第9話 聖女の画策と火花散る三者面談
『灼熱の洞窟』から戻った俺は、一躍、ギルド内で注目を集める存在となっていた。
「あの新人、レベル1の『模倣者』だろ?あいつが、カエデの姐さんとルナの氷結魔法を足止めするトカゲを、炎の拳で粉砕したってマジか?」
「炎と身体強化を同時に使うんだと。あんなの、前代未聞だぜ」
俺の能力に対する評価は、「幻のゴミスキル」から「究極の変則チート」へと完全に変わっていた。
カエデはそんな俺を誇らしげに連れ回し、勝利の祝杯をあげた。
「祝杯だ!ユウト!これで俺たちはもう一段階上の依頼に挑める!アンタはこれから、俺の右腕、いや、最高の武器だ!」
カエデは豪快に笑いながら、俺の肩を抱き寄せ、酔った勢いで頬にキスをしてきた。ギルド中が歓声と口笛で騒然となる。俺は真っ赤になりながらも、彼女の熱情的な好意を全身で受け止めるしかなかった。
その日の夜、ルナから秘密の呼び出しを受けた。場所は、ギルドから離れた、誰もいない夜の噴水広場。
「馬鹿ね、カエデ。あれで、貴方が魔力を過剰に使っていることに気づかないなんて」
ルナは、昼間のカエデの行動を冷たい目で非難した。
「ユウト、貴方の『炎の掌握』は強力だが、魔力の制御が非常に不安定よ。あの炎を身体に纏う行為は、普通の魔導士なら自滅行為だわ」
ルナは、氷結魔法を扱う自身の経験を元に、魔力の圧縮と流れの指導を始めた。
「いい?『コピーキャット』の真の価値は、スキルの複合にある。でも、その複合を可能にするには、細部にわたる魔力制御が不可欠よ」
彼女は、自身の青い魔力を、まるで水のように扱い、空気中に繊細な魔法陣を描き出して見せた。その指導は厳しく、知的で、俺の能力を最大限に引き出そうとする強い欲求に満ちていた。ルナの俺への関心は、もはや**「研究対象」を超え、「自分が育て上げたい傑作」**へと変わっていた。
そして翌朝。
俺がギルドに向かおうとすると、リリアが神殿の馬車に乗って現れた。その顔は、いつになく真剣で、どこか決意を秘めていた。
「ユウトさん、ギルドには行かないでください。すぐに神殿へ向かいます」
「どうしたんですか、リリアさん。何か緊急の用事ですか?」
「はい。神殿長にお願いし、特例として、貴方を神殿の『聖務補佐官』として迎え入れる許可を得ました」
俺は驚いて言葉を失った。聖務補佐官?
「リリアさん、それは…」
「聖務補佐官になれば、貴方はもう、危険なダンジョンに行く必要はありません。街の防衛や、聖なる儀式の手伝いなど、安全な仕事だけで生きていける。それに…」
リリアは目を伏せ、小さな声で続けた。
「貴方がカエデさんたちといると、本当に危険なんです。昨日、カエデさんが貴方にキスをしたのを見ました。ルナさんも、夜中に貴方を連れ出しているでしょう?」
彼女は顔を上げ、強い意志を込めた瞳で俺を見た。
「私は、貴方を戦闘の道具として扱わせたくないんです。貴方には安全に、そして穏やかに、この世界で生きていってほしい」
聖女による、究極の防御魔法――それは、俺を戦闘から引き離すことだった。
その時、角からカエデとルナが現れた。俺とリリアの会話を、偶然、あるいは意図的に聞いていたのだろう。
カエデが激しい口調で叫んだ。
「何言ってやがる、シスター!そいつは俺たちのパーティーの人間だ!勝手に神殿の囲いに入れようとすんじゃねえ!」
ルナも冷たく言い放った。
「馬車をお下げなさい、リリア。彼のスキルは、安全な場所で腐らせるべきではない。彼の可能性を潰すのは、神への冒涜よ」
「黙りなさい!貴方たちこそ、彼の命の危険をなんとも思っていない!ユウトさんは、もう十分に戦ったでしょう!」リリアが珍しく声を荒げた。
聖女の献身的な愛、戦士の情熱的な独占欲、魔導士の知的な探求心。
俺を巡る三人のヒロインの思いが、この街の片隅で激しく火花を散らし始めた。
俺は、優しさという名の籠に閉じ込められるか、それとも危険な道を進んで彼女たちの期待に応えるか、という究極の選択を迫られていた。




