

 そして傍によって小声で呟く。

「翼も照れていたから脈はあるわ」

 その言葉に目をぱちぱちさせて驚く勇一。

 十朝は離れて三人に聞こえるように言う。

「恋愛は幾らでもしなさい。それが貴方達の戦う力になるからね」

 意味ありげな視線をやりとりする京達だった。



「前回の魔獣の出所が判明したわ」

 人気の無いところに場所を変えて十朝が告げる。

 京が真剣な瞳で言う。

「それで何処で問題のものが作られたのですか?」

 十朝が示した場所は、北海道だった。

「蝦夷地だって!」

 勇一が大声を出すが、翼が冷静な表情で言う。

「確かに、日本といっても歴史が浅い蝦夷地ならば我々の監視の目も少ないですね」

 溜息を吐いて十朝が言う。

「古いわね。明治時代からあそこは北海道って言うのよ」

 京が苦笑しながら言う。

「仕方ありませんよ、八刃の人間は年長者との付き合いが強いですから自然と言葉も古いものをよく使いたくなるものです」

 十朝が呆れた様に言う。

「貴方達も、若くないわねー」

 自分達の倍近く生きているだろうと突っ込みたいが、十朝は物凄く偉いので突っ込めないで必死に我慢する勇一を尻目に京が言う。

「現地に行くのですね?」

 十朝が頷く。

「そう飛んで行くわよ!」



「一つ聞いて良いですか?」

 京が冷や汗を垂らしながら言う。

「助けてくれ!」

 勇一の叫び声が下から聞こえてくる中、操縦桿を握る十朝が言う。

「今良いところだから、邪魔しないで」

 京は何にも言えなくなる。

「どうして戦時中なのに、個人所有の戦闘機が存在するの?」

 困惑する翼。

「軍人さん相手に賭け試合して勝ち取ったのよ」

 十朝の言葉に、大きく溜息を吐いて京が言う。

「大日本帝国の未来は、暗いかもしれないな」

 結局耐え切れず突っ込んだ勇一が吊り下げられている戦闘機は、一路北海道を目指して飛んでいく。



「生きていますか?」

 滑走路で死体の様に横たわる勇一に翼がさすがに心配そうに尋ねると、勇一は、即座に立ち上がり宣言する。

「この程度で俺の愛の炎は消せないぜ!」

「帰りも同じで構わないわね?」

 十朝の言葉に土下座して許しを請う勇一を置いておいて京が言う。

「詳しい場所は判明しているのですか?」

 それに対して十朝が首を横に振る。

「解っていないわ。でも、あたしが無意味に飛行機で来たと思う?」

 その言葉に京が大きな溜息を吐く。

「詰り、周りの気配は案内役と言う事ですね?」

 その言葉に十朝が頷き、自分が乗ってきた戦闘機に背中を預けて言う。

「久しぶりに貴方達の実力が見たいわ」

 その一言に京達は、戦闘モードに移る。

 勇一は慢心の笑みを浮かべて言う。

「今この場に居る事を後悔しろ!」

 両手を左右に広げながら勇一が唱える。

『我が攻撃の意思に答え、炎よ爆炎なりて、全てを燃やし尽くせ、爆球翼バクキュウヨク

 無数の爆炎の球が、飛行場を囲むフェンスを吹き飛ばす。

 爆炎による煙が晴れる前に、数十体の人のシルエットを持った狼、人狼達が襲い掛かってくる。

『我は、九尾鳥キュウビチョウ様の眷属なり、我が矢に黄の尾の力を授けたまえ』

 翼の呪文に答え、単なる矢が、雷撃の力を篭った黄雷矢キライヤに変化し、射られる。

 高速の連射により、人狼たちの攻撃が中断される。

 その隙に京が間合いをゼロにする。

『白い風よ、我が手を包み、全てを切り裂け、白刃ハクバ

 次々と京の白い風を纏った手刀で切り裂かれる人狼達。

「低級異邪では、相手にならなかったわね」

 十朝の言葉の通り、人狼は、京達にかすり傷ほどのダメージを与えられず、ほぼ全滅した。



 一体の人狼が必死な思いで人が決して踏み入れない樹海を駆けて居た。

『あれは人間ではない』

 この樹海に逃げ込むまで、残った人狼は、最初に襲撃をした5分の1以下の10になり、さらに樹海に入ってから執拗に迫ってくる相手は、一体一体確実に仲間を減らしていった。

 残ったのは、好戦的と言われる人狼の中では、臆病といわれているそいつだけだった。

 その生き残り、アジトまでもう少しの所まで来ていた。

『もう直ぐだ、もう直ぐ逃げ切れる』

 その人狼の前に、一人の青年、港町で京達と戦った孫が立塞がる。

「愚か過ぎる」

 次の瞬間、人狼の頭が弾け飛ぶ。

「何時まで隠れているつもりですか?」

 孫の言葉に答える様に京が姿を現す。

「ここまで来れば十分だ」

 二人の視線がぶつかる。

 二人の戦いは回避できないものと思われたその時、両者共に強力な助っ人が入る。

『ここは、私に任せてお前は資料をまとめて逃げろ』

 そう言ったのは、孫の後ろから現れた金色の人狼であった。

金爪コンソウ様、こやつ等程度は、私一人で倒せます」

 孫の主張に、金爪は、首を横に振る。

『残念だが、後の者には、お前では勝てぬ』

「なるほど少しはやるようね」

 十朝が木の影から出て告げる。

「京、ここはあたしがやるから、貴方達は、相手の逃亡を防ぎなさい!」

 十朝と金爪が睨み合う中、孫が悔しげな顔をしながら、後退する。

「待ちやがれ!」

 ようやく追いついた勇一が、追いかける。

 京は頭を下げて言う。

「すいませんがここはよろしくお願いします」

「任せなさい」

 十朝の返事と共に、京も後を追う。

『孫の実力をあてにするしかないな』

 用心深く、間合いを詰める金爪。

「そうね、お互い、下の者の力を信じられるのは心強いわね」

 悠然と答える十朝の言葉に苦笑する金爪。

『我は、異邪九龍の一つ、金爪』

 十朝は、右手を突き出す。

『我は神をも殺す意思の持つ者なり、ここに我が意を示す剣を与えよ』

 十朝の手の中に十朝の戦う意思を固めた剣、神威カムイが現れる。

「八刃のひとつ、神谷の長、神谷十朝まいる」

 両者の激突と同時に、周囲の木々が吹き飛ぶ。



 後方からの爆音を聞いて勇一が呟く。

「神谷の長が戦闘を始めた見たいだぜ」

 京は頷いて言う。

「そうみたいだ、こっちも急ぐよ」

 その次の瞬間、木々が倒れて道を塞ごうとするが、勇一が加速し手を前に向ける。

『我が攻撃の意思に答え、炎よ全てを爆炎に包め、爆炎翼バクエンヨク

 爆炎が障害物を全て排除する中、スピードを落とさず京が走り続ける。

 その前方で舌打ちする孫。

 その時、その孫の足に矢が直撃し、雷撃を加える。

 失速する孫を追い抜く京。

「待て!」

 しかし、京は止まらない。

 急いで追撃に入ろうとした孫の前に勇一が立塞がる。

「お前の相手は俺達だ! 前回の借りは返させてもらうぜ!」

「雑魚が!」

 念動力が放たれる。

『我が闘志に答え、炎よ我が身を包め、闘炎翼トウエンヨク

 全身から炎を噴出して、勇一はそれを弾き、接近戦を行う。

「おまえ自身に対する念動力を防げても、周囲の物は、そうは行くまい!」

 孫の言葉に答えて、周囲の木や岩が一斉に勇一に迫る。

 しかし、それは後方からの矢から生み出された、突風で弾き飛ばされる。

「言ったぜ、俺達が相手だって」

 孫は、自分の視界には入らないが、気配は解る翼の存在に歯軋りをする。

「前みたいに翼に念動力を放っても無駄だぜ。今の翼に隙は無い!」

 殴りかかる勇一。

「良いだろう、お前達から殲滅してやろう」

 勇一の拳を己の力を込めた手で受け止めて孫が言った。

 両者の格闘戦が始まる。



 京が敵のアジトに到着するとそこには、真っ当な人間だったら見るだけで気が狂いそうな魔獣の実験体達が存在した。

 しかし、京は平然とした顔をして、それを検分する。

「ここにあるのは全て失敗作ですね」

 そして奥に行くと、そこに一人の京と同じ年位の女性が捕まって居た。

「誰ですか?」

 そう京に話しかけた女性は、一言で言うならば妖しい魅力を持った女性だった。

「異邪を滅ぼす者です」

 その言葉に、その女性は、安堵の息を放つ。

「ようやく助けが来たのですね?」

 京は頷き、その女性を解放する。

「あなたはどうしてここに?」

 その言葉に女性は辛そうな顔をして答える。

「化物に連れてこられました。他にも何人もの人間が連れてこられて、実験の犠牲に・・・」

 その言葉に京の拳が強く握り締められる。

「僕について来てください。貴方は必ず僕が護ります」

「ありがとうございます。貴方のお名前は?」

 女性の言葉に京は女性殺しの笑みで答える。

「京、白風京です」

 その笑みにその女性は顔を赤くして慌てて言う。

「私の名前は魔磨ママと言います」

 そんな魔磨に手を差し出して京が言う。

「すいませんが、この奥の施設を調べなければいけませんから、ついて来て下さい」

 頷く魔磨を連れて、京は施設の奥に入っていく。



 勇一と孫の戦いは一進一退の状態であった。

 総合力では孫が勝って居たが、間合いを開けた瞬間に襲ってくる翼の矢による援護に苦戦をしいられていた。

「八刃といっても所詮は人間だな。群れなければ何も出来ないな!」

 そんな孫の挑発を勇一は鼻で笑う。

「俺達は一人じゃない。大切な、護りたい奴が居る。だから方法なんてきにしてられっか!」

 一気に間合いを詰める。

「それが人間の限界だ!」

 孫はそう言って、地面を大きく凹ませて勇一の足場を奪う。

「これで終わりだ!」

 孫が、空中で回避行動をとれない勇一に念動力を込めた拳を放つ。

 その時、二本の矢が飛んでくる。

「飛んでくると解れば防げる!」

 孫の言葉通り、孫に当たる軌道の一本の矢は弾かれた。

 しかし、もう一本の矢は地面に当たり、勇一の足場になる様に地面をせり上げていた。

『我が攻撃の意思に答え、爆炎にて全てを切り裂け、暫爆炎翼』

 勇一の必殺の炎の暫撃が孫を捉える。

 激しく吹き飛ぶ孫。

「今のは、効いただろう」

 大きく肩で息をしながら勇一が言う。

 しかしその言葉に孫は反応しなかった。

「よくもよくも人間の分際で!」

 次の瞬間、周囲の物質が粉砕される。

 闘炎翼を纏った勇一も大きく弾き飛ばされた。

 そして孫の瞳が紫に輝く。

『欠片一つ残さず消し去ってやる』

 圧倒的な力に絶望する心を打ち消し勇一が立ち上がる。

「俺は負ける訳には行かない。あいつを護る為にも!」

 両者が死力を振り絞ろうとした時、左腕をなくした金爪が孫の隣に着地した。

『何を遊んでいる!』

 その言葉に、孫が怒鳴り返す。

『あいつを滅ぼす!』

 金爪は絶対的なプレッシャーを孫に向けて言う。

『資料をまとめて逃げろと命じたぞ』

 その一言に、孫の瞳の輝きが衰えて悔しげに言う。

「解りました」

 逃げるように去っていく孫。

 勇一も格の違う相手に動けない状態だったが、そこに足を引きずった十朝が現れる。

「決着をつけましょう」

 その瞳から放たれた闘志に金爪は、首を横に振る。

『残念だが、月が欠けた今、お前には勝てない。ここは逃亡させてもらう』

 金爪はそう言うと、遠吠え一つで百体を越す人狼を呼び出す。

「逃がしてなるものですか!」

 十朝の神威の一振りだけで、人狼達が消し飛ぶが、人狼が居なくなった後に金爪の姿が無かった。

 大きな溜息を吐く十朝。

「逃げられたみたいね」

 そしてアジトの方を向いて十朝が言う。

「後は京くん頼みだね」



 京は施設の最奥のガラスケースの中で浮かぶ、一体の魔獣の欠片を見つけた。

「何なのだ? この異常な力を持った魔獣の欠片は?」

 その言葉にそこに居た常人とは異なる肌色をした存在、異邪が答える。

『これは、終末の獣の欠片。紫頭様が紫縛鎖シバクサと呼ばれる邪神から授かった物と聞いています』

 京が睨み言う。

「前回の魔獣はこれをベースにしていたのか?」

 その異邪は嬉しそうに答える。

『その通り。終末の魔獣の欠片を用いれば無限に増殖する魔獣を生み出す事が出来る。そしてその為にはこの欠片を成長させる必要があるのだが、その為には人の邪心が必要なのだよ。そして今この世界は大きな戦争をしている。その戦争が生み出す邪心こそが、今この終末の獣を育てている』

 その言葉に京が察した。

「まさかお前達がこの戦争を起こしたと言うのか?」

 その言葉に高笑いをする異邪。

『我々はただ背中を押しただけだよ。過剰な干渉をしようとすれば即座に戦争を司る八百刃に気付かれる。八百刃に気付かれず戦争を拡大化させるのは苦労したよ』

 京の瞳から感情が消える。

「お前等を全て消滅させる!」

 高笑いを続ける異邪。

『たかが人間は超越者である我等に敵うと思っているのか!』

 凄まじい雷撃球が京に放たれる。

 京は前方に円を描く。

『我が意思に答え、白き風よ、雷を産め、白雷ハクライ

 白い雷撃と異邪の雷撃がぶつかる。

『人間の力が我等に通用するか!』

 異邪の確信とは反対に雷撃球が次の瞬間、白い雷撃に飲み込まれる。

『馬鹿なたかが人間が超越者である我が力に勝てる訳が・・・』

 言い終わる前にその異邪は、白い雷撃によって滅び去った。

 魔磨の顔に驚愕の表情が浮かび、一歩後退する。

 そんな魔磨に京は振り返って言う。

「怖がっても良いですよ。僕達は戦う為に人である事を捨てた人間ですから」

 その寂しげな表情に魔磨は何もいえなくなる。

 直ぐに京は終末の獣の方を向いて言う。

「これだけは滅ぼさないといけません」

 そう言って、力を溜め始めた時、魔磨の悲鳴があがる。

「京さん助けて!」

 京が舌打ちしながら振り返ると、魔磨を捕まえた孫が居た。

「それだけは渡すわけには行きません」

 両者がにらみ合っている時、金爪が現れて言う。

『孫、必要な資料は、回収したな?』

 その言葉に孫が頷くと、金爪が終末の獣の方に力を込めると、終末の獣は縮小して金爪の手の中に納まる。

『この施設は諦める』

 そして消えていく金爪。

「待て!」

 叫ぶ京に孫は魔磨を投げつける。

 咄嗟にそれを受け止める京に向って孫が強い意志を籠めて言う。

「次に会った時、それがお前等の滅びる時と思え!」

 消えていく孫。

 京は、魔磨を護りながら周囲の気配を探る。

「完全に逃げられたわ」

 やって来た十朝の言葉に京が歯軋りをする。

「奴等だけは絶対に許さない!」



『今回の失敗をどう償うつもりだ?』

 異邪神の前で紫頭が言う。

 金爪は、何も反論しない。

『あの施設にどれだけの力を割いたと思っているのだ!』

 紫頭が更なる追求をした時、その場に魔磨が現れる。

「よくそんな事は言えるわね、自分の息子の不甲斐無さを棚に上げて。私がフォローしなければ貴方の息子は終末の獣を持ち帰る役目すらまっとう出来なかったのよ」

 その言葉に、後ろで控えていた孫が悔しげに拳を固める。

『それとこれとは話が違う!』

 紫頭が更に反論しようとした時、異邪神が命じる。

『そこまでだ。今回の件は、不問とする』

 その言葉に金爪が頭を下げる。

『この償いは、戦いでします』

 その言葉に頷く異邪神。

『それより魔磨。何のためにあそこに居た』

 魔磨は不敵な笑みを浮かべて言う。

「お父様、私は良い事を思いつきましたの。八刃は、異邪を感じ取る能力は高いですが、私たちを感じとる事は難しいみたいです。ですから私が相手の懐に入り、内部から攻撃するのです。いい手でしょ?」

 魔磨の言葉に少し考えてから異邪神が言う。

『まあいいであろう。しかし深入りはするな、お前に万が一の事があってはかなわないからな』

 魔磨が笑顔で言う。

「大丈夫です。私はお父様の娘ですもの」

 そして異邪神は手の中にある終末の獣の欠片をかかげて言う。

『この終末の獣の力が生み出す、空間の歪みこそ我等が欲するものなり。この世界と異世界を繋ぐ門を開く鍵。その為に人間の争いを更に助長しろ。そして異界との扉を開けるのだ!』

 その言葉に、その場に居た全員が頭を下げる。



 世界大戦は、決して止まらずそして加速していった。

 そしてそれが、異空門を開ける為の物である事を知るものは殆ど居ないのであった。

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